宮市本人も認めるように、コンディションがまだまだ不十分。このユトレヒト戦でも、本来のスピード感はなかった。 (C) Getty Images

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「(試合が始まって)早い段階で時計をみたら、(ハーフタイムまで)まだ20分もあるんだなと。当然そんなことは言えないので、なんとか頑張るしかなかったです。ただ、本来の身体にはまだまだ戻っていないというのが正直なところです」
 
 プレミアリーグのアーセナルから、オランダ・エールディビジのトゥベンテに1年間のレンタルで移籍した宮市亮。オランダの労働許可が下りた翌日の9月11日からチーム練習に参加し、公式戦4試合に連続出場、そのうち2試合が先発と着々と地歩を固めている。
 
 とはいえ、9月28日のエールディビジ7節ユトレヒト戦では、度重なる怪我で長く実戦から離れていたブランクの大きさを、改めて痛感したようだった。
「前半で息が上がるくらいだった。体力を早く戻したいという気持ちはありますけど、そればかりは時間がかかると思います」
 
 接触プレーで膝を強打したこともあり、その直後の52分にベンチに下がった。
「ハーフタイムのときに(体力的に)キツイですと告げていて。それで後半に入って、タックルに行ったときに膝を痛めた。その点も考慮して、監督は交代を決めたんだと思います」
 宮市は直接ゴールに絡むことなく、ユトレヒト戦を終えた。試合は3-1でトゥベンテが勝利した。
 
 宮市が苦しむのも無理はない。アーセナルでの昨シーズンは、肋骨や太腿裏の怪我のために長期離脱を余儀なくされ、1軍の公式戦出場はわずか5試合。最後にピッチに立ったのは、昨年10月29日のリーグカップ・チェルシー戦で、1年近く実戦から遠ざかっていたことになる。
 
「試合に出ていないことで、こんなに(状態が)変わるのかと。試合に出ていなくても、レベルの高い環境で練習をやれていると感じていたし、リザーブリーグの試合にも何試合か出ていた。だけど、それは実戦と全然違う。(周りの選手から)話として聞いてはいましたけど、実際やってみて『ああ苦しいな』と」
 
 ユトレヒト戦の宮市は、まさにその言葉通りの状態だった。4-3-3の左FWとして積極的に仕掛けようとしても、スピーディーなドリブル突破は見せられない。開始4分、ペナルティーエリア近くまでドリブルで持ち上がり、ファウルを誘ってFKを獲得。これをMFカイル・エベシリオが決めて先制ゴールにつなげたが、アーセナル入団時から宮市の取材を続けてきた筆者から見ると、速さ、俊敏性、縦への突破力は本来のレベルにはまだまだ遠いと言わざるを得ない。
 宮市自身は、とくに体力面での課題を口にする。
「良い位置でパスを受けて、(ドリブルなどで)相手のラインを下げさせるのが僕の役割だと思いますが、それに必要なのがスプリント力。以前はもっとバンバンとスプリントしていたと思うんですけど、いまは一本、二本して、『あれ?』って感じで」
 
 オランダのチームの両翼は、相手SBとの1対1で縦にドリブルを仕掛け、攻撃の突破口を開く役割を担う場合が多い。宮市も例に漏れず、アルフレド・スフルーデル監督からは「1対1に勝ってほしい。とにかく(相手に対して)仕掛けてほしいと言われています」。しかし、コンディションが万全ではないため、味方にいったんボールを預けて、その選手を追い越していく際などにツラさが出るという。
 
 それでも、宮市は前向きだ。「試合勘はだんだん戻ってきています。今日よりも次の試合と、そう考えてやっていきたい」と話し、全体練習後に追加のトレーニングを積みながら、地道に完全復活を目指している。
 
 なによりも、アシスタントコーチから昇格したスフルーデル監督の信頼を勝ち取っているのは心強い。「監督は体力面を気にかけてくれていて、我慢して使ってくれている」。
 
 そんなスフルーデル監督に、宮市も信頼を寄せている。
「監督は戦術家。トゥベンテに来るときも『こう使いたい』と説明してくれました。ここなら成長できると思った」
 
 宮市は現在21歳。欧州サッカー界では「若手」と呼べる最後の年代だ。コンディションを取り戻し、結果を残しつづけることが、今シーズンの最大のテーマだ。
 
「突きつけられている壁だと思う」
 宮市はオランダの地で再び歩み出した。そう、覚悟をもって――。
 
取材・文:田嶋康輔