9月の連戦ではこの武藤と柴崎の22歳コンビを掘り当てたアギーレ監督。今回は26〜27歳の中堅選手を数多く抜擢しているのが特徴的だ。 (C) SOCCER DIGEST

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 先日、編集部で調べ物をしていて、2006年当時のバックナンバーを読み漁っていたら、不意に懐かしい言葉に出合った。
 
「古い井戸があります。そこには水が少し残っているのに、あなたは古い井戸を完全に捨てて新しい井戸を掘りますか? 古い井戸を使いながら、新しい井戸を掘ればいいんです」
 
 これはドイツ・ワールドカップ後に日本代表監督に就任したイビチャ・オシム氏が、就任会見で語った言葉である。同じ会見の席上で出た「日本化」も有名なフレーズだが、井戸に例えたこの言葉は、その後、あまりお目にかかることがなかった。
 
 もっとも、これはオシム監督の表現が上手いのであって、代表チームを託されたどの新任監督も行なう作業だろう。「古い井戸=既存の主力」を自らのサッカー哲学の下でふるいにかけながら、お眼鏡に適った「新しい井戸=招集歴のない、または少ない選手」を加えていく。両者の比率の度合いによって、受け手の印象は大きく異なるが、チーム作りの手法としては実にオーソドックスなものである。
 
 ハビエル・アギーレ監督も、「古い井戸」を有効活用しながら、「新しい井戸」を積極的に掘り始めている。9月の2試合で早くも、武藤嘉紀、柴崎岳の22歳コンビを掘り当てることができたのは、本人にとっても予想を上回る成果だっただろう。
 
 しかし、06年のオシム監督就任直後と比べると、今回の10月シリーズの招集メンバーにはひとつだけ異なる現象が起きている。それは「新しい井戸」に当たる人材に、サッカー選手としての完成期を迎えている26〜27歳の世代が多く呼ばれていることだ。
 
 06年当時、「新しい井戸」の中心は、その2年前に集大成を迎えたアテネ五輪世代(81〜84年生まれ)だった。そもそも、06年ドイツ・ワールドカップのメンバーに駒野友一と茂庭照幸の2人しか入らなかったのだから「世代交代」が大きなテーマだったとはいえ、ジーコ体制下でほとんど出場機会のなかった阿部勇樹や今野泰幸、長谷部誠のほか、田中マルクス闘莉王、鈴木啓太ら当時20代前半の選手たちが次々と出場機会を掴むようになっていった。
 
 それに対してアギーレ監督は、9月の初陣のメンバーこそ、A代表初招集となった5人全員が90年生まれ以降と、世代交代を意識した選考に映ったが、今回はJリーグで結果を残す87、88年生まれの中堅選手を多く呼び寄せているのが特徴的だ。小林悠(87年生まれ)、塩谷司(88年生まれ)のふたりは候補合宿以外では初のA代表招集となり、キャップ数が「1」の太田宏介(87年生まれ)と西大伍(87年生まれ)も、候補合宿以外ではこれが二度目のA代表の舞台となる。
 指揮官が今年26〜27歳になる彼らに見出しているのは、4年後の成長を見据えた人選というより、即戦力としての価値だろう。来年1月のアジアカップで「古い井戸」のメンバーのなかに組み込み、短期間でチーム力を高められる人材かどうかを、この2試合で見極めていく。
 
 特筆すべきは、4人のうちの3人が、最終ラインの選手であることだ。彼ら以外にも、より若い人材として昌子源(92年生まれ/怪我で招集辞退)、鈴木大輔(90年生まれ/追加招集)のふたりがリストに名を連ねたが、ザッケローニ前体制下ではCB、SBとも“常連”によって長い間、ほぼ固定されていたため、こうして新体制発足とともに競争が促され、その結果としてどんな化学反応が起きるのかは見物であり、守備強化をチーム作りの根幹とするアギーレ監督もそれを期待しているのだろう。
 
 今回の「新しい井戸」のなかで、個人的に最も注目しているのは太田だ。すでに多くの識者も指摘しているとおり、国内では稀有な左利きのSBであり、ビルドアップやサイド攻撃において、その特長を既存のチームに融合できれば新しい可能性を見出せるはず。
 
 私は2011年に清水エスパルスの担当記者を務め、太田のプレーを継続的に見たが、システマチックな4-3-3を採用したアフシン・ゴトビ体制下でも、その特長を十分に活かせていた。チーム事情から堅守速攻がメインとなるなか、自陣深くで対峙する相手をしっかりと食い止めながら、一気に縦へと飛び出す勇気と運動量、1対1の場面で果敢に仕掛ける積極性と切れ味、そして相手を抜き切らずに中央へ送るグラウンダーの高速クロスや、抉ってからの逆サイドへのピンポイントクロスなど、球種の多彩さも魅力だ。
 
 そうした特長は、現在所属するFC東京でさらに磨かれた印象で(ここまで絶対的なプレースキッカーに成長するとは……)、まさに「機は熟した」と言えるタイミングでの招集。国際舞台でどれだけ能力を発揮できるかは未知数な部分もあるが、小林、塩谷、西を含めた中堅4人組が、日本代表の「新しい井戸」として定着できるのか。Jリーグが育んだ“遅咲き”の代表戦士が躍動すれば、欧州組全盛の日本サッカー界にとっても意義深い出来事となるはずだ。
 
文:谷沢直也(週刊サッカーダイジェスト編集長)