いろいろと問題もあったようだが、兎にも角にも「第17回アジア競技大会」は無事に閉幕した。

 36競技、約13000名のアスリートが参加し、オリンピックに次ぐ規模を誇る熱戦の日々を、オフィシャルタイムキーパーという形で裏側からサポートしていたのが、スイスの名門時計メーカーの「ティソ」である。

 ティソの創業は1853年。高精度時計に力を入れており、ストップウォッチで名声を得た。その実績が評価され、現在はMOTO GPなどのバイクレースやバスケットボール、卓球、自転車などの競技大会でオフィシャルタイムキーパーを担当している。ティソは過去のアジア競技大会でも計時を担当しており、正確で公明正大なジャッジメントをすることで、アスリートたちの熱戦をサポートしている。

 今大会は縁あって現地観戦を行なったのだが、ティソのタイムキーピング技術によって真剣勝負が盛り上がるという幸運の場に巡り合った。

 その瞬間は、メインスタジアムで行なわれた陸上、男子1600mリレーで起きた。今大会では不調続きだった日本陸上チームだったが、この競技では危なげないレース運びで4大会ぶりに金メダルを獲得する。

 しかしハイライトは、2位争いだった。

 終始2位をキープしていたサウジアラビアチームの最終ランナーは、少々流し気味にゴールに向かう。その背後から猛然とスパートをかけてきたのが韓国チーム。ゴールする瞬間に体を投げ出し、もつれるようにしてゴールしたアンカーの姿に、スタジアムのボルテージも一気に上がる。

 どちらが先にゴールしたのか......。このような極限の戦いをジャッジするのが、まさにティソの役目である。

 今回彼らが持ち込んだ機材は、陸上競技の計時に関する技術が搭載されているものが多かった。そのひとつがスタートからゴールまでを一括管理するシステム。フラッシュガンと呼ばれる号砲装置は、音と光を使ってスタートを知らせつつ、計時も同時にスタート。さらにゴールには写真判定用のカメラを設置しており、最新機種ともなると、1秒間に10000フレームも撮影を行なう。しかもその写真はすぐに合成されて審判団へと回されるため、戦いの熱気を冷ますことなくレース結果を発表することができるのだ。

 さて、肝心の男子1600mリレーの結果だが、サウジアラビアチームも韓国チームも公式記録は「3分4秒03」で同着。しかし写真判定の結果、韓国チームの銀メダルが決定。会場は歓喜の声に包まれたのだった。

 劇的な幕切れに酔いしれる地元・韓国チームは、国旗を持って会場を一周。圧勝した日本チームにとっては、主役を奪われたようで少々気の毒な結末だったが、最後まであきらめずに走り込んだアンカーに対しては、日本チームもサウジアラビアチームも素直に拍手を送っており、表彰式後は全員が仲睦まじく撮影に応じていた。

 オフィシャルタイムキーパーに求められる仕事とは、公正なジャッジメントを下すことである。誰もが疑うべくもない完璧な計時ステムがあるからこそ、勝者も敗者も結果に対して納得ができる。

 アジア競技大会の主役はアスリートたちだが、彼らの努力に報いるために"公平な黒子"に徹したティソの技術も忘れてはいけない。韓国チームの激走とその後の大団円は、真剣勝負の場における正確なタイムキーピング技術の重要性を、あらためて浮き彫りにしたのだった。

篠田哲生●取材・文 text by Shinoda Tetsuo