9月特集 アジア大会2014の発見!(14)

 武蔵くんを先発で起用し続ける理由は、どこにあるのでしょうか――。

 U−21日本代表を率いる手倉森誠監督に、そのような質問が投げかけられたのは、今年1月、オマーンで行なわれたU−22アジア選手権でのことだった。その記者の口調には、厳しく問いただすような響きはなく、ただただ素朴な疑問、というような感じだった。

 このとき指揮官が、鈴木武蔵を起用する理由として挙げたのは、「守備面での貢献」だった。

「コーナーキックの守備でニュートラルの役目(誰のマークにもつかず、ニアサイドで弾き返す役目)を担っているし、相手のセンターバックからアンカーへのパスコースを潰しながら、プレスの方向づけをしてくれている」

 もっとも、裏を返せば、「守備面での貢献」しか挙げられなかったとも言える。鈴木武蔵はその大会で4試合すべてに先発し、フルタイム出場を飾ったが、ゴールはひとつも奪えなかった。そればかりか、見せ場もほとんどと言っていいほど作れなかった。

 指揮官の本音がもう少し聞けたのは、U−22アジア選手権から帰国して1週間後、単独インタビューでのことだ。

「武蔵のポテンシャルに期待しているんだ。あのスピードや高さを、あいつ自身がもっと生かせるようにならなければいけないけど、チームとしてうまく生かせれば、攻撃のバリエーションがすごく広がる。まだまだ物足りないけど、今大会(U−22アジア選手権)でもタフにやってくれたし、長くピッチにいたからこそ感じたものも大きいはずだよ」

 彼の名誉のために記しておけば、U−22アジア選手権での鈴木武蔵は、本調子ではなかったようだ。それから2ヶ月が経った2014年3月下旬、東京で行なわれたU−21日本代表候補キャンプで、「あの時は調子が悪くて、あまり起用してほしくなかったぐらいで......」と苦笑交じりに打ち明けている。

 U−22アジア選手権の行なわれた1月と言えば、Jリーガーにとってシーズンオフの真っ只中。鈴木武蔵に限らず、どの選手も身体が重そうで、本調子の選手を見つけるほうが難しいくらいだった。しかし、「あのときは期待に応えられなかった」と語った彼が、それから半年の間で急成長しているのは確かだ。オマーンから帰国したあとには、「シュートまでの持ち込み方や自分の動き方を、もう一度考え直して練習している」と言い、夏以降は、「監督(アルビレックス新潟の柳下正明監督)に言われて、練習後に居残りで、クロスからヘディングの練習をしているんです」と語る。

 アジア大会では、その成果が結果となって表れている。

 クウェートとの初戦で2ゴール、ネパールとの3戦目も2ゴール、そしてパレスチナとの決勝トーナメント1回戦でも1ゴールを決め、前回大会で得点王に輝いた永井謙佑(名古屋グランパス)の5ゴールに並ぶ得点をマークした。

 特筆すべきは、ゴールパターンの豊富さだ。クウェート戦の1点目とパレスチナ戦では、「苦手」というヘディングからのゴール。クウェート戦の2点目は、ニアサイドに飛び込むと見せかけ、途中で止まってマークを外し、マイナスのクロスを呼び込んだ。ネパール戦の2ゴールはいずれもファーに走ってボールを呼び込み、1点目は正確なトラップから右隅に流し込み、2点目はスライディングで蹴り込んだ。

 また、ゴールだけに留まらない。ネパール戦でのFW中島翔哉のゴールは、「翔哉が裏に走っていたのを感じた」と言う鈴木武蔵の絶妙なスルーから生まれ、パレスチナ戦の先制ゴールは、鈴木武蔵がポストプレイで落としたボールをMF遠藤航が決めたもの。ゴールに絡むプレイにも冴えが見える。

 プロになるまではスピードと身体能力で勝負してきたため、ヘディングやポストプレイは得意ではなかった。だが、そうした苦手なプレイで得点やアシストをマークしていることに、本人も手応えを隠さない。

「自分でも成長しているなって感じます。もっとたくさん獲って、それ(ヘディングやポストプレイ)がストロングポイントになってくれば、 FWとしてもう一段階成長できると思います。裏でも空中戦でも勝負できるようになれば、相手もやりにくいだろうと思いますから」

 我慢して起用し続けたストライカーの成長に、指揮官も目を細めている。

「ボックスに入っていく迫力は、オマーンの時(U−22アジア選手権)よりも増したなって感じるね」

 準々決勝の相手は、今大会の開催国でもあるライバル韓国に決まった。その大一番を前にして、鈴木武蔵が自信をつけているだろうことは、こんなコメントからもうかがえた。

「アウェーで韓国と戦うのはなかなか経験できないことだし、本当に楽しみです。自分たちが今までやってきたことを出せれば、得点のチャンスはあると思います」

 チケットはすでに完売。満員の観客で埋まるアウェーの韓国戦を「楽しみ」だと語るプラスのメンタリティは、「あまり起用してほしくなかった」と言った8ヶ月前と比べ、あまりに対照的だ。

「韓国は足もとに厳しく来ると思うので、それを逆手に取って、チェックの動きで(相手を)剥がして背後を取るのが重要になる。裏にボールが出たら、五分五分の状態でも負ける気はしないので、自分のストロングポイントを生かして勝利に結びつけたいと思っています」

 クウェートとの初戦を終えたあと、U−17日本代表でもチームメイトだったDFの岩波拓也が、ミックスゾーンでこんなことを言っていた。

「どんな形でもFWにはゴールが大事だし、武蔵が2点獲れたことでチームとしても勢いが出る。今のチームを見れば、あいつがエースだと思うので、そういう選手が点を獲るのはすごく大事なことだと思います」

 後日、そのコメントを鈴木武蔵に伝えると、彼は少し照れながらこう言った。

「いや、まだエースじゃないと思っているので。でも、チームを優勝に導けたら、エースになれるかなって思います」

 芽生えつつあるエースの自覚、掴みつつあるストライカーとしての自信。それを本物にするため、鈴木武蔵は28日の韓国戦に臨む――。

飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi