アギーレ監督は、9月のウルグアイ戦(0−2)とベネズエラ戦(2−2)で、「堅守速攻」という新生日本代表の戦い方を見せてくれた。これは格上の強豪国と対等に渡り合うには適した戦術といえる。

 だが、日本サッカー界は「ダブルスタンダード」という問題を抱えている。これは、格上との戦いが多いW杯などの「世界」での戦いと、格下との戦いが多い「アジア」での戦いでは、基準が異なるということ。

 つまり、W杯などの"世界での戦い"では、格上の相手に押しこまれることが多いため、堅守速攻は有効な手段になる。一方、"アジアでの戦い"では、相手が日本より力が下の国が多く、自陣に引いて守りを固めてくるケースがほとんどなので、日本が堅守速攻でゴールを奪うのは難しい。その問題に、アギーレ監督がどう対処して、チームを強化していくのか興味深い。

 日本代表の強化を考えたときによく言われるのが、「強豪国との試合を増やす」ということだ。しかし、強豪国との対戦経験が増えるだけでは、戦い方の多様性というものが身に付かない。格上との試合と同じくらい、実力が近い相手や、格下との対戦もチームの強化にとって重要なことだ。

 たとえば、オシム監督時代の日本代表は、ヨーロッパ遠征で、強豪国との試合だけではなく、地元のクラブチームとも数多く試合を組んでいた。これは、いろいろなタイプのチームと対戦することで、選手が戦術的理解を深めて、さまざまな局面に対応して、ダブルスタンダードを克服する狙いがあったのだと思う。

 ただし、オシム元監督は代表監督に就任する以前からJリーグのジェフ市原(現・千葉)で指揮をとり、日本の文化や日本人選手のメンタリティというものを理解していた。だからこそ、独自の視点からこうした強化策を打ち出せたのだと思う。そう考えたときに、代表監督に就任する前は日本サッカー界と接点のなかったアギーレ監督に、同様のことを求めるのは難しいかもしれない。

 だが今後は、Jリーグやサッカー協会の協力のもと、アギーレ監督も、オシム元監督が実践したような多様性を身につけることを目的に、強化の一環として国内でトレーニング合宿を張ったり、積極的に海外遠征に行ってもらいたいと思う。

 次に招集メンバーについてだが、「7、8人を入れ替える」と発言していたアギーレ監督がどういう選手を呼ぶのか注目したい。なかでも「4-3-3」のフォーメーションの核になる中盤のメンバー構成は多くの選択肢がある。前回はアンカーに森重真人を置き、右に細貝萌、左に柴崎岳や田中順也が起用されたが、10月の2試合では新たな組み合わせが試されるだろう。

 前回ケガで途中離脱した長谷部誠、故障で戦列を離れている山口蛍、U-21代表の大島僚太なども含めて、このポジションはタレントが豊富だ。堅守速攻という戦術で重要な役割を担うポジションだけに、ベストな組み合わせを模索してもらいたい。

 個人的には攻守でハードワークができる米本拓司(FC東京)を見てみたい。彼の守備のうまさはJリーグでのインターセプト数を見れば一目瞭然で、同時に、アグレッシブにゴール前に攻め上がってシュートも打てる。また、Jリーグで4-3-3のフォーメーションを敷くチームが少ない中で、FC東京は戦況に応じて4-3-3も採用している。そのため、米本がアギーレ監督の戦術に適応するのに時間はかからないはずだ。

 10月14日に対戦するブラジルなど、格上との試合では、アンカーの森重がDFラインに吸収される可能性が高い。そのときにポイントになるのが、森重の前にいるふたりのMFだ。

 森重がDFラインに下がっても、ふたりが中盤にとどまることができれば、前線との距離は開かず、ボールを奪取した後に素早く攻撃に切り替えることができる。そのためには、ハードワークができて、守備能力が高く、フィードの正確な選手が求められる。その点で、24歳の米本と、22歳の柴崎というコンビを、ぜひ試して欲しい。

 アギーレ監督は、これまで率いてきたチームで、メンバーを固定することがほとんどなかった。メキシコ代表でも、アトレティコ・マドリードでも、エスパニョールでもそう。それはつまり、アギーレ監督の基本戦術である堅守速攻の場合、ポゼッションサッカーのようにコンビネーションを高める必要がそれほどないため、対戦相手との兼ね合いや、選手の調子の善し悪しで、メンバーを入れ替えやすいということだ。

 そのため、10月の2試合でも所属クラブで活躍している好調な選手が招集されるはずで、とくに前線の選手は多くの組み合わせが試されるだろう。

 前線の「3」の両サイドのポジションは、右に本田圭佑がいて、左には岡崎慎司や柿谷曜一朗、9月に結果を出した武藤嘉紀、さらに香川真司もいる。誰を起用するのか迷うほどだが、それに加えて、サイドからドリブルで仕掛ける選手が少ない印象だ。時間とスペースがない現代サッカーにおいて、個の力で相手の守備陣形を崩せる選手は、大きな武器になる。ガンバ大阪の宇佐美貴史やヘルタの原口元気、セレッソ大阪の南野拓実など、好調を維持しているドリブラーを起用してもらいたいところだ。

 また、ブラジルのような強豪と戦う場合、飛び抜けた特長を持っている選手の方が相手に脅威を与えるもの。その意味で、ロンドン五輪で世界に通用するスピードがあることを証明した永井謙佑も、日本代表で見たい選手のひとりだ。アギーレ監督の目指す堅守速攻のスタイルならば、彼のスピードが生きるスペースが前線に存在する。

 そして、アギーレ監督が最も頭を悩ましているのが、前線の「3」の中央の1トップだろう。イブラヒモビッチ(パリSG)のようなFW がいれば悩むことはないが、残念ながら日本には高さ、強さ、技術のすべてを兼ね備えたFWは見当たらない。前回は皆川佑介が起用されたが、今回はハーフナー・マイクの招集が予定されている。194cmの高さを持つハーフナーは、大きな武器になる可能性を秘めている。彼がリーガ・エスパニョーラで揉まれて、さらに成長してくれることに期待したい。

 また、日本代表が世界のトップクラスと戦うときは、中央に構えて起点となるタイプの1トップでは、ポストプレーが機能しない可能性もある。そうした時は、岡崎慎司のように動きながらボールを受けるのがうまいFWを起用するのもひとつの手だ。実際、マインツでの岡崎は1トップで起用されて結果を残している。また、浦和の興梠慎三も動きながらボールを受けるのがうまい選手なので、1トップ候補といえる。

 その点でアギーレ監督に抜かりはないだろう。過去にメキシコ代表を率いた経験を持ち、スペインリーグなどでビッグクラブも中堅クラブも率いた実績のある監督なので、相手に応じて戦い方を切り替えることができるはずだ。

 アギーレ監督は連覇のかかる来年1月のアジアカップを目指しながら、その先を見据えて、新たな選手を日本代表に招集して活性化を図っている。選手を競争させることでレベルアップを図り、選手層を厚くする狙いがあることは間違いない。

 その効果は早速表れていて、Jリーグでは刺激を受けた選手たちが代表入りを目指してアピールしている。9月のベネズエラ戦では本田がFKを外した直後に、すごい悔しがり方を見せた。あれは武藤、柴崎という新戦力がゴールを決めたことで、刺激を受けていたからだろう。アギーレ監督には、今後も多くの新たな選手を招集し続けてほしい。

 本田をはじめ、長友佑都や、吉田麻也といった主力が危機感を覚えてさらに成長していかなければ、真の意味での日本代表のレベルアップはない。次の親善試合でも新たな選手たちが活躍して、さらなる競争原理が働く日本代表になることを期待している。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro