9月5日のウルグアイ戦ではカバーニともマッチアップ。守備面での働きは及第点だった。(C) SOCCER DIGEST

写真拡大 (全5枚)

 あくまで、参考資料である。「今回はアンカーについて話してもらえますか」とお願いしたところ、「えっ、僕がですか? 9月の代表2試合でしかやっていないのに……」と困惑した様子だった。それでも、森重真人は「僕個人の見解ならば」と前置きしたうえで、快く取材に応じてくれた。あくまで、森重の思考。だから、私的アンカー論なのである。
 
【日本代表photo】ジャマイカ、ブラジル戦に向けたメンバー23人
 
――9月の代表2連戦は、どの部分に重きを置いてプレーしましたか?
「守備です。試合まで時間があまりなかったので、基本的にはCBの前にいて中央のエリアを安定させようと心がけました。具体的にはCBふたりをサポートしつつ、パスカットを狙うイメージです。(FC東京でCBの)自分がアンカーに起用された理由を考えて、まず『中だけは崩されないようにしよう』というスタンスでプレーしました」
 
――アギーレ監督からの指示は?
「細かい指示はなく、言われたのはボールを動かす時のポジショニングだけでした。相手が2トップなら、自分が後ろに下がって3枚でボールを回す。1トップの場合は下がらず、その1トップの背後でボールを受ける準備をするイメージで動くように、と」
 
――カバーニ選手が1トップのようだったウルグアイ戦では、最終ラインに下がる意識がそこまでなかったというわけですね。
「アンカーがCB2枚と連動して“三角形”を作れれば、相手の1トップを十分にいなせます。向こうが2トップだったベネズエラ戦はCBと同じラインまで下がって、数的優位を保った状態でボールを回しました。攻撃の局面でも4-3-3のアンカーに求められるのは、リスクマネジメントだと考えています。その意味では、ディフェンスに重きを置くポジションなのかなと。ウルグアイ戦でまず考えたのも、『相手のカウンター阻止』でしたから」
 
――守備的なアンカーと言えば、2010年のワールドカップを戦った阿部選手(現・浦和)です。
「今言われて、『確かにそうだ』と思いました。ただ、イメージにあるのはFC東京でアンカーをやっている高橋選手。クラブで自分は彼の真後ろから指示していますから、(代表戦では)その指示を思い出しながらプレーしました」
 
――高橋選手には、どんな指示を?
「相手のシステムによって変わりますが、基本的には真ん中にいてもらうようにしています。ビルドアップの時も、激しい動きは要求しません。中央寄りのポジションで顔を出してもらいながら、(最終ラインからの)パスの受け手になってもらいます。僕が高橋選手に求めるのも、リスクマネジメント。だから、攻撃の時も彼をたいてい自陣に残します」
 
――リスクマネジメントを重視するとはいえ、攻撃面での貢献もアンカーには求められます。仕掛けの局面で、森重選手のファーストチョイスは?
「この前の代表戦ではまず、前線の3人を見ました。僕がボールを受けたタイミングで、向こうのバランスが崩れていて“1対1”の状況になっていれば(※POINT 1を参照)、躊躇なくDFの裏のスペースを狙います。蹴り込んだボールが上手くFWにつながれば、ビッグチャンスになる可能性が高いですからね。1対1で競り勝てる確率は単純計算で50パーセントですが、チャレンジしないと何も起こりません。五分五分なら、チャレンジする価値は十分過ぎるほどあります。3トップにしているのも、カウンターで崩す意図があるからでしょう」
――リスクマネジメントを強調されていたので、てっきりインサイドハーフへの縦パスが第一選択なのかと。
「アンカーを置く4-3-3システムのなかでも動き方が難しいのは、インサイドハーフだと思います。例えばアンカーにボールが入った場合、サイドにはSBが、前線にはCFとウイングがいるから、インサイドハーフは居場所を見つけにくい。要するに、横と縦どちらに動いても、“交通渋滞”にハマる可能性が高いというわけです。たぶん、この前の代表戦で
インサイドハーフのふたりは『行くスペースがない』と考えながらプレーしていたと思うので、その状態で彼らに預けるのはむしろ危険。じゃあ、インサイドハーフはどう動けばいいかと言えば、それは試合や練習を重ねて見つけ出すしかありません。正解はひとつではないので、いろいろなシチュエーションを想定しながらチームで話し合い、試す必要があるのではないでしょうか」
――ヒントになりそうなのが、ベネズエラ戦の38分のシーン(POINT 2を参照)。吉田選手のパスを受けた柴崎選手が、すかさず前線に縦パス。そして大迫選手が落としたボールを、森重選手が柿谷選手につなげた決定機です。
「あの時は、自分より少し低い位置にいた柴崎選手に上手くボールが入ったので、ならば先読みして前線をサポートしようと考えました。『おそらく(柴崎)岳は縦パスを出すから』と予測し、大迫選手へのフォローをイメージしました。(左ウイングの)柿谷選手も良いタイミングで抜け出してくれたので、結果的に理想的な崩しになりました。ベネズエラ戦では柴崎選手をトップ下に近いポジションに置き、僕と細貝選手が中盤の底に並ぶような形でもバランスは良いのかなとも思いました。いずれにしても、“奪って、縦、縦”という、相手の陣形が整う前のショートカウンターで崩し切れるかが肝になりそうな気がします」
 
――残念ながらウルグアイ戦では、そうした崩しがありませんでした。インサイドハーフの田中選手は慣れないポジションのせいか、なかなかボールに触れませんでした。
「(アギーレジャパンの初陣だったので)仕方がない部分はあります。田中選手に限らず、いい形でボールをキープできる場面は少なかったはずです。ついでに言えば、中盤の構成については現時点でなんとも言えません。ディフェンシブな3人を同時起用するのか、攻撃的な選手をふたり置くのか、この前のように守備的な2枚(森重と細貝)にするかは、これから明らかになるはずです」
 
――中盤の構成と言えば、アンカーがインサイドハーフに求めたい資質、もしくは動きは?
「まず運動量がないと厳しいと思います。守備を考えると、自らボールを奪いに行く力も必要です」
 
――攻撃面では?
「ミドルシュートとかで点が取れる選手が良いですよね」
 
――先ほど前線にフィードする話がありましたが、どんなタイプのCFなら合わせやすいですか?
「そういう好みはありません。真ん中にどっしりと構えてポストプレーをしてほしい時もあれば、サイドに流れてスペースを作ってもらいたいケースもありますからね。その両方をこなせる選手が代表チームでは使われていく印象があります。ウイングを含めた前線の3枚には、守備も求められるはずです」
 
――強さとテクニックに加え、献身性も備える武藤選手は、理想のウイングと言えるかもしれないですね。
「武藤選手は、90分間を通して攻守両面で走れます。FC東京の試合でも最後まで量も質も落とさずプレーしていますから。スペースを見つけるセンスもあるし、彼にとって4-3-3は力を発揮しやすいシステムかもしれません」
 
――FC東京は今季の前半戦で4-3-3システムを主に使っていました。その免疫が代表戦でも活かされましたか?
「そうですね。フィッカデンティ監督に基礎を叩き込まれていたので、4-3-3システムで戦うことへの戸惑いはありませんでした」
――4-3-3システムに慣れていない選手はどうでしたか?
「代表合宿の最初のほうは、どう動いていいのか迷う選手が結構いました」
 
――アドバイスをしたりしましたか?
「一応、ボールの動かし方、スペースへの走り方は提案しました。まあ、そのあたりは、これからみんなで話し合って作っていく部分です」
 
――ウルグアイ戦では4-3-3の他に4-4-1-1も試しました。いきなりのシステム変更に混乱は?
「特にないです。ただ、4-3-3のアンカーとはまた違う2ボランチで良い仕事ができたわけではありません。負けているシチュエーションでのシステム変更だったので、どっしりと構えるのではなく、もっと前に出てボールを奪いに行くチャレンジが必要でした」
 
――たしかに、システムが変わってもチームの重心は低いままでした。
「守備的なスタンスを捨て切れなかったのが良くなかったと思います。後ろに張り付くイージを外して、多少スペースを与えたとしても前に出る。そういう意識を持たないといけませんでした。臨機応変に振る舞う柔軟性が足りなかったのは、反省材料ですね」
――代表ではアンカー、クラブでは不動のCB。両立は難しいですか?
「代表とクラブは別物として捉えています。アンカーとCBで見えている風景はだいぶ異なりますからね。1列違うだけで、後ろに味方のフィールドプレーヤーがいる、いないだけで、危機感もかなり変わります。だから、代表を意識しすぎるとマイナスに働く可能性がある。つまり、アンカーの感覚でCBをやってしまえば下手なプレーを連発する恐れがあるということです」
 
――ポジションによって、気持ちの持ち方も重要というわけですね。
「アンカー起用は『9月の2試合だけだろう』と勝手に思っているので、代表からFC東京に戻ってきた時に再確認しました。『自分はCBだ』、と。決して『アンカーが嫌』という意味ではありません。アンカーとCBの両方をごちゃ混ぜにして考えるのがダメということを、言いたいだけです。アンカーはちょっとやってみたかったポジションなので、そこで試してくれたアギーレ監督にはむしろお礼を言いたいくらいです(笑)」
 
――ウルグアイ戦のミックスゾーンでは「楽しめた」とコメントしていましたね。
「組み立ての局面でたくさんプレーに関与できて、確かに楽しかった部分はありました。でも、日本代表のアンカーとしてはまだまだでしたが……」
 
――アンカーの理想像、手本とする選手はいますか?
「先ほど言ったように、アンカーに意識を奪われるとクラブでのプレーがブレそうなので、そういうのは作りません。アンカーに固定されるか分からない現状では、なんとも言い切れない部分があるというのが正直な感想です。9月の代表合宿ではCBに入る時もあったので」
 
――確かに、CBで起用される可能性も十分にありますからね。
「まずは代表に選ばれたいという気持ちがありますし、仮に選ばれたらどこで使われるのかなと。次もアンカーで起用されたら『自分はアンカーとして考えられている』と思うかもしれませんね」
 
――ポジションはやはり、はっきりさせたいですか?
「こだわりは特にありません。ただ、心の準備というか……。代表でアンカーに固定されるなら、少し考え方を変える必要があります。変えるというより、アンカーの知識を増やすと言ったほうが正しいかもしれません」
 
――最後に、森重選手が考える「アンカーに必要な3大資質」を教えてもらえませんか? 代表戦でプレーした当人だからこそ分かる感覚があるはずなので。
「やる前は『運動量が肝かな』と考えていましたが、実際はそこまで動かなくていい印象です。もちろん、CB以上のそれは求められますよ。ただ、あっちこっちに忙しく顔を出すというよりは、真ん中のエリア付近にいたほうがチーム全体のバランスを保てると感じました。運動量以上に重要なのは、ボールを素早く動かす技術、ボールをきっちりと奪う守備力。そしてなにより、ゲームの流れを読む力ですかね。ピッチ上の監督みたいな役割でしょうか。少し押され気味だからインサイドハーフも下げて守備を固めようとか、向こうが引いて構えるなら全体を押し上げてできるだけ前で奪いに行こうとか、今はあえて引いて様子を見たほうがいいんじゃないかとか、“先”を見抜くセンスが不可欠です」
 
――文字どおり中心となって、チーム全体を動かす役割が、アンカーには求められているというわけですね。
「サイドラインの深い位置でボールを奪ったとして、そこからひとりでゴールを奪える日本人選手はいません。だから、コンパクトな陣形を保ちながら組織的なディフェンスでボールを奪って、相手の陣形が整わないうちに速攻を繰り出したい。アギーレ監督のサッカーはとりわけボールを奪った後にスピードが求められるので、先の展開を読めるかはやはり重要です。効果的な攻撃を仕掛けられるかは、ある意味、アンカーの舵取りにかかっているかもしれません」
 
取材・文:白鳥和洋(週刊サッカーダイジェスト)
 
■プロフィール■
もりしげ・まさと/ 1987年5月21日生まれ、広島県出身。183センチ・76キロ。高陽FC-広島Jrユース-広島皆実高-大分-FC東京。J1通算194試合・12得点。J2通算37試合・6得点。日本代表通算13試合・1得点(9月28日現在)。北京五輪代表のメンバーで、足技にも優れたCB。フル代表デビューした東アジアカップの中国戦からザッケローニ監督の信頼を掴み、14年3月のニュージーランド戦で代表初得点。ブラジル・ワールドカップを戦い、アギーレ政権で臨んだ9月の代表2連戦では、いずれもアンカーで先発出場した。

※『週刊サッカーダイジェスト』10月14日号(9月30日発売)より