9月特集 アジア大会2014の発見!(22)

 世界選手権男子大会が終わって女子大会が第2次ラウンドに入ったところだが、全日本男子は今、南部正司新監督の今年度最大の目標であるアジア大会を戦っている最中だ。ロンドン五輪出場権を逃して植田辰哉監督が退任し、全日本バレー史上初の外国人監督であるゲーリー・サトウ氏が就任したのが昨年。しかし、彼は結果を残すことができず、日本が参加するようになって初めて世界選手権の出場権を逃し、続く11月のグランドチャンピオンズカップでも全敗を喫してリオ五輪を待たずに解任された。

 その後就任した南部新監督が5月の全日本活動開始時に掲げた2014年のスケジュールで、出場できない世界選手権の代わりに、最も重要な大会と位置づけているのがこのアジア大会である。全日本活動開始直後の5〜6月にかけて行なわれたワールドリーグでは、もっぱら新しい選手をできるだけたくさん試すことに主眼が置かれ、言ってみれば勝敗は二の次だった。7月に国内合宿である程度メンバーを絞って、8月から9月の頭まで長期にわたりフランス、チェコ、ブラジルをまわる海外遠征で親善試合や練習試合を重ねた。満を持して挑む今大会は、南部監督の手腕が評価される最初の一里塚となる。

「このチームは、本当に若いチームですよね。僕なんて、もうこの中ではおじいちゃんですよ」

 今年度から新しく全日本主将となった越川優(30)が、大学生3名を含め、半数が90年代生まれの仁川アジア大会のメンバーを指してこう笑った。全日本男子はこれまで5戦全勝。29日には準々決勝の組み合わせを決めるプレイオフで、昨年アジア選手権で敗れた中国に快勝し、F組1位となった。ある意味ここまでは勝って当然とも言えるが、若いチームを支えたのはやはり最年長となった越川だった。

 緒戦のサウジアラビア戦のゲーム中にオポジットの清水邦広が足首をひねり、第2戦のパキスタン戦は大事をとって出場せず、控えの椿山竜介で通した。第2、第3セットは越川と同い年のベテラン米山裕太に代わって石川祐希(18)がスタメンとしてコートに入った。この試合、ストレートで勝ったものの、3セットとも25-23の接戦。格下のパキスタンにリードを許す場面もあった。越川は一人で20得点を挙げ、両チーム合わせてのベストスコアラーに。ベストスコアラーは必ずしもその試合におけるベストプレイヤーというわけではないが、パキスタン戦のスパイク打数は越川22本、石川17本、椿山21本。決定率がそれぞれ68%、47%、33%。よくある「上がるトスの絶対数がやたら多いせいで、必然的になってしまうベストスコアラー」ではなかった。スパイクの他にもブロック2得点、サービスエース3得点。

「できるだけ若い選手に経験を積んで欲しかったので、セッターの深津(英臣)は、なるべくそちらにトスを上げていましたが、どうしても決めきれなくて得点が欲しい場面には、自分にトスを呼ぶようにしました。勝ったから言えることですが、この若いメンバーで結果を出せたのは本当に良かった」

 南部監督も「コートの中でも外でも、常にチームを引っ張っていこうという姿勢を感じさせてくれる。プレイで見せないといけないというプレッシャーもあったと思うが、予選ラウンドからずっと得点源となって、いい状態を作ってくれた」と合格点を出した。

 サーブに関しては元々ビッグサーバーだが、今大会での調子は素晴らしく、毎試合複数のサービスエースをとり、直接ポイントにならないときも、相手のレセプション(サーブレシーブ)を崩す場面が多い。第3戦のクウェート戦では7本のエースを奪った。5試合ずっとチーム最速サーバーで、時速110キロを超すサーブを放っている。

 もっともワールドリーグの頃は、主将としての熱意が、初代表の多いメンバーの中で若干空回りしているところもあった。「新しく入ってきたメンバーには、日の丸をつけて戦うということの重さをもっと感じて、意識を高く持ってほしい。それをどう分かってもらうか、ミーティングや日々の話し合いの中でそういう話をするようにしていますが、なかなか...」

