日本代表の「10月シリーズ」は、岡崎慎司にとって大きな意味を持つに違いない。

 ザックジャパンでは、右サイドハーフが定位置。しかし、所属するマインツでは1トップを務め、昨季は15ゴールをマークした。その中で岡崎は、真ん中で自由に動き回り、相手センターバックと駆け引きしながらゴールを奪う術(すべ)を体得。そのため、アギーレジャパンでは、「センターフォワードにこだわりたい」と公言していた。

 9月シリーズの最中にも、「コーチには希望を伝えたので、監督にも伝わっていると思う」と語っていたが、アギーレジャパン初陣のウルグアイ戦では左ウイングでの先発。ベネズエラ戦の後半はセンターフォワードを務めたものの、ベンチスタートだった。だが、その希望が監督にしっかりと伝わったのか、今季もマインツでここまで5ゴールを奪い、得点ランクのトップに立つ好調さが買われたのか、10月シリーズでは2試合ともセンターフォワードで先発起用されたのだ。

 その10月シリーズ、ジャマイカ戦に続く2試合目となった、シンガポールでのブラジル戦。チームは0−4で敗れたが、及第点に値する数少ない選手が岡崎だった。大柄なセンターバック、ジウを向こうに回してボールをキープし、鋭い身のこなしでディフェンダーを振り切るシーンもあった。

 ニアに飛び込み、酒井高徳(DF/シュツットガルト)のクロスに頭を合わせた35分のシーンは、岡崎ならでは。田中順也(MF/スポルティング・リスボン)の浮き球パスに反応して右足でシュートを放ち、バーに弾かれた55分のシーンは決めておきたかったが、フィニッシュへと持ち込む動きには鋭さがあった。そもそもチャンス自体が少なく、サポートも少ない状況の中、よくフィニッシュまで持ち込んだという見方もできた。

 もっとも、そんな慰(なぐさ)めは、岡崎にとってなんの意味もなさないようだ。

「2回チャンスがあったわけで、それを決めるか、決めないか......。大事なところで点が取れなければ、フォワードではない。こういう相手とは、均衡したスコアでゲームを進めなければならないし、その中でチームが『いけるぞ』と思うようなことをしなければならない。起点になるなどいろいろあったけれど、結局は点が取れていない。フォワードがチームを助けるには、ゴールを奪うしかない。そこを突き詰めていきたい」

 試合後のミックスゾーンで発した言葉の端々には、悔しさがにじんでいた。

 岡崎は、ブラジルワールドカップでの戦いを強く反省している選手のひとりだ。

「これまでの4年間は、どちらかと言うと、どんなサッカーをするかを大事にしがちだった。でも、これからはそうじゃなくて、勝つことに対してもっと貪欲にならないといけないと思っている」

 相手が強豪だろうと、どこだろうと、勝つためにはどうすればいいか――。考え抜いて辿り着いたのが、「これまでと逆のことを追求してみる」ことだった。

「これまでやってきたことを捨てるわけではないけれど、一度、逆のことを追求してみないといけないと自分は思っているんです。今までやってきたことを頭に入れつつ、ある程度引いて守ってもいいから、勝ちを取りに行く。そういうことを追求していくべきなんじゃないかって自分は思っています」

 スタイルにこだわるのではなく、相手によって戦い方を変え、相手の嫌なところを突いていく。粘り強く守ったり、我慢強く戦ったりしながら、数少ないチャンスをモノにして接戦を制していく――。それは、アギーレ監督が思い描く戦い方でもある。

 そんな岡崎にとって、数少ないチャンスをモノにできず、粘り強くも守れず失点を重ねたブラジル戦は、悔しさがつのるものだったようだ。相手を封じ込めるようなサッカーをしなければならないのに、前掛かりになり、ショートパスで引っ掛けられたり、不用意に手数を掛けたところで奪われ、カウンターのピンチを招いた。岡崎はそれを、「以前のようなサッカーになっている」と言った。

「結局、人数を掛けて攻撃しているときに奪われて、カウンターからスルーパスを通されてやられてしまっている。それが残念。相手が前に3人残っているのに、こっちも後ろが3人ぐらいしかいない。そうではなく、後ろに5人ぐらい残しておけば、いったん引いてしまうことができる。それには前が2、3人で勝負しなければならないから、個の能力を上げないといけない」

 ザックジャパンのときは、相手が格上でもチャンスの数を増やすことでゴール数を増やし、勝利を目指した。一方、アギーレジャパンがしようとしていることは、その逆。格上相手にチャンスを与えず、ワンチャンスをモノにして勝つことを目論んでいる。

 それには、センターフォワードである自分が数少ないチャンスを決めないことには成り立たず、フォワードがしっかりゴールを決めなければ、チームメイトは割り切って守れないことを岡崎は分かっている。世界における日本の立ち位置と同様、ブンデスリーガで決して強豪とはいえないマインツでゴールを量産しているという自負もある。

「リスクマネジメントをもっと強くしないといけないし、逆に点を取るべきチャンスに取らないと。フォワードとしてはそこしかない。そこに尽きると思います」

 岡崎は、「自分たちは歩み始めたばかり。何も変える必要はない」ときっぱりと言った。アギーレジャパンを背負う覚悟が、今の岡崎慎司にはある。

飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi