【うちの本棚】232回 星に住む人びと/樹村みのり

写真拡大

 「うちの本棚」、今回は樹村みのりの『星に住む人びと』を取り上げます。

 ある意味、樹村みのりという作家の特徴を凝縮したような作品集であり、樹村みのりを知らないという方にはぜひ読んでいただきたい一冊でもあります。

【関連:231回 土井たか子グラフィティ/樹村みのり】

星に住む人びと/樹村みのり

 70年代後半は少女漫画というジャンルにおいて、さまざまな作品が登場してきた時期だと思う。恋愛をテーマに置いていても、そのアプローチの仕方にはそれまで見られなかった手法や構成が取られていたり、恋愛よりも少女、いや女性の生き方ということに主眼がおかれていたり、心理学や哲学、思想といった味付けがなされていたり、なんといってもSFというジャンルが少女漫画に定着した時期だということは確実だ。そんな時期にあって、樹村みのりという作家の作品は文学的な匂いがしていたと思う。

 絵柄的にも一見して硬さがあり、ある種感情移入を拒否しているような印象すら受ける。少女漫画一般に見られる華やかさが樹村みのりの作品にはあまり感じられないというのが正直な感想だ。だからといって読みにくいとかいうことではなく、その分ストーリーに集中できるという気がする。またテーマであったり作者の言いたいことを伝えたいという思いが作品全体から伝わってくるというのも、文学的と感じるところである。

 本書はそんな樹村みのりが1975年から77年にかけて発表した作品を集めたもの。カバー折り返しの作者のコメントでは「親しくしていたのに、何かのつごうでとぎれて以来、長いこと会わなくなっていた友人に、また出会ったような」とある。本書の刊行時には発表から10年以上が経過した作品ばかりであるから、その思いも頷ける。

『ローマのモザイク』は作者自身のローマ旅行を元にした「やや真実(単行本中の作品コメント)」な旅行記。気軽に読めるという点では収録作品の中では一線を画すものかもしれない。
『早春』は、成人した主人公に中学時代の友人から電話がかかってくるところから始まり、中学時代の思い出が語られるストーリー。女同士の友情を描いているのではあるけれど、その思いは恋愛にも似ていて…とはいっても決して百合な話ではないので誤解のないように(いや、なんとなくその匂いもあるか…)。
『姉さん』は母と姉の3人暮らしの中で、自分だけがどこか違うと感じて育った主人公の物語。
『水の町』は昔話を下敷きに、主人公と住み込みで働く女性の成長を描いたもの。
『わたしたちの始まり』は、転向してきた男の子に、直感的に何かを感じた主人公を描いたもの。高校生になってから中学時代を振り返る構成は『早春』に似ている。
『星に住む人びと』は、『わたしたちの始まり』と同じ「光へ向かう風・海へ向かう流れ」というシリーズの2作目。『わたしたちの始まり』にも登場するキャラクターが出てくるが、同一人物かどうかは定かではない。
『ローマのモザイク』を除くと、なにか強い意思を持った女性を描いているというのが収録された作品に共通する。「自分は他人とはどこか違う」「自分らしい生き方をしたい」そんな登場人物たちが描かれていて、その後社会一般でよく使われるようになる「自立した女性」を描いていたのかもしれない。

 清原なつのの「花岡ちゃん」シリーズや奥友志津子の「星子」シリーズもそういった趣は見られたが、樹村みのりほど正面からテーマを見据えてはいなかっただろう。そういった面でも樹村みのりの作品が文学作品的な匂いを感じさせていたのだと思う。

 ところで、個人的なことだが『わたしたちの始まり』が、樹村みのり作品を読んだ最初のものだったと思う。登場する人物に何とも言えない共感を持ち、樹村みのりという漫画家の名前も強く印象に残った。作中、登場人物のひとりが学校の窓ガラスを素手で割るシーンがあるのだが、これを読んでしまっていたので尾崎 豊の唄がパクリにしか思えず、いまだに好きになれない。

初出:ローマのモザイク/小学館「別冊少女コミック」1975年2月号、早春/集英社「りぼんデラックス」1975年春の号、姉さん/小学館「別冊少女コミック」1976年6月号、水の町/秋田書店「プリンセス」1977年5月号、わたしたちの始まり/小学館「別冊少女コミック」1975年9月号、星に住む人びと/小学館「別冊少女コミック」1976年11月号

書 名/星に住む人びと
著者名/樹村みのり
出版元/秋田書店
判 型/新書判
定 価/370円
シリーズ名/BONITA COMICS
初版発行日/昭和57年10月10日
収録作品/ローマのモザイク、早春、姉さん、水の町、わたしたちの始まり、星に住む人びと

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/