宇川直宏さん in 「DJ JOHN CAGE & THE 1000 WORLD WIDE DJS」@3331

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観測史上最大の台風が関東直撃するっていう予報が出ていますね、悪夢が蘇ったよ(笑)」。

開口一番そう語るのは、2010年3月から日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネル・DOMMUNEを運営する宇川直宏さん。

これまで、グラフィックデザイナー、映像作家、VJ、文筆家、大学教授、ファッションブランドディレクター、クラブオーナー、そして現代美術家と、枠にとらわれることのない全方位的な活動を展開してきた。

その宇川さんが立ち上げたDOMMUNEは、開局以来、トーク&DJライブを日夜全世界に発信し続けるインターネット放送局として、開局5周年を迎えた2014年も求心力を保ち続けている。

国内外のアーティストをゲストに放送される番組は、日々1万の試聴数を誇り、トータル視聴者数は4,500万人を超え、DOMMUNE自体が宇川さんの作品として、2011年には文化庁メディア芸術祭の推薦作品に選出されている。

2011年8月には、東日本大震災被災地支援イベントとして神奈川県での前代未聞の超大型無料フェス「FREEDOMMUNE 0 <ZERO>」を企画するも、開催当日、台風に見舞われて中止

そのリベンジとして、2012年・2013年と会場を幕張メッセに移して、どちらも数万人規模を動員し大成功を収めている。

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DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation- @ 3331 Arts Chiyoda

そして2014年、「21世紀型オルタナティブ・アートスペース」として2010年にオープンした3331 Arts Chiyodaとコラボ。

まず、9月20日から11月3日(月)までの開催となる3331での現代美術解析プロジェクト「DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-」の展示。10月4日に秋田県のマタギ発祥の地と言われる隠れ里にあるトンネルで行った音楽イベント「根子フェス2014+DOMMUNE」。

そして、10月12日(日)に神田警察署前・東京電機大学旧校舎跡地の廃墟で行う屋内フェス「DOMMUNE/KANDA INDUSTRIAL」という3本柱でのおおがかりなプロジェクトが展開されている。

今回、そんな多忙を極める宇川さんを、3331で直撃インタビュー

インターネットについて感じる変化や、日々地下スタジオにこもって配信/収録されたアーカイブからDJ1000人分のプレイを使って同時再生する宇川さんご自身の最新作品「DJ JOHN CAGE & THE 1000 WORLD WIDE DJS」にどうしてプロミスが協賛しているのか。

そして、宇川さんが駆け出しの頃の意外な過去や次なるプロジェクトの始動まで、存分に語っていただいた。

さらに、「DOMMUNE/KANDA INDUSTRIAL」について、開催前日というこのタイミングで会場の変更が決定! タイムテーブルも独占公開!!

DOMMUNEにまつわる犹故瓩修靴騰犲然災害


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3331で開催中


──お忙しい中、お時間いただきありがとうございます。今展開されているDOMMUNEと3331のコラボ企画についてお話をうかがいたいと思っています。

宇川 まさに今、「KANDA INDUSTRIAL」の当日に、犂兮史上最大瓩箸いΑ⇒り得ないほどおおげさでセンセーショナルな触れ込みで、ニュース/ワイドショーが煽りまくっている例の台風19号が接近していて、実はめちゃくちゃ焦ってます(笑)。

だって、マカオ人が名ずけた今回の台風のヴォンフォンっていう一見牧歌的なネーミング、スズメバチって意味らしいですよ、人間界がもし「みなしごハッチ」の世界であれば"殺略"を意味します。

──またも台風ですか!?

宇川 そう、またなんですよ…! 雨男を楽々更新して自然災害男と化しています!

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「DOMMUNE/KANDA INDUSTRIAL」

──最初の「FREEDOMMUNE」も、台風被害で当日に開催中止になりましたよね。嵐を呼ぶDOMMUNEですね。

宇川 まさにそのとおりです。僕が屋根のない現場で興行を起こすとかならず嵐が巻き起こりますね(笑)。もう、お家芸かっていう程に(笑)。笑いごとじゃなく、あの時は海抜0mの海が広がる東扇島東公園が会場でしたからね。「これは“大自然”の側から我々人間に対して挑戦状を叩き付けられているぞ」と、とにかくDVを受けているような感情を抱きました。

日々、無償の愛とたくさんの恵みを与えてくれるあの美しい“自然”が、“大自然”へと豹変し、暴風雨と共にバイオレントな猛威をふるい現場を支配している。あの現場では大自然の猛威に畏怖の念を抱きながら現実を直視する以外、ちっぽけな我々人間にはまったく何もできなかったわけですよ。要するに被災地支援を試みて、被災の疑似体験を自然の側から突きつけられたということです。なので、もちろん中止の決断を下しました。

実は、これはあまり知られていないかもしれませんが、去年、YCAM(山口情報芸術センター)とコラボした「YCAMDOMMUNE」でも、メインのプログラム時は、大雨洪水警報発令で、停電になりました。

そう、ドリフの「8時だョ!全員集合」の停電騒ぎなどはDOMMUNEでは日常茶飯事なのです。

今年、開局5年目に突入ですが、僕らは毎日毎日、生の現場を正面から受け止め続けています。年に1度とか、月に1度とかではなく、僕らは日刊のメディアですから、つまり毎日なんですよ! 2プログラムを平日毎日、週末はブッキングやオファーをまとめていますから、つまりほぼ365日体制で、パーティーを遂行しているわけです! 裏を返せば、人間、現世をまともに生きていると、雨の日、風の日、雪の日、嵐の日に必ず遭遇するはずで、毎日パーティーならば、嵐の日もあって当然! 晴れの日だけが祭りじゃない! つまり森羅万象全て教訓というわけです!

宇川 だからこそフェスティバルというミッションに必要な条件は「『ひとつ屋根の下』だ!」と悟り(笑)、会場を幕張メッセに移動して、その後2年間連続で「FREEDOMMUNE」を成功させるに至ったのですが、今年はなんと夏の幕張の会場を1年前から宇宙博が2ヶ月間も押さえて、つまり、NASAとJAXAに先を越され、開催不可能! 

さらに、震災後、3年が経過し、4年目を迎えた現在、このタイミングで『募金』を集めるには、新たなコンセプトが必要だと考え、今年はお休みしていたところ、3331の中村政人さんからお誘いを受け、DOMMUNEオーガナイズの展覧会とイベントをオファーいただきました。

しかし、困ったことに、会場は、東京電機大学旧校舎跡地ですから、当然の如く、屋根がないのです(笑)。しかも、今回は、2フロアありますが、冨田勲先生をヘッドライナーとして、ワイアレス・ヘッドフォン同時装着記録のギネスに挑戦するモジュラーシンセオンリーのフロアは、窓もない秘密の廃墟地下空間なので、もし当日台風が襲来した場合、会場に浸水、下手したらフロア沈没です!

なので、僕らは台風19号の存在を確認した段階から、10.12当日、天候が荒れる可能性を想定し、僕らが現在、展覧会をやらせていただいている、廃校を改良した今回の共同主宰者の3331というギャラリーの2Fの体育館とコミュニティースペースに会場を移転する可能性をダブルスタンバイで備えてきました。

──でも、そういう、ある種の犹故瓩DOMMUNEのキーワードになっているのも感じます。『TV Bros.』に掲載されたDOMMUNEを立ち上げて最初の独占インタビュー「事件はDOMMUNEで起きている」でも、「人間はなぜ、事故に魅了されるのか?」ということを語られていました。

宇川 語っていました。言い換えれば、SNSにおける"祭り"の大半は、事件/事故のことですよね。実際のところ、DOMMUNEでもハプニングが拡散されればされるほど、Twitterのタイムラインでバズって、ビューワーがうなぎのぼりという現象は頻繁に起こっています。

そう言った無秩序なモブ心理が、犧廚雖瓩慮尭偉呂砲覆辰討い襪里六実ですが、それは台風前夜の精神状態に似ていると僕は捉えています。

話は変わりますが、アメリカには台風の思い出を語ろうっていう沢山の「台風のファンサイト」がある。狂っていますよね(笑)!? この感覚はあの台風前夜の高揚にとり憑かれているのだと思われます。そのような人間の心理状態に興味があったので、僕は2005年にフロリダ〜ミシシッピ州に上陸したハリケーン・カトリーナをシュミレートする作品を7年前に森美術館で発表したりもしました。それが「A Series of Interpreted Catharsis episode1- typhoon」です!

──まさにいま、宇川さんご自身がその高揚感の真っ只中ですね…! DOMMUNEを取り巻く環境と、自らの作品が接続されているんですね。そこで今回は、開催前日にして、大きな発表があるということですが?

宇川 そうなんです! 10.12の降水量予想は、現在20%に激減したのですが、翌日10.13に台風が関東直撃との噂もありまして、そちらは80%になっており、天候が不確かな状況で博打をうつよりも、せっかくの備えを利用して、不確定要素をツブしていこうという考えに、昨日の金曜日の段階で「決断」しました!

なので、オーディエンスの皆様には、大変ご迷惑おかけしますが、会場を牴虻のある3331に緊急移転します! 3331は、当初予定の神田警察横/旧電機大学跡地と、会場位置的にはかなり近所です! なので前売りをご購入いただいた方にも来場に関しては、スムーズだと思われます。ニーナ・クラビッツをヘッドライナーとしたメインフロア「KANDA INDUSTRIAL」は、2Fにそびえるキャパ1000人の巨大体育館で。「SILENT MODULAR WARS!!」は、コミュニティースペース、そして現在僕らが引っ越し中の3331DOMMUNEサテライトスタジオをラウンジにし、しかも現在開催中の「DOMMUNE University of the Arts」の展覧会も無料で大解放しますので、日本を代表する現代アーティストの作品と、僕らが現在、日夜撮りためている彼らアーティストの番組も大解放です! これは逆にお客さんにとっても災い転じて大変お得なイベントなのではないか、と。

また、自然災害に関しては「降らぬ先の傘」そして「備えあれば憂いなし」の精神で、オーガナイザーは先回りしてディフェンスしていかねばならないという、一度災害での開催中止を経験している僕らからのメッセージでもあります。言葉を変えれば、いまだトラウマが克服できていないだけとも言えます(笑)。当日もし晴天であれば、それも、ご愛嬌と受け止めていただけましたら幸いです。もし晴れましたら、その場合は、絶景の巨大な庭とオープンエアでつなげます!

そしてこのイベントシリーズ「DOMMUNE LIVE PREMIUM」は今回で2回目ですが (1回目は東京国際フォーラムでのmy bloody valentineのワールドプレミアムライブ)ライブストリーミングの予定はありません。DOMMUNEなのに(笑)。なので是非是非、当日現場のアウラを体感していただきたいです。

リアルタイムからアーカイブへ


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3331で開催中の「DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-」会場


──開催前日の大きな発表がありましたが、12日の「KANDA INDUSTRIAL」会場でも鑑賞可能な展覧会の方に話を移します。そもそも3331とコラボすることになったのはなぜなんですか?

宇川 まず、先程も言った通り、「FREEDOMMUNE」を予定していた幕張メッセを、NASAが「宇宙博」のために1年前から押さえていたことが判明し、今年はお休みしようと考えていた矢先に、3331から声をかけてもらったんです。もう一つ、DOMMUNEとして、5年近く撮り貯めているアーカイブにどう向き合っていくか、というテーマがありました。今すでに5000番組ほどの記録があります。

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僕がDOMMUNEを開局させた2010年は、「ソーシャルメディアの夜明け」と言われた年で、ちょうどストリーミングにおける著作権/原盤権の話題が出てきたタイミングでもあった。Twitter人口が激増した当時、結局サイバースペース上において「結局、音楽は誰のものなのか?」という問いが再浮上していたからです。

ライブストリーミングで音楽を流すことだけでも世論が騒ぎ、色々な意味で、難易度が高い時代でした。もちろん、DOMMUNEは、開局前からJASRACを通して包括契約してます。しかも、実はアーカイブ配信の許諾権も持ってるんですよ。

しかし、そんな風当たりが強いタイミングだったからこそDOMMUNEは大きな問題定義になり、バズだけで一気に話題が広がった。しかし、アーカイブに関しては、残り続けるものなので、僕は穏便になり、インターネット上にそれを開放することはしなかったんです。

──それはDOMMUNEは生のメディアでありたいという思いからでしょうか?

宇川 そうです。先日、閲覧者が会員登録するともらえる換金可能のポイント狙いで、「FC2動画」にTVドラマやバラエティを投稿し続けていた人達が10人以上書類送検されましたが、今ネット上で見れないものはないと言っても過言ではないと思います。

そんな中で、DOMMUNEは、生身のフロア/それぞれの視聴覚環境/タイムラインにおけるエネルギーの共鳴作用に早くから着目してきました。もちろん全て一回性のものです。それぞれの体験としての「いま」そして「ここ」=「現在」がある。これは現代のテクノロジーを媒介として、映像に宿った今世紀的なアウラの表出だと考えています。なのでなおさらアーカイブの問題をデリケートに扱ってきました。

──その場限りのフローではなく、ストックになってしまうと。

宇川 そう。まさにテレビ放送黎明期みたいな、その時その瞬間にしか立ち会えない現場体験の復権を推し進めていました。

なのでいまだに僕の座右の銘は「偶発的事故を味方につける」です。確かにDOMMUNEは日本初のライブストリーミング・スタジオですが、今となっては配信自体がありふれたものになってしまった。

毎時発信されている情報量があまりに膨大で、DOMMUNEに限らず、リアルタイムで鑑賞出来なかったユーザーはアーカイブを求め、なければ諦めて関心を失うようになったという情報環境における変化もありました。

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あと、もう一つは、僕らのスピード自体が速すぎて、もうDOMMUNE自体、誰も追い切れなくなっちゃっています。

──番組の更新頻度という意味ですね。

宇川 前半がトーク・後半がDJ/ライブという1日2番組5時間を週に4日、1週間で8番組/20時間、1ヶ月で最低32番組/80時間以上を無料で配信しています。

個人が無料で世界の側に映し出す映像にしては、クオリティも高く、ワールドワイドで、内容が濃く、厳格で、しかも膨大である、と。僕は、これら番組の、撮影・配信・記録行為を、自らの「現在美術」作品であると位置づけているので、当然、突き抜ける覚悟のもとに、妄信的に現在を切り取り続けていますが、この没入は、あまりにもハードコアに映るようですね(笑)。

──それで、番組のアーカイブを意識され始めた?

宇川 これら撮りためたアーカイブ自体は、僕のアート作品であると同時に、文化遺産として解放しようという発想もあり、しかし、その共有のトリガーを果たしていつ引けばジャストなのか? という自問自答も確かにありました。

そんな中、去年、YCAM10周年記念でコラボした時も山口県の商店街の元マクドナルドのビルを一棟借りて、ラウンジ/ギャラリー/スタジオが共存した、アーカイブシアターを設立したり、今回は3331のメインギャラリーを丸ごと使って、僕自身がキュレーターとなった展示に連動させ、ここにサテライトスタジオを開局し、日本を代表するアーティスト100人を紹介する「THE 100 JAPANESE CONTEMPORARY ARTISTS」という新番組シリーズを立ち上げました。

なので今夜も3331を現場にして、現代を生きる100人の日本人アーティストの肖像を、オリジナル作品の展示とともに『いつみても現代美術波瀾万丈』よろしく切り取っています。そして、これらは、英字字幕付きアーカイブとして後世に伝承するつもりです。

──インターネットのフェーズとして、2010年はリアルタイム性・同期性が新しかったけど、今はそれが当たり前になったから、逆に宇川さんはアーカイブを導入したということですね。

1000人のDJが奏でるノイズと、無音の『4分33秒』


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「DJ JOHN CAGE & THE 1000 WORLD WIDE DJS」


宇川 だって、俺の作品、アーカイブそのものだったでしょ?

──密室で拝見してきましたが、膨大な情報量のアーカイブでした。

宇川 日夜DOMMUNEという地下シンジケートにこもり続け、世界中から招いたDJを撮影した1000人分のプレイ映像/音源を同時再生してるわけですから、怒濤以外の何者でもないですよね。観覧した人々は、あの膨大な情報量に言葉を失っているようです。実は最早、1500人近くアーカイブ済みですが。

数字の意味は、文字通り1000人斬り瓩箸いγ砲離蹈泪鵑髻∪鏐馼霈の人斬りでも、昭和ジゴロの女体斬りでもない方法で、どうやって達成させることが出来るか? 自らをトランスさせ達成させた、1000の他者との魂の接触です。

でも、実は今年1月に山本現代で行った個展で、セレブリティー1000人の偽サインを憑依させた「UKAWA'S TAGS FACTORY/1000 Counterfeit Autograph!!!!!!!!!!」というシリーズも発表したので、今年2度目の1000人斬り到達っていう前人未到の緊急事態になっています(笑)。

──1000人のDJプレイには大変圧倒された一方で、1000人の奏でる音は、総体としてノイズ化していました。宇川さんはいろんな場面でこれまでも度々「ノイズ」に取り組まれていますが、何かそれがキーワードになっているのでしょうか?

宇川 その通りです。僕は「ノイズにこそ精霊が宿る」と捉えていますので、意識的にノイズを演奏するという観念からも離れた発想で、ノイズについて考察したいといつも考えています。秩序から逸脱する存在としてのノイズのことです。未分化で、カテゴライズや概念化すらをも拒絶している存在について考えてたいのです。

奇しくも今回はそれぞれは音楽を放っているのに、総体としてノイズが立ち現れていたということですね。1000人分同時再生して聞き取れるわけがないってことは前提です。でも、ある瞬間、周波数帯域によっては、ぼんやりと幻聴のように聞き取れる瞬間があるのです。果たしてあのサウンドは音源なのか? 奇跡の音響コラージュなのか?

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DOMMUNE自体、当初から著作権を正式にクリアしているからこそ、この作品が生み出されたにも関わらず、いざ1000人のDJが常に1000曲を同時にプレイしたら、知覚できない、確認できない、全く音楽として機能していない、つまり誰も著作を鑑賞できない、そんな無秩序な瀑布のような現場には、権利が自立しないのです。それが、この作品が主張するコンセプトです。イグアスの滝や、ナイアガラの滝の音に権利が発生しないのと同じことです。滝の音は誰のものでもなく皆のものです。

にもかかわらず、60分間、1000人分のDJタイムが続いた後、4分33秒の無音の明滅がこの作品空間を支配します。そうです、この作品の総尺は、64分33秒なのです。現代音楽家で思想家のジョン・ケージ(の彫刻)が、この音響空間の指揮をとっている理由は、その無音の4分33秒間のフリッカーにあります。

ケージの彫刻の前には、ターンテーブルとミキサーがあり「世界の蓄音機」という歴代蓄音機から再生されたSP盤が収録されレコードに針が落とされています。にも関わらず、ケージは音を奏でていない。つまり。ケージの代表作品である『4分33秒』という名前の無音の楽曲を、彼の彫刻が演奏しているのです。

もちろんその無音の『4分33秒』は、JASRAC登録がある為「4分33秒間演奏しない」という著作がコピーライトとして守られてるんですよ。1000人のDJは同時に常に1000曲、1曲3分として1時間で延べ約2万曲がこの現場では確実に鳴っている、にも関わらず、その権利は自立しようがない。でも、4分33秒間空間に立ち上がった無音は、著作権で守られているのです。この作品は音楽と無音、そして轟音と静寂の関係が反転した瞬間に立ち会える変転装置なのです。

ジョン・ケージの人形の前にターンテーブルを置いて、演奏していない、音が鳴っていないにも関わらず、ジョン・ケージはその無音を『4分33秒』という作品としてJASRACに登録してるから、「4分33秒演奏しない」ということがコピーライトとして守られてるんですよ。

──無音のジョン・ケージさんが作品においては「ノイズ」化しているということですね。

宇川 ノイズに対してのノイズ、無秩序に対しての無秩序、逸脱に対しての逸脱は、コントラスト比によるものだということをこの作品から発見していただきたいのです。悪と正義の関係と同じことです。

二宮金次郎に学ぶ、無名支援と行政改革


宇川 そして実はもう一つ、コンセプトにとって最も重要な要素は会期中に補完していきますが、この無音の体験を経てようやく、この作品をプロミスが協賛してくださっている意味が立ち上がってくる。

その無音の4分33秒間、DJの映像と音はすべていきなり停止され、プロミスカラーのオレンジと紺だけが明滅します。実は会場の壁もジョン・ケージの人形も、ネクタイがオレンジでスーツが紺っていうプロミスカラーです(笑)。

さらに、本当はこの空間にプロミスのキャッシュディスペンサー(現金自動支払機)を展示して、その4分33秒間だけ、キャッシングできるよう制御したいのです。コンビニのように、この空間の隅で、金融機関を機能させたい。

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入口看板にもプロミスカラー



──なぜそこで、消費者金融であるプロミスなんでしょうか? そこにはどういう意図があるんですか?

宇川 日本では消費者金融ってCMを打ちづらくなっているんですよね。理由は2010年に完全施行された「貸金業法」の改正によるものだと思います。一時期、過払いで金利が問題になったりしましたが、僕に言わせれば、それは明らかに借りる側の問題だと思っていて。

まずは、信用も実績もない個人に融資してくれる機関がほとんどないご時世、金利を支払う自信があるならば、借りられるところがあるなら、借りればいい。重要なのはちゃんと返すことです。なぜなら、制作資金/運営資金が存在しなければ生みだすことが出来ない表現が間違いなくあるからです。

実際、僕は20歳の時にマムンダッドプロダクションズっていうレーベルを立ち上げたのですが、レーベル自体の資本金は、友人から「人の為になることに使ってくれ」と言って渡された100万円ですが、運用資金は、実はプロミスからの借り入れなんです。

──そうなんですか!? 誰かからの投資とかではなく?

宇川 当時、89年くらいはまだCDが売れていた時代ですが、何の実績もない若造の個人レーベルなんて誰も見向きもしないでしょ。家族に迷惑はかけられないし、友人に借りると恩ができてしまう。

3回くらい、結構な額を融資していただいていますね。僕は実体験として、そうやってレーベルを回してきた。そう考えると自分のクリエイティブの原点っていうのは実はプロミスに支えられてるとも言えるわけです。

──あまり消費者金融に支えられてきたと公言する作家さんはいないので、驚いてます…。

宇川 そうですか? 僕も、現在になってプロミスからオファーをいただいた時はビックリしましたよ(笑)。20歳当時に支えていただいたプロミスに、46歳になった現在、何の因果か再びサポートしていただく機会があるなんて、ディープな縁を感じます。

──ベンチャー企業の中には、最初は消費者金融を回った、という方の話も聞きます。資金さえあれば、アイデアを実現できる、パフォーマンスを発揮出来る、というケースは確かにあるのかもしれません。

宇川 特に何か始めようっていう若者にとって、日本は冷たいと思います。創作活動をサポートするアーティストの支援制度や助成金が、無名の若者に機能したというエピソードをあまり聞いた事がないですね。しかし、クリエイティブには、投資が必要なんですよ。

ある程度のネームバリューが出てくれば、投資してくれる人もいるし国や財団が支えてくれる制度もありますが、日本は欧米ほど発掘支援制度も整備されているわけじゃないから。

DOMMUNEは世界中からアーティストを招聘しているからよくわかりますが、特にオランダの助成制度は素晴らしいですよ。全く無名なアーティストでも、大使館に掛け合い、日本に来日させたい理由を説明すれば、渡航費ぐらいは出ています。

感動的なのは、無名であればあるほど支援してくれるところです。なぜなら、彼らには未来があるから、という発想でオランダは名もなきアーティストの公演助成をしている。有名ならば、自力で稼げると理解され、逆に出ない(笑)。

日本ではDIYで回していくか、先回りしてどこかにサポートしてもらうしかない。そこで声を大にして言いたいのは、友達に借りてる場合じゃないってこと。

なぜなら、返すのはいつでもいいよって言われながらも、返してほしいというバイブスを感じた瞬間が、実直なアーティストであればあるほど、一番苦しめられるのです(笑)。利息もない分、代替えとして何らかのメリットを与えなければいけなくなるし、恩義に報いるのは高くつく(笑)。金利も期限も決まっている方が、どん底でのモチベーションになる。

アンビバレントかもしれないけど、それで成り立ってるクリエイティブが自分の中にあった。これはセールスじゃなくて、体感したことです。

今回のプロミスとのコラボレーションは、自分自身の作家性と違和感がないどころかむしろ作品の重要な表現軸になってる。だからこそ、本当だったらあの空間で若者にお金を貸したいんです。二宮金次郎が始めた世界初の信用組合「五常講」という概念です。

彼は低金利できちんと人を観て融資し続け、個人向け融資から村単位の出資に拡大し、最終的には二宮金次郎ファンドをつくり、行政改革を行いました。

僕はこの作品で、牧を背負って本を読む二宮金次郎の銅像を、プロミスカラーのスーツとネクタイを着用しDJブースに立つジョン・ケージに変換しています。これって、現代アートでしかできないことなのですよ。現代アートとは問題提起であって、ある種の社会性を帯びた主張が許されるメディアなのです。

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クリエイティブが沸き起こっているのに、国がお金を貸してくれないから困っている。じゃあ、消費者金融から資金を借りて何が悪いのか? 返せる自信があれば借りていいのではないか? 消費者金融は、グレーゾーン金利問題などで、社会的にはノイズとして機能している節もある。しかし、ノイズを味方につけた上でしか、成立しない表現もあるんですよ。

自らのカルマはお金と自然災害とノイズ


宇川 僕の作品は、お金がテーマになってる作品も多いですね。最初に話した「A Series of Interpreted Catharsis episode1- typhoon」は、カトリーナっていう巨大台風を再現しそのドームの中で、世界中のお札が舞っています。

ここで表現したのは、台風という国境を越えて上陸する、一連の破壊と創造と清算の物語を“カタルシス”と読み替えてみていて、世界共通の価値の単位である貨幣をメタファーとしています。

他には、レム睡眠状態で描いた脚本をもとに制作した映像作品で、電子顕微鏡でお金を撮影した「RAPiLLED EYE MOVEMENT #1」とか、要所要所でお金が登場しています。

──初めて成功させた2012年の「FREEDOMMUNE」のヘッドライナーは、旧1000円札にもなった夏目漱石でしたね。

宇川 はい。読んで字の如く、ヘッドライナーは夏目漱石の脳味噌でした。美術作家には意図しなくとも自分が背負った性(サガ)があって、そのカルマと格闘することが作家性なのだと思います。民族の習俗、宗教に根ざす作家もいれば、テクノロジーに偏執狂的に没入し続ける作家もいる。それぞれやはり出生もしくは、人生の局面で触れ合った何者かの影響によって成り立っている。

──ある種自分の業(カルマ)みたいなものを背負われていると。

宇川 僕にとってはそれがお金と事故とノイズということですね。僕は、幼少の頃から床上浸水を2度も体験している台風被災者です。なのに現在も台風に脅かされ続けている(笑)。これはもうカルマと言わざるを得ない。

──ちなみに今回会場を移転した「KANDA INDUSTRIAL」の方にも、プロミスとのコラボレーションはありますか?

宇川 7時間のモジュラー・シンセサイザー・オンリーの実験プロジェクトをやりますが、それもサポートしてもらってます。3331に移転したので、廃墟地下ではなく、コミュニティースペースで遂行する「SILENT MODULAR WARS!!」です。

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AZDEN Presents「DOMMUNE / SILENT MODULAR WARS!!」supported by PROMISE



GODFATHER OF シンセサイザー=冨田勲先生の奇跡の降臨を筆頭に、Mute総裁DANIEL MILLERのモジュラーLIVEに、YMO第四のメンバー=松武秀樹さんのLOGIC SYSTEMや、問答無用ノイズ・インダストリアルの神=MERZBOWなどが出演し、ワイアレス・ヘッドフォン同時再生記録のワールドレコーズ! として、ギネスに挑戦します(笑)。

次なる挑戦は、テレビ史の統括!


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──最後に、今の宇川さんが、新たに始めたいことってありますか?

宇川 100人のTVクリエイターズっていうシリーズを始めようと思ってる。現代アーティスト100人も終わってないのに、もう別のを立ち上げようと思ってて、それが 「Japanese 100 TV Creators」です。

1953年の放送開始から、NHKと民放の併存体制で歩んで来た我が国の61年間の日本TV史を、ライブストリーミングチャンネルDOMMUNEが、その歴史と変遷にうごめく人間達の物語を軸に、インターネットの側から、ドラマティックに掘り起こせたらと構想しています!

──テレビ的なスポンサーシステムが崩れてきている一方で、ストリーミングをされている宇川さんがプロミスをスポンサーに引っさげてかつてのテレビを掘り下げるプロジェクトは、興味をそそられます。

宇川 テレビは、局やスポンサーに縛られていて他局のことを扱えないから、俯瞰的なテレビ史は、DOMMUNEのようなライブストリーミングメディアだけが実現できるのだと自負しております。

まずは明日、台風対策を施し、屋根のある3331に会場を移転したDOMMUNE LIVE PREMIUM「KANDA INDUSTRIAL」と「SILENT MODULAR WARS!!」に是非来て下さい! いまならギリギリ前売り券も購入できます!

ここで語った「DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-」の展覧会も全てフリーで解放いたしますので、確実にお得です!