テンポの速いサッカーを追求するうえで、本田は使う側(トップ下)から使われる側(ウイング)へと変化する。右ウイングから直線的な突進力を活かし、斜めに飛び出す動きはベネズエラ戦でもすでに見られた。もともと本田はフィニッシャーとしての能力が高い。182センチと世界基準では平凡な上背だが、ボールの落下地点を読むのが早く、ヘディングも強い。右ウイング起用は、チャンスメーカーとしてボールに多く触ろうとした本田の古い記憶を捨て去り、一撃必殺のフィニッシャーとして真価を発揮させる。
 キーポイントになるのは右SBだ。スピードと精力的なオーバーラップに長けた選手が欲しい。今季の序盤、本田がミランで好調をキープしたのは、右SBにアバーテが入った影響がある。本田が空けたスペースを“獲物”とする選手と組めば、右サイドの機能性は高まる。スピードと運動量に長けた長友佑都を右へ移す引き出しも用意するべきだ。
 
 なんでもかんでも本田に合わせるのか! そう思われるかもしれないが、フィニッシャーに合わせて逆算するのは当然のこと。もし本田がその要求に応えられず、ゴールを奪えない場合はすべて白紙に戻る。
 
 左ウイングの香川は、相手ブロックの間に入り、縦パスを引き出すプレーが得意だ。香川の良さは1対1ではなく、1対複数の状況で発揮される。4-2-3-1のザックジャパンでも香川は同様のプレーをしていたが、コートジボワール戦では香川が中央に寄って空いた左サイドのスペースを突かれ、2失点を喫した苦い記憶もある。
 
 しかし、4-3-3は中盤が厚い。近くに左インサイドハーフの選手がいるので、香川が動いた後のカバーは利きやすい。このインサイドハーフ次第で香川の自由度が高まり、輝きを増すはずだ。
 
 香川のポジションとしてもうひとつ考えられるのが、第二の布陣。左インサイドハーフに置くパターンだ。これは田中順也をこのポジションに置いたウルグアイ戦をイメージしている。攻撃時には細貝萌が下がって森重真人と2ボランチになり、田中はトップ下のように相手の中盤とDFの間にポジションを取った。
 
 いわば攻撃時は4-2-3-1、守備時は4-3-3のような形。ある程度引かされる試合でも、バランスを取りながらカウンターを狙える布陣だ。香川自身は最初から中央寄りでプレーできる反面、守備の負担も覚悟しなければならない。
 
 いずれにせよ、アギーレのチームでは『柔軟に戦うこと』が重要視される。いきなりアンカーに指名された森重のように、あるいは試合中にポジションをまたぐことも珍しくない。『家』を定めず、放浪する勇気を持つこと。それがこの代表でプレーする最低条件のようだ。
 
文:清水英斗(サッカーライター)

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