『名勝負数え唄』(モンキー・チョップ/双葉社)

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 せちがらい世の中になったものである。他でもない、押切蓮介氏の人気マンガ『ハイスコアガール』がゲームのキャラクターを無断使用したと告発された問題だ。ゲームの販売元・SNKプレイモアが出版元であるスクウェア・エニックスを刑事告訴。同社には大阪府警のガサ入れが入ったという。

『ハイスコアガール』は一応、若者たちの青春群像を、実在のゲームとシンクロさせながら描いている作品。著作権法上、引用が許される範囲内にとどまっている可能性が高い。それなのに、警察が刑事告発にガサ入れまでするというのは何かウラでもあるんじゃないのか、と疑わしい気持ちになる。

 しかし事件の裏側はともかくとして、心配なのは、マンガ界への影響だ。というのも、こういう他の作品のキャラをパロディにしたり、オマージュとして引用したりするのは、マンガ界でひとつの文化として定着してきたからだ。商業マンガでも『さよなら絶望先生』(久米田康治/講談社)や『ケロロ軍曹』(吉崎観音/角川書店)、『銀魂』(空知英秋/集英社)、『幕張』(木多康昭/集英社)、『太臓もて王サーガ』(大亜門/集英社)などなど、他のマンガをパロッたり、ギャグにしている作品は数多く存在する。そういうマンガを豊かにする文化が今回のことで、自主規制されてしまうのではないか、そんな懸念が頭をもたげてくるのだ。

 とかなんとかいっていたら、あえて地雷源に飛び込んでいくような勇気あるマンガ作品を見つけてしまった。その作品の名は『名勝負数え唄』(モンキー・チョップ/双葉社)。タイトルからは想像もつかないだろうが、バカバカしさに満ちあふれた作品なのだ。

 侍が存在していた時代という時代設定で「剣の世界には歴史に埋もれた名勝負が存在する──この決闘がまさにそれである!!」というモノローグが流れ、主人公である無名の剣豪・片岡新蔵がさまざまな強敵と勝負を繰り広げていく。これがストーリーの骨子となる。片岡はときには剣豪、ときには忍者、ときには拳法家といった敵と対決していくのだが......。真面目なのはここまでである。敵がもう本当にどうしようもないキャラたちばかりで、2ページ目、いや下手すると2コマ目から、作品がバカバカしい雰囲気をまとうのだ。格ゲーで言う"ハメ技"使い、鳥に恨まれている鳥使い、ペニスの形をした刀をふるう妖刀使い、ラップバトルを仕掛けてくるラッパーといった具合にヘンテコキャラたちが、片岡に次々と勝負をしかけてくる。さぞや片岡も迷惑だろうと思いきや、律儀に相手をしていき、ラッパーが相手のときには自作のラップを披露する始末。ああだめだ。やっぱりこいつも変だ。

 そんな敵さんたちのなかには、「これ、すげーな」と思わずツッコんでしまいそうになるキャラもけっこういる。たとえば、巌流島が舞台となった話では、プライベートビーチで休暇を楽しむ片岡の前に、ある敵が現れる。そう、舞台となっている島に欠かせない人物、「巌流島の決闘」で有名な宮本武蔵である。まあ、有名な剣豪ではあるし、時代設定的にも登場することにはまったく問題はない。しかし、その姿が大きな問題だ。あろうことか、『バガボンド』(井上雄彦/講談社)の宮本武蔵に激似の姿で現れるのである。激似というか、逆にうまいよ、作者は絵がうまい。と、混乱のあまり斜め上の意見を言ってしまいそうになるほどである。

 その後もまたすごい。相手が宮本武蔵だと気づいた片岡は「武しゃん...」とか言いながら怯え、戦いを放棄してしまいそうになる。しかし、そんな片岡の前にある人物が浮かび上がってくる......。安西先生である。『SLAM DUNK』(井上雄彦/集英社)の主要キャラのひとり、安西先生である。また、登場するだけならまだしも「あきらめたらそこで試合終了だよ」という珠玉の名言まで喋らせるのだ。しかし、まだまだこんなもんじゃない。こんなもんで終わらないのである。

