特集 アジア大会2014の発見!(25)

 落胆の銀メダルと、プライドの金メダル。

 秋の韓国・仁川の夜空に日本応援団の「ニッポン・コール」がこだまする。ため息と歓声。アジア大会の7人制ラグビー(セブンズ)で、男女の日本代表が残酷なコントラストを描いた。

 まずは「サクラセブンズ」の女子日本代表。2点差を追うノーサイド直前。ラストワンプレーで、日本はボールをつなぎにつないだ。

 雨上がりのグラウンド。ゴール前に迫る。最後、竹内亜弥がタックルを受けながら、緩いパスを放った。フォローに駆け込んだ鈴木陽子が捕って、インゴールに飛び込んだ。「逆転!」。誰もがそう思ったが、なんとレフリーの笛が吹かれていた。ジェスチャーは「スローフォワード」。無情の判定である。

 ノーサイド。12−14。グラウンドにサクラセブンズの円陣ができた。竹内も鈴木も号泣している。主将の中村知春(ちはる)は気丈にふるまった。「悔しい」と漏らした。

「勝利まであと一歩で詰めの甘さが出た。修正して、次はてっぺんを取りたい」

 日本と中国の差は確実に縮まっている。よく前に出た。ボールを継続してプレーすることはある程度、実践できた。つなぎとディフェンス、体力では成長の跡を示した。では、何が足りないのか。サイズはともかく、やはり接点で当たり負けしてしまう。ブレイクダウン(タックル後のボール処理)で圧力を受けるため、密集周辺のタックルが一歩出遅れる。受けては、どうしても綻(ほころ)びが出る。そこを突かれて、トライを失った。

 浅見敬子ヘッドコーチは「貴重な経験になった」と言った。中国を倒さなければ、リオ五輪への道は開かれない。

「選手たちは力を出して戦ってくれた。スタッフも課題を見直し、アジアレベルのプレッシャー下であれば、落ち着いて自分たちのラグビーができるようトレーニングをして、次に向けて進みたい」

 通路で、男女の日本代表が交錯した。悔し涙の女子選手が、緊張気味の男子選手たちに雪辱を託す。「がんばってください」「金メダル、お願いします!」

 男子の日本代表は立ち上がり、キックオフで後手を踏み、ペースをつかめなかった。ラックサイドを突破され、香港に先制トライを許した。でも慌てない、焦らない。アジアの「盟主」として、ここで負けるわけにはいかなかった。いわば来年のリオ五輪アジア予選の前哨戦みたいなものだった。

 前半の中盤、15人制日本代表主将のリーチ・マイケルがハンドオフで相手をぶっ飛ばし、左中間におどりこんだ。同点。スタンドから声援が飛ぶ。「日本の宝だぞ、マイケル」と。

 直後にリーチが危険なタックルでシンビンを食らった。が、試合は安心して見ていられた。「ラグビー力」というか、理解力、スキルが違う。フィールドプレーが違う。堅固なディフェンスも光った。

 12−12の試合終盤。猛タックルでチャンスをつかみ、レメキ・ロマノ・ラヴァが勝ち越しのトライを奪った。終了間際。香港の怒とうの攻めをタックルで耐えて、しのぎ切った。

 勝った。24−12。アジア大会3連覇である。主将の坂井克行の言葉に充実感が漂う。

「決勝戦で、今シーズン一番のディフェンスができました。全員でとった金メダルです」

 瀬川智広ヘッドコーチ(HC)はこうだ。「選手たちが、日本のプライドを持って戦ってくれた。金メダルしか許されない状況になっていたので、勝ててホッとした。」

 総力戦だった。日本国籍を取得したばかりのレメキのほか、15人制日本代表の主軸のリーチも招集した。大会前にはけが人が相次いだが、トレーナーを2人体制にするなど、日本協会の支援も手厚くなった。

 今回、リーチがメンバー入りした意味は大きい。7人制と15人制の垣根が溶けていくことをアピールできた。トライとシンビン。リーチは「全部、経験できた」と苦笑する。

「金メダルをもらえることは、すごくうれしい。帰国したら、しばらくは15人制に集中する。でも、オリンピックには出たい」

 男子の日本代表は休む間もなく、世界の強豪とぶつかるワールドシリーズ(※)に参戦する。瀬川HCは気を引き締める。
※10月11、12日 オーストラリア・ゴールドコーストで開催。日本は、サモア、ニュージーランド、フランスと対戦する

「この勝ちは大きい。でも、ここで満足はしてはいけない。勝ちはしたけど、各国も強化している。もっと、もっと7人制を強くしていかないといけない」

 課題は多々ある。何より、ケガ人が出てもチーム力が落ちないよう、代表の選手層を分厚くすることである。日本協会の矢部達三専務理事は言った。

「いまやセブンズが15人制と変わらないくらい大切になってきている。協会というより、ラグビー界全体でセブンズをやっていかないといけない。その成果が徐々に出始めてきているようだ」

 リオ五輪のアジア予選まであと1年。このメダルを弾みとし、セブンズの支援体制の拡充と強化のスピードアップを図っていかなければならない。

松瀬 学●取材・文 text by Matsuse Manabu