1-0でジャマイカを下し、3戦目にして初勝利を飾ったアギーレジャパンが前半と後半で見せたのは、まるで異なる「表情」だった。

 前半はオウンゴールで先制したが、単調なクロスを放り込む場面が目立ち、決定機はわずかに2回。一方、後半はコンビネーションによる崩しが増え、6度の決定機を迎えたが、最後までゴールは遠かった。

 低調だった前半と、見応えのある崩しを見せた後半----。

 試合後、センターフォワードで先発した岡崎慎司が興味深いことを言っていた。

「相手は前からプレッシャーを掛けてきていた。そういうとき、今までだったらそれでもパスを回そうとしていたけれど、今はそうではなく、シンプルに相手の嫌なところを突いていく。ロングボールをサイドに入れたり、単純なボールで相手の嫌なところを突いたりして、自分たちが優位に立ってパスを回せるようになるまで我慢して、リスクを犯さないようにしている」

 さらに、こう言った。

「それ(前半はリスクを負わないこと)をやり抜いたら、そのあと、自分たちの強みを出せるようになると思う」

 我慢の前半を終え、相手に疲れが見えてきた後半、岡崎の言う「自分たちの強みを出す」ためのスイッチが入った瞬間があった。それは、右ウイングだった本田圭佑を左ウイングに回した59分のシフトチェンジだ。これで、本田と香川真司の距離が近くなり、ふたりの間のパス交換が目に見えて増えていった。

 ザックジャパンのときは、香川が左サイドハーフで本田がトップ下だったが、このシフトでは、香川が左のインサイドハーフで本田は左ウイング。オリジナルポジションで、ふたりがここまで近い距離でプレイするのは初めてと言っていい。

 さすがに4年間、代表で一緒にプレイしてきた仲だから、崩しのイメージも同じ絵が描けているのだろう。ワンタッチ、ツータッチの素早いパス交換に、ポジションチェンジも混じえ、左サイドを攻略していった。

「ずっと一緒にやっているので、やりやすさはあるし、お互いのことを分かっているから安心してボールを預けられる部分がある」

 本田は手応えを口にした。また、敵陣で時間を作れるようになったため、左サイドバックの長友佑都の攻撃参加も増えていった。

 ハビエル・アギーレ監督は、本田のポジョション変更の意図について、こう語っている。

「小林(悠)がいいトレーニングをしていたからこそ、圭佑を左にした。右での小林が良かったから、あの形にした。圭佑はどのポジションでもこなせる選手だ」

 つまり、順番としては、慣れている右サイドで小林悠を起用するという考えがまず先にあり、そのために本田を左サイドに回したということになる。

 その結果----期せずしてか想定内かは定かでないが----左サイドからの崩しにかなりの破壊力が生まれ、ザックジャパン時代にストロングポイントだった「左サイドからの崩し」が復活したのだ。

 ただし、このシフトチェンジを手放しで喜ぶわけにはいかない。大げさに言えば、フィニッシャーとしての本田を失うことになったからだ。

 左利きの本田が右ウイングに入れば、所属するACミランでも見せているように、ドリブルで中央に切れ込みやすく、左足のフィニッシュに持ち込みやすい。ところが、左ウイングに入るとそれが難しい。

 この試合でも、左サイドから中央にドリブルで持ち込むことがあったが、逆サイドへのパスや、左アウトサイドでのスルーパスにとどまっている。「代表が前進しようとするなら、自分がゲームメイクにあまり関与してはいけないと思っている。前で勝負して脅威になることを考えていきたい」と語る本田のフィニッシャーとしての脅威を削ぐことになっているのだ。

 もっとも、前述したように、前半は我慢して慎重に試合を進めたいはずのアギーレ監督にとって、「香川×本田」の左サイドのユニットは、ゲーム中のオプションのひとつに過ぎないはずだ。試合中に戦い方のリズムを変える効果は大きく、この日のジャマイカ戦のように、右サイドにフィニッシャーの小林や武藤嘉紀、岡崎らを回せば、「フィニッシャー問題」もある程度、解決できる。香川の代表復帰で、オプションは増えていくだろう。

 だからこそ残念なのが、負傷を負った香川がチームから離脱してしまったことだ。

 香川、柴崎岳(ともにインサイドハーフ)、細貝萌(アンカー)で構成されたジャマイカ戦の中盤は、「攻」「守」のバロメーターで言えば、ちょうど真ん中ぐらいのバランスだったと思われる。それをブラジル戦で、アギーレ監督がどう変えてくるのかを見たかった。

 現実的に考えられたのは、香川と細貝がインサイドハーフを務め、森重真人がアンカーを務める形だ。バランスの針は「守」へと傾き、ピッチ上では細貝が下がって森重と2ボランチを組むようにして、香川の守備面での負担を軽減させたのではないか。

 しかし、香川はブラジル戦にいない(試合中の脳震とうでチームを離脱)。となれば、柴崎、細貝、森重の3人で中盤を組むのか、それとも......。

 いずれにしても、ブラジル戦も前半はリスクを負わず、セーフティに戦うはずだ。ブラジルの攻撃をしのぎながら後半を迎えたとき、どのように勝機を手繰り寄せるのかに注目したい。

飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi