武藤嘉紀 (撮影/岸本勉・PICSPORT)

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日本代表の練習も、試合が近づくと冒頭わずか15分の公開となる。アギーレ監督はすぐにボールを使ったトレーニングが始まるからいいものの、これまでは走ったり柔軟体操をしたりという部分しか見ることができなかった。

練習が非公開になる時期は、記者たちにとってもっとも見たい時期でもある。なぜなら「次の試合のスタメンは誰か」という原稿を書かなければならないからだ。いかに正確なメンバーを当てられるかで、記者の評価が決まるのだ。

何としても見たい、そんな思いから、かつては練習場をぐるりと覆うシートと同じ色のレインコートを着て、こっそり見ようとする人もいた。今回の練習場はすぐ近くにスタジアムの中が見える歩道があり、そこへ行けば覗けるはずだった。ところが歩道には係員が立っており、少しでも止まってスタジアムのほうを見ようとすると注意される。

となると、あとはミックスゾーンに出てくる選手に聞くしかない。もちろん選手には箝口令が敷かれており、メンバーどころか練習の内容すら詳しくは教えてもらえない。そこでどうするか。

その選手を長く取材している記者、たとえば担当しているJクラブに所属していて、関係がしっかりできている記者たちが質問する。

もちろん、「スタメンなの?」などとは聞かない。いくつかの遠回しな質問をぶつけて反応を探るのだ。記者たちは所属している会社も媒体も違うのだが、そこは自然とコンビプレーが出来上がる。

A「スタメンって緊張しない?」
選手「いや、スタメンかどうかわからないですから」
B「途中から出るのと、どっちが緊張する?」
選手「どっちも別の意味の緊張感がありますよ」
C「どっちの緊張感のほうが好き?」
選手「うーん……やはりスタメンですかね」
D「じゃあスタメンだったらいいね」
選手「そうですね」

このやり取りはフィクションだが、こんな何でもなさそうな会話を積み重ね、答える選手の表情や仕草などから、次戦のスタメンを読み解いていくのだ。ライバルであるはずの記者同士が、即興で見事な連係プレーをするわけだ。代表チームの取材をするのは、各社を代表する記者ばかりなので、そんな突然のセッションも可能となる。

もちろん、質問では連係を見せても解釈は人それぞれ。それが各媒体のスタメンの違いとなって現れる。そして配られたスタメン表を見て、一喜一憂を繰り返しているのである。

【取材・文/日本蹴球合同会社 森雅史】