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フランスのアリアンスペースは2014年8月22日、ロシアから輸入したソユーズST-Bロケットを使い、欧州版GPSこと「ガリレオ」を構成する衛星2機を、南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから打ち上げた。ロケットは順調に飛行したかに見え、アリアンスペースは「打ち上げ成功」と発表した。

しかしその後、ガリレオが計画から大きく外れた軌道に投入されていることが判明し、アリアンスペースは「打ち上げで問題が発生した」と発表を修正。欧州宇宙機関(ESA)と欧州委員会と共同で独立調査委員会を立ち上げ、またロシア側とも共同で原因の究明に当たるとした。

その結果が10月8日に発表された。それは「フレガートの設計ミス」というものであった。

○フレガート上段

まず最初に注意しなければならないのは、今回打ち上げに失敗したロケットの名前は「ソユーズST-B」と呼ばれているが、「ソユーズ・ロケット」が失敗したわけではないということだ。今回打ち上げられたロケットの名前を正確に記すと「ソユーズST-B/フレガートMT」であり、問題を起こしたのはフレガートMTのほうだ。ソユーズST-BとフレガートMTの両者は単に結合されて飛行するだけで、システム的にはそれぞれ独立している。また製造をしているのも、ソユーズ2.1bはRKTsプラグリェースで、フレガートMTはNPOラーヴォチキンであり、それぞれ別会社である。

フレガートはソユーズやゼニート・ロケット向けび開発された上段だ。上段(Upper Stage)とは、ロケットと衛星の間に搭載されて、ロケットからの分離後にその衛星を最終的な目的地である軌道へ送り届ける役目を持つ。ロケットの最終段(もしくは最上段)とも見なせるが、多くの場合ロケットから独立したシステムを持っており、それ単体がひとつの別な宇宙機と見なせる造りになっている。また、エンジンの再点火が可能で、例えば複数の衛星を、複数の異なる軌道へ投入したり、何度も軌道変更を必要とするような複雑な軌道への投入が可能であったりといった特長を持つものが多い。

フレガートは6個の球体を円状に並べた、ポン・デ・リングのような外見をしており、このうち4個に推進剤が、残りの2個に電子機器が収められている。推進剤には非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素が使われている。カタログスペックでは、最大3日間の軌道滞在と、20回以上ものエンジンの再着火が可能とされている。

また推進剤タンクの容量などによっていくつかの種類があり、ソユーズST-Bに使われているのはフレガートMTと呼ばれ、球形の推進剤タンクに、さらに小さなタンクを外付けすることで推進剤の搭載量を増やしたものだ。

フレガートはこれまでに47機が打ち上げられ、今回以外に2度の失敗を起こしている。最初は2009年5月21日、ロシアの軍用通信衛星「メリディアーン2」を打ち上げた際に起き、第2回の燃焼が計画より早く停止するという問題が発生し、予定していた軌道に投入できなかった。ただし衛星側のスラスターで挽回は可能であるとされ、打ち上げは成功と発表された。原因は飛行プログラムのパラメーターの入力ミスで、第1回と第2回の燃焼の間に、推進剤を計画より多く使ってしまったためであると結論付けられている。

2回目の失敗は2011年11月8日の火星探査機「フォボス・グルント」と「蛍火一号」の打ち上げにおいて起き、ゼニート・ロケットからの分離後、フレガートのエンジンが点火せず、軌道を脱出して火星に向かう軌道に乗り移ることができなかった。ただしこの時使われたフレガートは、フォボス・グルントと一体となった構造をしており、また推進剤の搭載量を増やした「特注品」であり、さらにトラブルの原因も探査機内のコンピュータにあったと推定されているため、フレガートそのものの失敗とは言いがたい。

なお公式には発表されていないが、2006年と2007年には、飛行中において、バルブの故障によって推進剤タンクを十分に加圧できない状態になったとされる。ただし予定の軌道にたどり着くことはできたため、双方とも打ち上げ自体は成功している。

○原因は設計時のミス

それでは、今回のガリレオの打ち上げ失敗はどのようにして起きたのだろうか。

今回のミッションでは、ロケットの離昇から約9分後に、ソユーズの第3段から、フレガートMTと衛星とが結合した状態で分離される。その後、フレガートMTは1回目の燃焼を開始し、約13分後に燃焼を停止する。そして約3時間にわたって慣性飛行を行い、再びフレガートMTのエンジンを点火、そして約5分後に燃焼を停止し、衛星を分離する、という流れになるはずだった。

発表文によれば、その約3時間の慣性飛行中に、姿勢制御スラスターにつながるヒドラジンの配管が凍って詰まり、姿勢制御スラスターのうち2基が動かなくなってしまったという。それにより、フレガートMT自身が認識している姿勢の状態と、実際の姿勢とに狂いが生じ、その状態で第2回の燃焼を始めたために、誤った方向に向かって飛行することになった。その結果、予定していた軌道に衛星を送り込むことができなかったとされる。

そして調査によって、ヒドラジンの配管が、加圧用の極低温ヘリウムの配管と、アルミニウム製の支持構造物(クランプ)を介してつながってしまっており、熱伝導によってヒドラジンの配管が冷やされてしまったためであるとのことだ。

そして、このようなことが起きた原因は、設計図の表現が曖昧で、本来あってはならない組み立てが可能であるように書かれていたためであるとされている。

宇宙専門誌『SpaceNews』が報じたところによれば、欧州とロシアの調査団がラーヴォチキンの工場を訪れた際、すでに生産されていた複数のフレガートのうち、4機に1機の割合で、今回同様の誤った組み立て方をされたものが見つかったという。またロシア側独自の調査によれば、15機中3機に起きていたとされる。つまり正しく組み立てられたものと、そうではないものが、1/4から1/5ほどの確率でランダムに生産されていたということになる。

『SpaceNews』はまた、欧州側の高官の話として「おそらく過去10年にわたり、1/4の確率で今回のような間違った組み立てをされたフレガートが飛行していたはずだが、慣性飛行の時間が今回ほど長くはなく、ヒドラジンの配管が凍る前にミッションが終わったりといった理由で、今までの打ち上げに影響が出ることはなかったと考えられる」という見方を伝えている。つまりアリアンスペースは今回、運悪く「ハズレ」を引き当ててしまったうえに、さらに運の悪いことに慣性飛行の時間が長いミッションで使ったことで、ついに事故に至ったということだ。

またアリアンスペースの発表文によれば、すでにラーヴォチキンではフレガートの熱設計の修正と、設計図の修正、また製造、組み立て、検査における手順書などの文書の修正などといった対応が始まっているという。

アリアンスペースの代表取締役会長兼CEOのステファン・イズラエル氏は発表文の中で「早ければ2014年12月にも、ギアナ宇宙センターからのソユーズの打ち上げを再開したい」と述べている。ただ、『SpaceNews』などによれば、この12月の打ち上げでは、ガリレオではなく、別の衛星が搭載されるだろうとしている。

○今後の影響

今回の事故は、以前から多くの専門家によってなされてきた「ロシアの宇宙技術力は低下している」という指摘を裏付ける一例となった。

独立調査委員会の見解によれば、今回の事故はあくまで設計時のミスであり、昨今のプロトン・ロケットの失敗の折に指摘されているような、技術力や品質管理能力の低下とは異なる問題であり、マニュアルなどの修正のみで十分としている。

また、報告書には「ソユーズ・ロケットの故障ではない」と強調して書かれてあり、今回の失敗はあくまでフレガートMTのみ、またラーヴォチキンのみに原因があるとしている。

だが、それでもロシアの宇宙開発全体の信頼性やブランドに影響を与えることになったのは間違いない。また、フレガートは今まで比較的失敗が少なかったことから、ロシア全体としての宇宙開発の技術力、やはり衰退しているということも示唆している。

これからフレガートには、信頼の回復に向け、長い道のりが待っている。前述のように、ギアナ宇宙センターからのフレガートを積んだソユーズの打ち上げ再開は今年12月に、またロシアからのフレガートの打ち上げは11月に予定されている。まずはこれらの打ち上げが成功するか、そして今後も打ち上げ成功を続けることができるかが鍵となる。

一方の欧州にとっても、今回の事故はいくつかの変化を呼び起こすかもしれない。

例えばガリレオは、ソユーズと、欧州製のアリアン5 ESロケットの両方を使って打ち上げられることになっているが、今後アリアン5 ESのみを使うという方向に傾く可能性はある。

またソユーズは、フランスの偵察衛星などの打ち上げでも使われているが、安全保障に関する衛星をロシア製ロケットに依存するのは好ましくないという声がかねてよりあった。今回の事故を受けて、その声はより強くなるだろう。

現在、欧州ではアリアン5の後継機としてアリアン6の検討が進められているが、最新の検討状況によれば、固体ロケットブースターの本数によって、重量型と軽量型の2つのバリエーションを持つ機体になるとされる。将来的には、この軽量型がソユーズの代替となる可能性もある。

参考・・・・・

2014年10月20日追記:記事掲載当初、「今後の影響」の項の内容に誤りがございましたので訂正させていただきました。

(鳥嶋真也)