『最貧困女子』(幻冬舎新書)

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 格差社会、子どもの貧困、貧困の連鎖。ここ数年、これら貧困が大きな社会問題となっている。同時に女性の貧困もさかんに取り上げられるようになり、なかでも今年1月に初回放映された「あしたが見えない〜深刻化する"若年女性"の貧困〜」(『クローズアップ現代』NHK総合)は大きな話題となった。また、この問題を取り扱う書籍も多く出現している。

 しかし貧困女性の存在がメディアなどで取り上げれば取り上げられるほど、そこから"除外"される女性たちがいる。それがセックスワーク(売春や性風俗産業)に埋没する「最貧困女子」だ。

 その実態を描いたルポ『最貧困女子』(幻冬舎)は、衝撃的だ。著者は犯罪現場の貧困をテーマに、裏社会や触法少年・少女たちを取材し続ける鈴木大介。本書が衝撃的なのは、セックス産業に従事する貧困女性の問題はもちろん、それ以上の"タブー"にまで踏み込んでいるからだ。

 それは「精神障害・発達障害・知的障害」である。

「これを挙げることは差別論に繋がりかねないので慎重を要するが、これらの障害は『三つの無縁』(家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁)の原因ともなっている、無視できない問題だ」

 たしかに、精神障害は貧困や売春とともに語られることも少なくはなかった。しかし、知的障害にまで踏み込もうとした貧困ルポはほとんどないと言っていい。本書はこのタブー視されている問題に切り込んでいく。

 著者は何人もの貧困女性に話を聞いている。例えば、最終学歴が高校中退の小島さん(仮名/23歳)。家賃を滞納してネットカフェ難民になっていた。時給900円のバイトで食いつないでいる自らを「対人恐怖症? 視線恐怖症かな、わたし人と目があうとパニックみたいになるんで」と語る女性だ。

 幼少時からそりが合わなかった母親は、彼女が高校3年生の時、父親の死をきっかけに「愛犬を連れて家を出た」。母親から捨てられた彼女は、その後必死でアパートを探したが、結局家賃滞納で逃げ出した。闇金からも借金をしているという彼女に緊急性を感じた著者は、生活保護やゲストハウスなど様々な方法を説明する。手続きを手伝い、転居費用も無利子で貸してもいいとさえ思った。しかしそうした説明も彼女にはぴんとこない。

「どうにもこうにも小島さんの脳には言葉が染み込んでいかないようだった」

 その実感が、事態の複雑さを表している。小島さんは、生活保護に関しても、連絡先さえ知らない兄たちに迷惑をかけたくないとかたくなだ。保護を受けるのに「迷惑をかけることはない」といくら説明しても伝わらない。彼女を食い物にしようとする闇金業者に対して「恩人」だとさえ言う。そして3週間後、彼女は失踪した。

 貧困問題は未婚女性だけのものではない。母親たちも蝕まれている。2児を持つシングルマザーの清原さん(仮名/29歳)。出会い系サイトの売春で生活している。親から身体的虐待とネグレクトを受けていたと思われる彼女は、身長は150センチ未満で、丸々と太っていた。風俗店の面接でも「整形とダイエットをしてから出直せ」と怒鳴られた。精神科に通い「泣き叫ぶ子供たちの前で(手首を)切っちゃうこともある」という。

 著者は、彼女たちを取材していくうちに、貧困とセックスワーク、そして障害との関係は無視できない問題だと捉えるようになった。そして"明確"に知的障害を抱えているという女性たちへの取材を試みる。しかし、それは困難を極めた。

 例えば、出会い系サイトで口腔性交をしているという23歳の女性は、生育歴も話せず、住民票という言葉の意味も理解できなかった。つまり「会話も困難」だったのだ。

 だが、女性たちを搾取する側の話を聞くと、彼女らがおかれている残酷な状況や、周囲がどんなひどい扱いをしているかがわかってくる。

「いわゆる三大NG現場(ハード SM、アナル、スカトロ)にいる。特にスカトロのAVに出ている女優の半数は知的障害だ」(AVモデル関係者)
「障害のある女性を金にするなら乱交がいい。乱交イベントの企画業者はまだまだたくさんあって、普通の女性は精神的に壊れる前に肉体的に壊れるが、障害者の女は頑丈」(援デリ業者)

 しかし、こうした女性たちは、行政や福祉を頼らないし、また、頼れることも知らない。ときには行政に不信感や敵愾心すら抱いているケースもある。そうしてセックスワークに「捕捉」されていくのだ。

「いわゆる手続き事の一切を極端に苦手としていた。(略)行政の手続き上で出てくる言葉の意味がそもそも分からないし、説明しても理解ができない」

 婦人保護施設の関係者によれば、「彼女たちは継続的な支援をするのが難しい対象」のようだ。困窮したりトラブルがある時だけ施設を利用し、ふといなくなってしまったりするのだという。

 最もケアすべき存在であるはずの彼女たちは「安直に福祉の対象として想像するような、『おとなしくちょんと座って救済を待っている』障害者」ではない。かなり重度の障害を持っていても、福祉から外れ、セックス産業で生計を立てている。著者は考え込む。

「知的障害の作業所で小銭を貰うのか、自分の力で稼いでおしゃれするのか? 知的障害の子だっておしゃれはしたいし遊びたい」

 貧困問題を語る時、しばしば「自己責任論」なる論理が跋扈する。だが著者は、それは「戯言」であり、「自己責任論など、絶対にさしはさむ余地はない」と言い切る。

 他にも本書では、未成年少女たちの貧困、ソフトヤンキー、セックスワーカーの間での格差など、様々な「最貧困女子」の問題が取り上げられている。しかしその中でも障害、特に知的障害とセックスワークの関係は考えさせられるものだ。

 その現実を直視することは、絶対に必要不可欠なことだ。たとえタブーであったとしても。だからといって、問題がすぐに解決なんてするわけがないし、本書もその明確な解決策を提示しているわけではない。しかし、貧困を「哀れみと上から目線」で語るよりも、よっぽどまともだ。

「『最貧困女子』を、忘れないでほしい。見捨てないでほしい。見下さないでほしい」

 著者のこの言葉こそ、問題の本質を衝いている。
(林グンマ)