コンビニコーヒー戦争に異変?ローソン、差別化戦略撤回でセブンに対抗、潜む2つの壁

写真拡大

 コンビニエンスストアチェーンでは、カウンターコーヒーをめぐる争いが熾烈を極めています。

 その火付け役となったのが、業界トップのセブン-イレブン。2013年1月から1杯100円の淹れ立てコーヒー「セブンカフェ」の販売を開始すると、年間5億杯を売り上げる爆発的なヒット商品となりました。この「セブンカフェ」の好調を受け、ライバルのローソンファミリーマートもそれぞれ「マチカフェ」「ファミマカフェ」の事業を強化。カウンターコーヒーを集客の戦略商品と位置付け、マーケティングに力を注いでいます。

 このコンビニコーヒー戦争が勃発した13年には、各社は独自の戦略でブームを牽引してきましたが、14年に入って大きな異変が起こります。

 まず、業界3位のファミマが、14年4月からそれまで120円で販売していたSサイズのコーヒーを100円に値下げしセブンに追随。続いて、業界2位のローソンも9月30日から全国約9300店で展開する「マチカフェ」のメニューを一新し、Sサイズ(160g)を新設して100円に、またMサイズとLサイズはそれぞれ50gと20g増量したうえに、価格をMサイズ(250g)は185円から150円、Lサイズ(300g)は216円から180円に値下げすることを発表したのです。

 これまでローソンはコンビニコーヒー市場で独自路線を歩み、ライバル2社がセルフサービスで低価格を実現しているのとは対照的に、注文を受けてから店員が1杯1杯丁寧にコーヒーを淹れてカウンターで手渡しする接客を売りに対抗してきました。価格はライバルの100円に比べて185円と高額になりますが、ライバルとは一線を画すサービスで競争に勝ち残ろうという差別化戦略を貫いてきたのです。

 ところがここにきて、ライバル企業と価格を揃えて顧客を取り込む戦略に、180度舵を切り直したということになります。これまで独自路線を貫いてきたローソンの方針転換で、コンビニコーヒー戦争は今後どのような展開を迎えるのでしょうか? 

 今回は、ローソンの新たな戦略が成功するために越えなければならない2つの壁について考えてみます。

(1)ローソンが越えなければいけない外部の壁:リーダーの壁


 ローソンが成功を収めるために必ず越えなければいけないのは外部の壁、すなわちライバル企業に打ち勝ち、コーヒーの販売量を増やすことです。

 ローソンとしては値下げしただけで販売量が増えなければ、深刻な売り上げ減につながりかねません。そのため、値下げによって大幅な販売数量のアップを実現させなければ、業界のリーダーであるセブンに追随する価格戦略は失敗に終わってしまいます。

 実際にローソンはこの戦略の方針転換を決定する前に、特定の店舗でコーヒーを100円で実験販売し、売り上げ動向を検証しています。結果は、売り上げが6割も増加するという、予想を上回るものでした。この数値に自信を深めた結果、セブンに価格で対抗しても十分に勝算があると判断したのでしょう。

 ただ、マーケティングの第一人者である米経営学者、フィリップ・コトラー氏の著書『競争上の地位に応じた戦略』では、市場におけるチャレンジャーの定石は差別化であり、リーダーと違う土俵で戦うことが成功要因とされています。経営体力に劣るチャレンジャーが正面切って市場のリーダーに戦いを挑んでも勝つ見込みは薄いため、リーダーが手掛けていない分野や製品に注力して、顧客を惹き付けていかなければならないというわけです。

 これまでローソンはカウンターコーヒーにおいて、差別化されたプロダクト戦略で、リーダーとはわずかにターゲット顧客をずらしてセオリー通りの独自路線を歩んできました。ところが、ここにきて、リーダーとがっぷり四つで勝負することを決断したのです。

 もちろん“宣戦布告”されたセブンも、指をくわえてローソンの戦いを見ているわけがありません。戦力に勝るリーダーの戦い方としては、値下げをしてチャレンジャーが追随できないレベルまで突き進むか、価格は同額でもクオリティを高めて、価値の面からチャレンジャーを圧倒的に引き離すことが考えられます。

 そして実際にセブンは10月下旬、カウンターコーヒーをリニューアルすることを決定。新たに豆の渋皮を取り除くための独自の磨き工程を導入し、雑味のないすっきりとした味わいでありながら、同時に豆を深煎りすることでコク深いコーヒーを提供すると発表しました。しかも、価格は100円で据え置き。淹れ立てコーヒーをよりおいしくするために製造工程を追加し、コスト的には2割ほどアップするにもかかわらずです。このリニューアルでセブンは、コーヒーの価値を飛躍的に高め、ローソンの値下げに対抗する手段に打って出たのです。

 ローソンにとっては、全力でマーケット支配を強化しようとする業界リーダー、セブンの大きな壁を越えなければ戦略的な成功はありえないといっても過言ではないのです。

(2)ローソンが越えなければいけない内部の壁:オペレーションの壁


 戦いに勝利するためには、もちろん外部のライバル企業に対して競争優位を築いていかなければなりませんが、内部にも越えなければならない壁が存在します。それが、オペレーションの壁です。

 ローソンの場合、カウンターコーヒーの売りのひとつに、1杯1杯店員が淹れて手渡しする接客があります。ライバル2社がセルフサービスで提供するのとは違って、ローソンの場合、手間と時間がかかるのです。

 セブンではセルフサービスにもかかわらずコーヒーマシンの前には行列ができることも珍しくなく、仮にローソンでも同じくらいコーヒーが売れたとしたら、1杯1杯店員がコーヒーを淹れることがネックになり、セブン以上にレジの前に行列ができることも予想されます。顧客から速さと利便性が求められるコンビニにとって、これは致命傷になりかねません。

 特に、多くの顧客がコンビニコーヒーを購入する朝の出勤前やランチの後などの時間帯は、顧客は業務開始までに買い物を済ませて席に着かなければならないという思いから、もしレジ前に長い行列ができていれば、他のコンビニを利用する可能性も高くなります。今やコンビニの数は全国で5万店を超え、場所によっては数十メートルも歩けば別のコンビニがあることも珍しくありません。

 そこで、各コンビニにとって売り上げ機会を逃さないためにも、顧客がストレスなくスムーズに買い物をできる環境を実現することが至上命題といえます。例えばJR東日本系列のNEWDAYSは、Suicaも利用できるセルフレジを導入し、朝晩のラッシュアワーの利用客を少しでも他店に逃すまいと、レジの効率化に取り組んでいます。

 もし、ローソンがコーヒーの値下げによって来店客を予想以上に増やし、レジでの待ち時間が長時間化すれば、顧客を獲得するどころか他社への顧客の流出につながりかねません。企業にとって顧客が爆発的に増加するのは歓迎すべきことですが、もしそれが予想を大きく上回るようだと逆効果になりかねません。その際には、顧客をいかに増やすかだけでなく、顧客が増えた後のオペレーションまで十分に考慮して、顧客満足度を下げないような対策を施しておく必要があります。

 もちろん、ローソンはすでにコーヒー値下げ後の店内オペレーションを検証してさまざまな施策を検討済みのはずですが、もし問題が発生するようであれば、コーヒーマシンのセルフ化や混雑する時間のみ専用レジを設けるなど、内部の壁を克服していく必要があるでしょう。

 このように、コンビニ業界のチャレンジャーであるローソンとしては、値下げでリーダーのセブンと正面から戦うのはセオリー破りの戦略といえますが、この戦略が成功を収めるか否かは、外部の壁と内部の壁を乗り越えることができるかどうかにかかっているといえるのです。
(文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO)

●安部徹也(あべ・てつや)
株式会社 MBA Solution代表取締役CEO。1990年、九州大学経済学部経営学科卒業後、現・三井住友銀行赤坂支店入行。1997年、銀行を退職しアメリカへ留学。インターナショナルビジネスで全米No.1スクールであるThunderbirdにてMBAを取得。MBAとして成績優秀者のみが加入を許可される組織、ベータ・ガンマ・シグマ会員。2001年、ビジネススクール卒業後、米国人パートナーと経営コンサルティング事業を開始。MBA Solutionを設立し代表に就任。現在、本業に留まらず、各種マスメディアへの出演、ビジネス書の執筆、講演など多方面で活躍中。主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』は、2万5000人以上のビジネスパーソンが参加し、無料のメールマガジンを通してMBA理論を学んでいる。