厚労省はこのほど、慢性疲労症候群の患者の日常生活や、実際の診断・治療状況を把握する調査を始める方針を固めた。この病気は確実な客観的診断法がないために十分な医療を受けられず、苦しんでいる人が多いという実態がある。
 脳神経医でもある医学博士の米山公啓氏が説明する。
 「疲れが取れない状態が半年も続いたり、運動もしていないのに筋肉痛に襲われます。わかっているのは、人体にもともといるウイルスが活発化し、この暴走を抑えるために免疫物質が大量に分泌されるのが原因ということ。免疫物質が必要以上に増えて脳が機能異常に陥り、体がだるい状態などが続いてしまうのです。ただ、なぜウイルスが活発化するのか、どんな人が発症するのかも不明な点が多いのです」
 病院に行くと、精神安定剤や抗うつ剤、ビタミンCなどが処方される。しかしこれらの薬は、疲労感の解消はもたらすが、根本的な治療にはつながりにくいとされている。

 「仕事や家事ができずに家族に看てもらっている患者さんもいる。それほど深刻な病気なのに理解されていません」
 こう話す東京都内の清水康孝さん(仮名=53)の場合も、歩行が困難になり仕事も辞めた一人。
 清水さんは大手電機メーカーに勤務していたが、1990年から回復不可能な体力の著しい低下を経験し、慢性疲労症候群と診断された。
 '97年には“心の病”と扱われ医師不信に陥ったこともあるという。数年前から症状が進み、座ることさえも困難になった。
 最近は、理解してくれる医師に出会い、体調や精神面で落ち着いてきたが、寝たり起きたりの状態が続くようになっている。それでも、患者やその家族らで作る慢性疲労を考える会などに参加し、海外の診断基準を翻訳したり、広報活動などをしている。

 2年前の10月、13カ国の医師らによる国際診断基準が医学雑誌に公表された際、慢性疲労症候群の基準が神経系などの変調とわかってきた最近の研究をもとに「筋痛性脳脊髄炎」の病名で採用された。
 清水さんは「『慢性疲労症候群』の病名は深刻さが伝わらず誤解される。その点『筋痛性脳脊髄炎』の方が、説得力があると思います」と語るが、医師の側は病名変更に慎重だ。理由は「慢性疲労を脳脊髄炎と客観的診断ができず、多くの医師の合意にはなりにくい」(ある医科大神経内科医師)との見方からだ。
 「診察できる専門の医師が少ないのも問題です。開業医が患者の訴えをよく聞いて、この病気が疑われる場合は専門医を紹介することが大切。また、患者の復帰も大きな課題で、職場などの理解が必要です」(内科医)

 厚生労働省の疲労研究班代表研究者を務める倉恒弘彦・関西福祉科学大教授は、医学雑誌でこのように述べている。
 「慢性疲労のことを“心の病気”と誤解している人もいるが、よく調べると脳の機能に変調が見つかる病気である。高度の画像診断で患者の脳を調べると、脳の特定の場所で神経伝達物質のセロトニンに関係する分子が健常者よりも低く抑えられている。ただ、このような画像診断はまだ研究段階だ。こういう検査結果が出ても慢性疲労症候群と確実に診断できる方法があるわけではない、というのが実情だ」

 治療も今のところ、特効薬があるわけではないため、痛みを和らげる薬、免疫力を高める薬、疲労回復に抗酸化作用のある薬が使われている。
 「全身の激しい痛みを示す線維筋痛症や、うつ病を合併している場合、合併した病気の治療で症状の改善が期待できる。しかし、それには患者の実態調査や全国各地で診察を受けられる医療機関の整備、病因や治療法の研究などをもっと進めることが重要です」(前出・医療関係者)

 アメリカ疾病センターによると、この難病ともいわれる病気の完治はまれで、5〜10%程度だが、治療によっては改善し、ある程度回復するとされる。日本では人口の0.3%に当たる38万人が罹患しているといわれるが、やはり認知度の低さによって、適切な診断を受けないか、うつ病・神経症・更年期障害・自律神経失調症などと誤診されている患者が多いともいわれている。