9月特集 アジア大会2014の発見!(13)

 9月25日、フェンシング男子フルーレ団体は決勝で中国を破り、40年ぶりの金メダルを獲得した。

 その2日前に行なわれたフェンシグ男子フルーレ個人戦で太田雄貴が3位になり、アジア大会では06年ドーハ大会の金以来となるメダルを獲得している。しかし、彼のこの大会の本当の目的は、団体戦での優勝だった。

「元々僕が復帰したのもそのつもりだったし、この大会は世界ランキングには反映される大会ではないけど、各国のNOC(国内オリンピック委員会)も大切にしている大会でガチンコの中国とも戦えるまたとないチャンスだったので。今は個人戦で戦うと日本人は中国の上位3人には勝てないと思うんです。でも団体なら自分たちでも勝てるんだという気持ちを持っていないと来年からの五輪レースでは勝ち上がれないと思うから。だから今回優勝して、『世界チャンピオンになった中国にも勝てるんだ』というところが欲しかったんです」

 日本男子フルーレの現在の国別世界ランキングは8位。五輪出場権は来年4月から16年4月までの1年間のランキングで決まるが、4位以上が無条件で出場できてそれ以外は大陸枠になり、最上位の1国のみに出場権が与えられる。現在アジア勢では中国が無条件で出場できる2位につけているが、韓国が5位にいて日本は8位。ロンドン五輪で銀メダルを獲っている日本だが、このままでは出場権を得られなくなってしまうという危機的状況なのだ。

「僕もロンドン五輪後は1年間試合に出なかったけど、それで国別ランキングが落ちてしまってなかなか浮上できない状態です。僕個人が勝つだけなら、『太田先輩だから』ということになってしまう。だからアジア大会では団体戦で優勝して、試合に出た選手だけではなくロンドンの代表にもなった淡路卓やその下の若選手たちに『この先輩に練習で勝てるんなら、僕たちも世界で勝てるんだ』という気持ちになってもらいたいと思っていました」

 こう話す太田によれば、選手たちもロンドン五輪で自分たちのショーが終わってしまった感じで、どこか人ごとのような、当事者意識が希薄になっていたというのだ。その空気を変えるチャンスがアジア大会だった。

 24日の団体戦1回戦。シードになった日本は準々決勝で格下のタイと当たり、失点は10点だけの45対10で圧勝した。

 そして韓国との準決勝では「韓国は10点差を付けると気持ちが切れるので、いつも前半勝負にしている。1巡目で5〜6点差を付けて、2巡目で勝負するつもりだった」と太田が言うように、最初の太田が5対2とリードを奪った。2番手の三宅諒が1ポイントも与えず5点を連取して10対2に。3番手の千田健太は相手に6点取られながらもその差を7点に保って2巡目に回すと、次の三宅が9点差に開き、太田が13点差にして勝負を決めた。最後は気の緩みから韓国に連続得点を許したが、結局45対29で思惑通りの勝利をあげた。

 だがその夜に行なわれた中国との決勝では出足でつまずいた。一番手の千田は相手の速い攻撃に対応できず、1対5とリードを許す。2番手の太田は3点を取ったが相手に5点を取られて4対10。そして3番手の三宅も1点を取っただけで5対15と10点差をつけられた。

「あの時は僕も含めて勝てると思わなかったし、厳しいなという感じでした。でもそれまでは攻撃的に出てポイントを取られるという相手の術中にはまっていたので、そこからは攻撃的ではあるけどじっくり待って相手のミスを突くという作戦に変更しました」(太田)

 一時は4番手の千田は途中で11点差まで開かれる場面がありながらも、作戦変更はうまく当たり、8点差に挽回する粘りを見せ、三宅もキレのいい動きを取り戻して6対5と粘り、得点差を7点に詰めた。そして太田が世界ランキング1位で今大会個人戦優勝の馬剣飛を相手に、鮮やかな逆転劇を演じた。

 太田はまず最初に4点を連取し、馬に2点取られながらも、そこからまた3点連取。そして馬に2点連取されたあと1点を取られると、次の対戦に交代という土壇場のところでさらに4点を連取して一度は同点に。最後は1点を取られたが1点差に迫った。

 それで勢いを得た三宅は、再び同点に追いつく場面を見せて場内を沸かせ、1点差を死守。続く千田は3点連取されて、万事休すかと思われたが、そこから6点を連取して40対38とリードして再び太田につないだ。一度は4点差まで広げた差を詰められる場面もあったが、最後まで落ち着いて戦い、45対42でアジア大会団体初優勝を果たした。

「これまで中国相手に10点差をつけられた試合は、惜しいところまでいったことはあるけど勝ったことは無かった。非常に難しい展開で10点以上開いて、そこから中国に勝つのは100回に1回あるくらい。その1回が今日来たと思う。(千田)健太と三宅が粘って少しずつ点差を詰めてくれて自分のところに回ってきたが、みんなが自分のマイナスだったところを補てんしようとしていたところが良かった。この苦しい試合をものに出来たことは嬉しいし、最近は選手の中にヨーロッパ勢には敵わないという様な意識が少し出てるような気がしていたけど、これでみんな自信を持てると思う」と太田は話す。

 また三宅も「何度かで諦めかけたが、何とか気持ちをつなげられた」といい、千田も「最初は勝ちを意識し過ぎてポイントを奪われてしまった。ロンドン五輪以降は団体戦で結果を出せていなかったが、こういう大きな舞台で韓国を倒して中国に逆転勝ちをしたので、チームとしての手応えをつかめた」と話す。

 来年の4月から始まる五輪出場レースでは、ロシアとイタリア、アメリカ、中国、フランスあたりが強力なライバルになるだろうと太田はいう。目標はそのライバルの中に割り込んで4位以内での出場権獲得だ。

「やっぱり団体が出場権を取って複数の選手で行かなければ個人のメダル獲得も難しい。4人でリオデジャネイロ五輪へ行かなければいけない」と太田は話す。日本フェンシング男子フルーレチームの牽引者に、ようやく気迫が戻ってきた。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi