9月特集 アジア大会2014の発見!(20)

 アジア大会2連覇を目指すなでしこジャパンは、今年5月のAFCアジアカップで4−0と勝利しているベトナムとの準決勝に臨んだ。

 決勝まで、同格のチームとの対戦がない日本にとって、この準決勝は、勝利はもとより、内容にもこだわらなければならない試合だった。以前からベトナムの組織的な守備力に、手こずってきた日本。今大会のベトナムは中盤のプレス強化に加え、徹底したショートカウンターでさらに手ごわい相手となっていた。

 雨のコンディションと、立ち上がりから動きのいいベトナムに、なかなかボールを落ち着かせることができない。それでも、左サイドバックに入った有吉佐織(日テレ・ベレーザ)の再三のビルドアップで、得点のチャンスを作り出す。17分には宮間あや(湯郷ベル)からのパスを受けた高瀬愛実(INAC神戸)が振り向き様にシュートを放つも立ちはだかったのは、抜群の反応を見せたGKのダン・チ・キウ・トリン。この試合、29本もの日本のシュートを浴びながら幾度となくファインセーブを見せることになる。

 ベトナムの守備網を破ったのは24分。一度はクリアされたコーナーキックに、立て直した宮間が反応してクロスを上げたがGKがクリア。そのこぼれ球を「たまたまそこにいた」という阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)が叩き込んで先制。阪口はこれで、ボランチながら今大会5ゴール目。

 しかし、ここからはなかなかラストパスからフィニッシュへの流れが生まれない。それでも焦らず、ボールを回しながら立て直す日本。追加点が生まれたのは後半8分のこと。宮間の左コーナーキックからのボールはDFにかすってポールを直撃、跳ね返りをDF北原佳奈(アルビレックス新潟)がつないで、DF長船加奈(ベガルタ仙台)が頭で決めた。

 ダメ押しの3点目は29分、宮間のショートコーナーからのクロスに菅澤優衣香(ジェフ)が合わせた。直前にゴール前の1対1のシュートを外していただけに、うれしいゴールに思わずガッツポーズ。ほとんど危険な時間を迎えることなく、3ゴール無失点で、日本が決勝に名乗りをあげた。

 3得点はすべてセットプレイからだった。"本来のなでしこジャパン"の十八番ともいえるセットプレイ。このチーム発足当初の3週間前にはなかなか息が合わなかった若手とのセットプレイが形になった。足元、空中戦、ショートコーナー......。工夫をこらしたセットプレイはこのチームでも最も信頼できる得点源だ。逆に言えばセットプレイ以外では、まだ"崩し"の精度が欠けてると言える。

 気になったのは、切り込み隊長である川澄奈穂美(INAC神戸)を生かしきれなかったことだ。サイドに開く川澄に最終ラインからボールがつくことはほとんどなかった。真ん中では増矢理花(INAC神戸)がDF陣に囲まれる状態が続く中、左サイドでは有吉のビルドアップなどで動きがあったものの、川澄への配給は滞っていた。得点力があり、味方を使うこともでき、バイタルエリアで余裕をもってプレイできる川澄を生かさないのはもったいない。

「だからこそ、多少無理な状況でもボールを(川澄に)出した」と宮間。

 前半40分には宮間から渡ったボールを川澄がドリブルで持ち込み、相手の股を抜き中へ折り返す。増矢が合わせたが、GKがセーブ。崩しのタイミングは完璧だった。こうしたテンポのプレイは何度でもトライしてほしい。

 守備においては攻守切り替え時の面で課題が残った。特に後半24分、パスミスからボールを奪われ、食らったショートカウンター。グエン・チ・ミュオンが中央からすぐさま右サイドへ展開すると、そこから一気にシュートまで持っていかれた。有吉が最後までついて、事なきを得たが、この手のカウンターに日本はめっぽう弱い。相手が決勝で戦う北朝鮮であれば、切り替えしからゴール前までのスピードは、これまで戦ってきた相手とはケタ違いだ。失点は免れない場面になる。

 ここまで厳密な守備を必要としてこなかった日本だったが、ベトナムと対戦することで、多少のイメージは構築できたはずだ。攻守切り替えの中から組み立てる攻撃は、スペースを取り合うスピードと駆け引きが必要となり、決勝ではさらに攻守がめまぐるしく入れ替わるはずだ。活用できるスペースが広がる分、奪われたときのリスクも高まる。

 準々決勝で中国に1−0、準決勝で地元・韓国に2−1で競り勝ってきている北朝鮮とでは、今大会に入ってからのチーム成熟度に大きな差があることは否めない。

「きっとみんな北朝鮮のスピードやパワーにビックリしちゃうんじゃないですかね。少なくとも、本調子ではなかったであろう初戦の中国以上の力は兼ね備えていると思うので。(ここまでの戦いとの違い)覚悟しています」と川澄は話す。

 それぞれが対峙する相手との間合いを見切ったところから、ゲームは動き出す。中堅が、いかに若手を引き出すように動かしながら、自分たちが思い描く組み立てを実現させていくかが金メダルへのカギとなる。若手は山形から始まった約3週間の実りを示すラストチャンス。これまで許されていたズレや精度のマズさは決勝では命取り。なんにせよ、中途半端なプレイは厳禁。次のなでしこ招集への道を開く90分間にしてほしい。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko