今夏の移籍市場の締め切り寸前、オランダリーグ「エールディビジ」のトゥウェンテが、アーセナルに所属する宮市亮を期限付き移籍で獲得した。9月4日の入団記者会見で、宮市は流暢な英語でこう語った。

「興奮しています。(かつて在籍していた)フェイエノールトでの記憶は、ただ良い思い出だけ。だから、オランダに戻って来ることができて嬉しいです」

 わずか半シーズンだったとはいえ、2011年2月にプロデビューを果たしたばかりの宮市がさっそうとサイドを切り裂く姿に、フェイエノールトのサポーターは熱狂した。デビューから6日後のホーム初出場でゴールを奪った試合後には、「リーオ! リーオ! リーオ!」の大合唱が巻き起こったものだ。

「テレビやマンガで見る世界だったので、本当に嬉しかった」

 当時18歳だった宮市は、マン・オブ・ザ・マッチで得たシャンパンを抱えながら、息を弾ませた。

 あれから、3年が経った――。

「どれだけ引っ越ししたんだ、と言うぐらい、いろんなチームを転々としていますね」と振り返るほど、宮市は住処(すみか)を変え続けている。フェイエノールのロッテルダムに始まり、アーセナルでのロンドン、ボルトン、ウィガン、ロンドン、そしてトゥウェンテの本拠地エンスヘーデ......。フェイエノールト時代の宮市より、間違いなく今のほうがメンタル面で成長し、そして大人になった。だが、実戦経験は、それほど積み重ねることができなかった。

 オランダ人にとって宮市のイメージは、3年前のフェイエノールト時代のままだ。今シーズンの第5節、9月13日のゴー・アヘッド・イーグルス戦で68分から投入された宮市は、可もなく不可もないプレイだったものの、サポーターの期待は膨れ上がっていくばかり。9月20日付の地元紙『トゥバンティア』のウェブ投票では、翌日に行なわれるヘラクレスとのダービーマッチ(※)で、「宮市を先発起用すべき」という意見が77パーセントにものぼった。

※トゥウェンテの本拠地エンスヘーデと、ヘラクレスの本拠地アルメロは、同じオーファーアイセル州に属している。

 そしてダービーマッチ当日、トゥウェンテのアルフレッド・スフローダー監督は、期待をかけて宮市を抜擢した。

「スタメンを聞かされたときは、興奮しました」と宮市。しかしこの2年間、ケガに悩まされ、実戦から遠ざかっていた宮市の試合勘は、まだ鈍っていたと言わざるを得ない。

 宮市と対峙したヘラクレスのサイドバック、マイク・テ・ウィーリクの密着マークにあったとはいえ、フリーになっても軸足はぐらつき、自らバランスを崩すシーンが幾度もあった。また、縦にボールを運んで加速しようにもスピードが乗らず、後方からテ・ウィーリクに追いつかれたこともあった。キレで勝負するタイプの宮市は、コンディションが上がらないと、どうしても厳しい。

「自分の得意とする1対1の部分だったり、自分の置きたいところにボールを置けなかったり、自分の想像している身体の動きがうまくいかなった。本当に、『何やっているんだろう......』という感じですけど、終わったことはしょうがないので、次に向けてコンディションをどんどん上げていかないと。今日は60分で足がつって全然走れてなかったので、そういうところもね(改善しないといけない)」

 試合後に話を聞いていると、言葉の端々から危機感が伝わってくる。「自分自身が腹立たしい」と、宮市は自らを叱責し続けていた。

 だからこそ、親友の宇佐美貴史(ガンバ大阪)や高木善朗(清水エスパルス)といった、同い年へのライバル心を封印し、今は自分のことに集中すると語る。

「同世代の活躍は、刺激になります。昔はすごく気にしてプレイしていたときもありました。ただ、気にしたところでどうなるわけでもないと、最近は思えるようになりましたね。自分のことは、自分でやらないと。そうすれば、結果はついてくる。まずは他人を気にすることより、自分のことを気にする時期だと思いますので、頑張ってやっていきたいです」

 9月4日の入団記者会見で、宮市はこうも言っていた。

「苦しい時期は、やっぱり自分(の実力)を疑いがちになりますけど、そういうとき、いかに自分を信じてやっていけるかが大事になってくる。しっかりと自分の足もとを見つめてやっていきたいと思います」

 自分が意図するプレイと、実際のプレイにギャップがあるというのは、サッカー選手にとって相当辛いことだろう。だからこそ、その言葉を常に忘れず、自分を信じて今季に再ブレイクを賭けてほしい。

中田徹●文 text by Nakata Toru