ウクライナ情勢をはじめとする地政学的リスクが次々と台頭しているのに、なぜか世界の株式市場は堅調を維持しています。不思議だとは思いませんか? 今、世界経済で何が起こっているのでしょうか?

ウクライナ情勢、マレーシア航空機撃墜、イラクの武装勢力の台頭、イスラエルとハマス組織の対立……。今年に入ってから次々と地政学的リスクが台頭しています。

地政学的リスクとは、ある特定地域が抱える政治的や軍事的および社会的な緊張が高まること。結果、それをきっかけに世界経済全体の先行きが不透明になることを指します。地政学的リスクは、常に世界中のどこかにあるものですが、これほど頻繁に起こる年も珍しいでしょう。

過去には、湾岸戦争や世界同時多発テロのように地政学的リスクが高まったとき、世界の資本市場は大きく乱高下をしました。しかし、不思議なことに今年は、先進国だけでなく新興国の資本市場のボラティリティー(変動率)は低下を示し、ジリジリと上げ基調を強めています。

この背景にあるのは日米欧の超金融緩和。つまり、行き場をなくしたマネーが資本市場に流れ込むしかない状況で、これが地政学的リスクの緩和剤となっているのです。しかも、日米欧が金融緩和を行なうことで相対的に自国通貨が高くなることを嫌気し、そのほかの先進国でも金融緩和合戦が起こっています。このグローバルな金融緩和の下では、地政学的リスクに関係なく、株式市場を中心に資本市場への資金流入は長く続きそうです。しかし、いつかは株高も止まります。そうなれば地政学的リスクを再び意識し、一気に資本市場の下落が起こるかもしれません。では、この予兆に気づくためには日ごろから何をチェックしておけばいいのでしょうか?それは「有事のドル買い」、つまり米ドルの急激な上昇です。

地政学的リスクの高まりがきっかけで世界経済が失速すれば、資金調達が難しくなります。企業は最も流動性が高い基軸通貨である米ドルを現金で置こうとします。結果、米ドル需要が高まり、急激な米ドル高が発生するのです。

基軸通貨の条件は、々餾歇莪の決済通貨で流動性が高い、通貨価値の基準、3芦濬猗に使われる―の3点です。「有事のドル買い」が起こるのも、基軸通貨としての利便性や価値に揺るぎにくい背景があるからです。

世界的な金融緩和の恩恵ばかりに目を向けるだけでなく、「地政学的リスクがここまで意識されないのは歴史的に大変奇異なこと」だと、意識してみてはいかがでしょうか。

崔 真淑 MASUMI SAI

Good News and Companies代表

神戸大学経済学部卒業後、大和証券SMBC金融証券研究所(現・大和証券)に株式アナリストとして入社。入社1年未満で、当時最年少女性アナリストとしてNHKなど主要メディアで株式解説者に抜擢される。債券トレーダーを経験後、2012年に独立。

この記事は「ネットマネー2014年10月号」に掲載されたものです。