 ある話では、片岡の前に突然、敵がスーッと空から降りてくる。イメージ的には『ドラゴンボール』(鳥山明/集英社)の舞空術が近い。キャベッツと名乗るその敵の姿がまた、もうなんというかほぼ『ドラゴンボール』に登場した悟空の兄「ラディッツ」なのである。大きな違いは戦闘ジャケットが新型のものになっており、腹部がむき出しというくらいだろうか。なぜ読者が"似ている点"ではなく、"違っている点"を探さなければならないのか......考えても無駄なので置いておこう。スカウターもほぼそっくりそのままで、片岡相手にそれを使用し「戦闘力たったの3か ゴミめ」というセリフをのたまう始末。ちなみに本家のラディッツは「戦闘力...たったの5か...ゴミめ...」だ。違いは数字だけである。キャベッツは一方的に片岡を「キャベッツ砲」で攻撃。仕留めたと思うのだが、片岡はフリーザばりに変身。元気玉っぽい技を使いはじめ......。あとはもうオチなので言及は避けるが、もうやりたい放題である。

 フリーザといえば、それっぽい敵「レイゾー」も出てくる。登場シーンはキャベッツと同じく空から降りてくるのだが、その際のポーズが両手を腰のあたりで広げて片足を少し折った、フリーザの有名なポーズまんまである。また、レイゾーがフルパワーを出すと、筋肉が隆起し、マッチョになる。うん、悟空相手にフルパワーを出したときのフリーザそっくりだ。

 ほかにも、片岡が『GANTZ』(奥浩哉/集英社)に登場する"ガンツスーツ"っぽい服を着たり、『シグルイ』(原作・南條範夫、作画・山口貴由/秋田書店)に出てくる必殺技"無明逆流れ"そのまんまの技を披露したり(絵柄もシグルイに似せるという徹底ぶり)、作者の自画像が鳥山明の自画像そっくりだったりと、もう呆れるくらいやりたい放題している。

 なんだかもう逆に心配になってきた。本当にこれ、大丈夫なのだろうか? トラブってないだろうか。そこで真相を探るべく、出版元の双葉社に直撃取材を決行することにした。休暇をエンジョイしていた担当者を強引に呼び出してもらい、話を伺ってみると......やはり「バレたら怖いですけど、大丈夫です」とのこと。しかし、続けて「悪くは描かないようにしていたので、パロディとして許してほしいなー、なんて思っています」と朗らかに語った。軽いよ! なにこれ、社風? 編集方針? と思ってしまうくらいの軽さである。しかも宮本武蔵の回は「作者はがんばって寄せて描いたんですよ〜」と言ってしまう始末。軽いし、がんばる方向が間違っているしで、もうなにを言ったらいいのやら......。と、頭を軽く抱えていると、担当者から衝撃の言葉が発せられた。「じつはあまりにもヤバすぎて、単行本での掲載を見送った、いわゆる"封印した"回もありまして......」とのこと。なに! それは捨て置けぬ! いったいどんな内容かを伺ってみることにした。「寄生獣のパロディなんですけど、敵の股間から"ミギー"ならぬ"マギー"が生えてまして、それを片岡がバサッとやるという......」もういい! 心配して損したわ!

 とまあ、思わずあきれ果ててしまうものの、それでも笑いがこみあげてきてしまうのは作者の腕が良いからなのだろう。また、上記の"あからさま"なパロディだけではなく、作中には『AKIRA』(大友克洋/講談社)や『BARレモン・ハート』(古谷三敏/双葉社)などのオマージュが散りばめられているので、そういったネタを見つけるのも楽しみのひとつだ。

 パロディギャグマンガ界に新風を吹かせる『名勝負数え唄』。ギリギリを楽しみたいのなら、ぜひ一読してみてほしい。まあ、これくらいのことは許されないと、マンガ文化はダメになってしまいますよ、マジな話。
(オンダヒロ)