太田宏介 (撮影/岸本勉・PICSPORT)

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 サッカー王国を相手に新戦力の見極めをするとは、何とまあ贅沢である。10月14日に行われたブラジル戦で、ハビエル・アギーレ監督は国際経験の少ない選手を大量にスタメンで起用した。

 ブラジルW杯で全3試合に出場した選手は、川島と岡崎しか先発に名を連ねていない。ブラジルW杯の代表まで条件を拡げても、森重と酒井高が加わるに過ぎないのだ。
 
 とはいえ、ブラジル戦のキックオフをベンチで迎えた11人も、ザッケローニ前監督の指揮下とは様変わりしている。長友と本田が先発したところで、テスト的色彩が色濃いのは変わらなかっただろう。日本に馴染みのないアギーレ監督が就任した時点で、年内のテストマッチが選手の見極めに費やされるのは避けられない。

「横一線からのスタート」を強調するメキシコ人指揮官は、すべてのポジションで2人以上の選手を使っている。今回のブラジル戦で、左サイドバックも2人目の選手が登場した。太田宏介である。

「明日もしチャンスがあったら、いままでどおりというか、いつもやっているような感じでできればいいなと思います。ジャマイカ戦で少しの時間ですけどピッチに立ったのは、自分のなかで大きかったことで、それもあって冷静にいられている。ジャマイカ戦に出ると出ないでは、ブラジル戦を前にした気持ちが全然違ったと思うし、ピッチのなかでしか分からないことを味わえたのは大きいです」

 ブラジル戦前日の練習を終えた太田は、額にうっすらと汗を浮かべながら話した。「湿度がすごいから汗もすごくて」と苦笑いをこぼす。「出番があるかどうかは、分からないですね。明日の直前のミーティングまで」と続けるが、ピッチに立つイメージは出来上がっていた。

「監督はリスクをかけるのが嫌いだと思うので、自分だったら裏のスペースを簡単に使われないように注意したい。基本的なことをしっかり、忠実にこなすのが大事だと思う。まずは守備を100パーセントやらないと。そのうえで、うまくチャンスに絡めたら。いいクロスを上げられるかどうかは自分次第なので、ガンガン勝負していきたいですね」

 強気な一面ものぞかせた表情には、ブラジル戦を終えると厳しさが滲んだ。

「やっぱり1本のミスが失点につながっているし、内容的にもチャンスはありましたけど、0対4という結果が物語っている。ブラジルはカウンターが鋭いし、ひとつのミスが失点につながると痛感しました」

 ブラジル相手にビハインドを背負う展開で、サイドバックが攻撃に出ていくのは難しい。ましてや日本は、前半からカウンターの脅威にさらされていた。敵陣へ飛び出すことに、ためらいが生じてもおかしくない。

 慎重さと大胆さのバランスを取りながら、太田はいくつかのチャンスを作り出した。23分に小林が放った左足ボレーは、彼のクロスがきっかけである。背番号21のクロスは、後半終了間際にも柿谷のヘディングシュートを引き出した。

「少ないチャンスのなかでも自分の形は出せたと思うし、クロスはまあ、出せたかなと」

 スタメンの予感はあった。非公開の前日練習で感じていた。「ワクワクした気持ちがありつつも、冷静にいられて。試合までの時間も、いつもと変わらない過ごし方ができた」

 デビュー戦ということを考えれば、ブラジル戦のパフォーマンスは悪くなかっただろう。とはいえ、代表定着に当確の印がついたわけではない。長友がファーストチョイスに座り、両サイドに適応する酒井高がバックアップ役となるザックの序列は、このチームにもひとまず持ち込まれている。

 となれば、太田自身が見せていくしかない。「相当自信を持っています」と言葉に力を込める左足のクロスで、チャンスを作り続けていくのだ。

「こうやって代表で試合に出させてもらうことをこれっきりにしたくないし、帰ったらほかの選手との違いを出さなきゃいけない立場になる。アピールを続けないとこのチームには居られない立場なので、とにかく今週末のリーグ戦から自分のプレーを出せるように。コンディションはいいので」

 ブラジル戦の先発は物議を醸したが、選手がブラジルをリアルに体感できたのは事実だ。そもそも勝てる確率のきわめて少ない試合であり、だからこそ選手が何を感じるのかが大切だった。FC東京の背番号6に戻る太田のプレーが、楽しみになってきた。