絶賛される「くるり」の新作―― お勉強家の分かりやすい“変さ”
 いまや日本を代表するロックバンドとなった「くるり」の11枚目のアルバム『THE PIER』が9月17日にリリースされました。その期待の大きさゆえでしょうか、これを受けて各メディアのみならずCDの帯文までもが興奮気味。

◆褒めるだけのメディアは音楽を弱らせる

「時代も国境も超越し、誰も聴いたことのない独創性と誰もの心に残る普遍性を兼ね備えた革命的大傑作」(雑誌「MUSICA」14年10月号)、「思わず誰もが言葉を尽くして語りたくなってしまうにもかかわらず、どんな言葉も届かない『名づけえぬ音楽』。」(アルバム帯文)などなど。。。

 誰も聴いたことがないのにどうして独創性があると分かるのだろうといったツッコミはさておき、果たしてこれらの言葉は本作の価値を正確に言い表したものなのでしょうか。たとえばジョン・フルシアンテの『Pbx Funiclar Intaglio Zone』やベックの『Morning Phase』を聴いた後でも、『THE PIER』が“革命的大傑作”と言い切れるだけの代物であるのかどうか。

 とかくミュージシャンと近しい関係を築くことに躍起な日本の音楽メディアの発する言葉は話半分に聞いておく必要がありそうです。

◆勉強の成果がそのまま差し出された”無国籍”

 一聴して、まず音の数の多さに驚きます。加えて音量が大きい。にもかかわらず、その音像はのっぺりとして平板です。厚みがないのにある程度の音量が確保されていることに、違和感を抱きます。ボーカルを埋もれさせないための工夫なのでしょうか。

 そして本作の特徴だという“無国籍”とも称される楽曲群ですが、冒頭の「2034」という曲から和声学の本に一夜漬けでマーカーを引きまくったような電子音のフレーズが押し寄せてくる。あたかも覚えたことを忘れないうちにしゃべりきるために早口になっているような楽曲です(※注)。

 様々な音階も併用され混在していますが、それもメロディとして聴ける段階以前のサンプルのようなもの。もっとも、それらが分かりやすい形で提示されていることで勉強にはなりそうですが、音楽学校の課題で提出された習作のようだとも言える。和声とサウンドとアレンジをどれだけいじくっても決して曲にはならないことを教えてくれる点で、よい教材になりそうです。

 そんな中でもデビュー当時からの彼らのカラーであるフォークロック的な楽曲になると、やはり生き生きとしてきます。チオビタドリンクのCMでおなじみの「loveless」やNHKの「ファミリーヒストリー」のエンディングで流れた感動的な「Remember me」は、言わば筋力のない奥田民生。

 それにしてもこのようなバラードでも同じフレーズの繰り返しが多いのは、ミニマリズムなのかそれともただアイデアが広がらないだけなのか、判断に悩むところです。

◆コラージュで遊びつくすためには…

 そしてやたらと“変だ”と強調されている、アルバム発売に先駆けて公開された「Liberty & Gravity」。

⇒【YouTube】くるり‐Liberty&Gravity http://youtu.be/LSDx4htNfjs

 確かに変は変なのですが、色々なアイデアがお勉強したときの形そのままに残り、しかも曲の流れに沿ってバラバラに並んでいるだけなので、実に分かりやすいのです。宇多田ヒカルの「Traveling」からの引用のされ方も実に常識的。まっとうな人間が想像する律儀な奇妙さとでも言えばよいでしょうか。

 情報が一音に込められているのではなく、その外側にぼてぼてと貼り付けられている。その手つきは親切丁寧ですが、聴き手にとってはありがた迷惑でしかない。

 そもそも、ポップミュージックにおいて変な曲を書こうと意気込んで実際に書けた人はいません。それができたとしても、各々の信じる正義や真理に忠実であろうとする姿勢の残りかすのようなものです。本作とGREAT3の傑作『METAL LUNCHBOX』を聴き比べれば、それが手に取るように分かるはずです。

⇒【YouTube】GREAT 3‐Little Jの嘆き http://youtu.be/wbfFgR3tc4I

 くるりというバンドが実に勉強熱心で、常に進化を遂げようと模索していることは本作からもよく理解できます。しかしその熱意がソングライティングそのものではなく、うわべの操作に向かっているのでは元も子もない。現状の岸田繁をたとえるなら、タチの悪いロビー・ロバートソン。

 とりあえず、バルトークやテンションコードは置いておいて、ハンク・ウィリアムスでも聴いたほうがよさそうです。コラージュで遊びつくされたベックの楽曲が揺らがないのは、その頑丈な基礎を持っているからです。それは、くるりの「ばらの花」から12年経って発表されたベックの「I won’t be long」と比較すると、より明確になるでしょう。

⇒【YouTube】くるり‐ばらの花 http://youtu.be/fpjIsylnvU8

⇒【YouTube】Beck‐I Won’t Be Long http://youtu.be/cLIBuuJnQHg

 この二つの曲は大変によく似ていますが、本質的には異なっています。単なる音階の羅列に過ぎないメロディが言葉と肉声を通過するとどう変化するか。それを想像する力の有無が両者を分け隔てているのです。

※岸田繁がいかに勉強熱心であるかは、以下のようなコメントからもうかがえます。

・「オアシス」デビュー20周年に寄せたコメント(1人目)
http://www.qetic.jp/music/oasis-140514/113304/

・『THE PIER』のライナーノーツを書いた田中宗一郎氏との“雑談”
http://togetter.com/li/578714

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>