AV業界の裏話を赤裸々に描いたコミックエッセイ『セクシー女優ちゃん ギリギリモザイク』。著者は『アラサーちゃん』の峰なゆか。面白く読んでいるなかでも、ときおり引っかかる部分がある。

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「みんなが気になるAVのすべてをこの一冊にまとめました! だからもう二度と私に質問するな! めんどくせーから!!」

AV業界を漫画にした『セクシー女優ちゃん ギリギリモザイク』は、元AV女優のライター&漫画家の峰なゆかが業界を赤裸々に描いた本だ。
「AV業界のギャラっていくらなの?」「疑似ってどうやってやるの?」「男優が勃たない時ってどうするの?」「潮吹きってほんとに出てるの!?」「AV男優のテクってすごいの?」「引退後のAV女優って何してんの?」「親バレしたらどうなるの?」
こんな疑問を、3人の女優〈新人単体 巨乳ちゃん〉〈人妻キカタン 熟女さん〉〈ハード系企画 ドMちゃん〉を中心にしてズバズバ答えている。
ちなみに補足しておくと、単体女優とはメーカーと専属出演契約を結んでいる女優。キカタンとは「企画単体」の略で、元単体女優や人気のある企画女優がこのように呼ばれる。そして企画女優が、素人ものやフェチ系作品に出演する大部分の女優のこと。業界内ヒエラルキーは単体>キカタン>企画なんだそう。

「イラマチオとゲロ」
「潮吹きのコツと水中毒」
「男優の苦労と前立腺刺激」
「女優のプライベート性生活」
「股から緑の汁」
「月収」
「引退のタイミング」

……などなどがフルオープンに描かれている『ギリギリモザイク』。「夢が壊れる!」と言う人もいるかもしれないが、この辺で壊しておくのも手なんじゃないでしょうか。AV業界だけではなく、キャバ業界についても触れられている。
楽しい本だ。楽しいし面白いのだが、時折引っかかる。おそらく峰なゆかは、楽しい面白いだけで終わらないように、あえて引っかかる部分を残しているんだろう。

〈(中出しに関して)AVメーカーの人は「全員性病検査するから、そこらへんの男とやるより安全だよ〜」「今まで問題があったことは一度もないよ〜」などと口説いて、検査してから結果が出るまで一週間のタイムラグがあることや、もし問題が起こったときにどう責任をとってくれるかの話は一切しません〉
〈引退後のAV女優は風俗に流れるか そしらぬ顔で元通りの生活に戻るか 結婚し出産し幸せなお嫁さんに… なったものの即離婚 「…あれっ? わたし乳飲み子抱えて職歴ナシで どうやってこの子たち食わしてくの? 生活保護? それとも…」大丈夫!! イメチェンして再デビューの道が残されている!!〉

もっとも引っかかるのはここだ。
〈日本のAV業界は年々ギャラが下がりつづけていますが、それと同時にAV女優への偏見も少なくなっています。安いギャラで出演してもいいと思えるような、職業差別のない社会に少しずつ変わってきているからなのです。(中略)いつしかAV女優が一カ月みっちり働いたギャラが、普通の会社員の給料と同じ額になったとき、はじめて性産業への偏見が完全になくなったと言えるのではないでしょうか〉

偏見がなくなるのはいい。社会的なリスクがなくなるのもいいことかもしれない。けれど、肉体的なリスクが下がらないまま、賃金が下がっていくのは、望ましいこととはとても思えない。

ここまでが、ギリギリ「光」の部分とすると、鈴木大介の『最貧困女子』は「闇」の部分だ。〈家族・地域・制度(社会保障制度)という三つの縁をなくし、セックスワーク(売春や性風俗)で日銭を稼ぐしかない「最貧困女子」〉を追ったルポルタージュ。
彼女たちは、選択してセックスワークの世界に行ったのではない。貧困のどん底に落ちていき、その結果としてセックスワークをするしかない状況に追い込まれていった。著者の鈴木は、彼女たちの共通点を以下のようにまとめている。

1.親や親族の支援を得ることができない、もしくは親も養っている状況にある
2.メンタルを病んでいたり、不遇な生い立ちから教育を受ける機会を逸しており、安定した職につけない
3.公的・民間の支援に繋がりにくい事情を抱えている
4.非常に強い恋愛依存体質

彼女たちの貧困は、わかりにくく、可視化されていない。セックスワークをしていれば、とりあえず目先の生活はやっていける。生活保護を受けるより収入はいいときもある。しかし、「やっていける」ことと「貧困から抜け出す」ことは違う。
セックスワークには、昔から良きにせよ悪しきにせよ、このような女性を吸収するしくみがあった。けれど、近年それが少しずつ変わってきている。

週一デリヘル嬢、一般職とデリヘルのWワーカー……本来なら風俗業界に入ってこなかった女性が、足を踏み入れるようになっている。
〈昼職の所得が少なくて、「やむを得ず」風俗に副収入を求めたのではない。むしろ彼女らから感じたのは「デリヘルで稼げる自分への誇り」のようなものだ。(中略)彼女らのグループの中では、夜職の兼業は「やれる容姿がある」証でもあり、感覚的には周囲から少し羨ましがられるような空気すらあるようなのだ〉
彼女たちは「意識が高い」セックスワーカーだ。そんな彼女たちが入ってくるようになって、もともと存在していた「セックスワークをするしかない」女性の居場所はなくなる。追い出された彼女たちは、裏ビデオやスカトロビデオ、激安風俗店、出会い系や街娼といった、より労働環境の悪いところへ流れていく。

『セクシー女優ちゃん ギリギリモザイク』で描かれているのは、容姿が優れていて意識の高い、ある意味「選ばれた女性」たち。けれど、その楽しさ、明るさの裏の見えにくいところに、「最貧困女子」も存在している。

峰なゆか『セクシー女優ちゃん ギリギリモザイク』(双葉社)

鈴木大介『最貧困女子』(幻冬舎新書)

(青柳美帆子)