 南部監督も、「(主将として)チームをなんとか牽引したいという思いが、負担になっていたところもあるようには感じた」とそれを認めている。夏の海外遠征から参加した米山や清水、永野健を含めたベテラン組4名で、そのあたりを上手く回していけるようになったようだ。

「今気をつけているのは、(代表経験が長く、年齢も)上の4人と、それ以外のメンバーとで意識に差が出ないようにということ。日の丸の重さを分かってくれるようになったか? どうなんでしょう(笑)。まだまだこれから感じていくところなんじゃないでしょうか」

 今大会、戦うのはネットを挟んだ相手だけではない。第4戦のタイ戦終盤、2枚替えでコートに戻ろうとした清水と深津のメンバーチェンジのコールが認められず、しかたなく椿山と内山良平のコンビがコートに戻ろうとしたところ、なんと深津だけは認められて椿山と交代するはめに陥った。つまり、コートの中にセッターが2人、攻撃専門のオポジットがゼロというピンチに。この時、とっさに「深津が(トスを)上げる!」と大声で指示を出したのが越川だった。おかげでコート内に大きな混乱は起きず、落ち着いて米山がレセプションアタック(※)を決めてサイドアウトを切り、清水もコートに戻って事なきを得た。この時の交代を司る副審は、その前のクウェート戦で主審を務めており、この時も、日本がサーブ位置についてからのクウェートのタイムアウトのコールを受理した。明らかにクウェートによる遅延行為であるが、日本の抗議にもかかわらず、この判断が覆(くつがえ)ることはなかった。
※相手サーブをレシーブ(レセプション)して攻め返すこと。ちなみに相手スパイクをレシーブして、攻め返すことを「ランジションアタック」と言い、使い分けられる

「アウェーだからというか、単純にあの審判の個人的な技術不足なんでしょうけど、まあそういうジャッジが1本や2本あったからといって、流れを持っていかれてしまうようでは世界で勝てない。そういうことも織り込み済みで勝てるようにしないと。あのとき、深津が上げることを指示したのは、それまでメインでいい流れを作っていたのが深津だったからというのと、内山が上げることにすると、ローテーション的に僕が打ちにいくのが難しくなって相手にブロックを絞られやすくなってしまうのでそう判断しました」(越川)
 
 一番大事なことは、ここでぐずぐずして、どちらがトスを上げたらいいのかわからないまま笛が鳴って、セッター2人が譲り合ってお見合いするか、最悪の場合は2人とも上げにいって交錯してしまうのを避けること。突発的なアクシデントにもよく対応することができた。

 日本は1日の準々決勝でインドと当たる。インドはリベロ以外の平均身長が196センチを超え、日本のそれを4センチ上回り、植田ジャパン時代のアジア選手権では敗れている決して侮れない相手だ。インドに勝つと準決勝で、韓国とタイの勝ち抜けた方と対戦することになる。韓国は開催国であり、昨年世界選手権の出場権を争って惨敗したチームでもある。決勝に来るのはおそらく今年度のワールドリーグでブラジルに勝ち越した、ここ数年で世界でも通用する強豪国となったイラン。韓国もイランも日本が出場できなかった世界選手権にA代表を送っていたが、両チームとも3次ラウンドに残れず、そのままのメンバーが今大会に回ってくることとなった。

「(準決勝で)韓国とイランのどちらが先に来るかはあまり気にしなかった。どちらもオリンピックに出るためには倒さなければならないから。決勝まで行けば、あとは勢いで何とかなると思うので、そこまでの一戦一戦、しっかり勝っていきたい」(越川)

 リオ五輪に出場するためには、来年夏のワールドカップで2位以内に入るか、最終予選大会でアジア枠トップ、または大会自体の上位に食い込まなければならない(詳細は未定)。越川の言葉通り、アジアの中で負けるわけにはいかないのだ。残り3試合で南部ジャパン初年度の真価が問われる。

中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari