『実録 あなたの知らないオカルト業界』(彩図社)

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 UFO、霊能、黒魔術、前世、占い、スピリチュアル、パワーストーン──世間にはオカルトといわれるものが氾濫している。同時にオカルトに関する数多くの本が刊行もされている。しかし、これまでのオカルト本とはちょっと毛色のちがう本が今年9月に出版された。それが『実録 あなたの知らないオカルト業界』(三浦悦子/彩図社)だ。

「オカルトの世界」ではなく「オカルト業界」というところに、この本の特徴がある。本書によると、著者の三浦サンは「神仏霊など科学的には証明されていない存在を商品化して様々な形で相談者に提供するサービス業」である「オカルト業界」に長年ライターとして関わってきた人物らしい。そして本書は、その三浦サンが明かす業界の体験記なのだ。いったい、そこに描かれるオカルト業界の内幕とはどんなものなのか。

「私はオカルトにあこがれて、霊能者という存在に傾倒していた」と書いているようにもともとオカルトの熱心なファンだった三浦サン。彼女がこの業界に入ったきっかけは、「佐々木会長」というミニ新興宗教団体の主宰者の著書を読んだことだった。

「内容から佐々木会長はとても謙虚で霊的な実力者のある人物だということが伝わってくる」と、一読で惚れ込んだ著者は、佐々木会長に手紙を書いた。すると教団のレポーターとして広報紙を書いてくれないかとの返事が。早速、千葉県の教団へと向かった著者。

 すると、佐々木会長が姿を現わし「これを使って霊的に悪い部分を浄化し、神さまのパワーを注入するのです」といって、ナイフを取り出した。刃渡り20センチほどのしかないナイフなのに「スサノオの剣」と呼び、「相談者の頭上10センチ位の空間を何度も十字に型に切り、人間の魂を保護している『幽体』から霊的な汚れを取り除き、神のパワーを注入する」のだという。

 この体験でなぜか佐々木会長を本物だと確信した著者は、広報紙の制作を了承した。すると、ギャラは原稿用紙1枚で1万円。それが45枚で、交通費と宿泊費等の経費が数十万円也という破格の条件が提示されたという。こうして"幸運"な出会いに恵まれた著者は、さらに佐々木会長へ傾倒していく。だがしばらくすると、教団の女性主任から電話がありいきなりまくしたてられたという。

「あなたは会長を全然尊敬していないですね。原稿を読めばすぐ分かりますよ!」

 どうやらこの女性主任は会長の愛人で、焼きもちを焼かれたらしい。そんなトラブルから、著者は教団からも放り出されてしまう。

 そこで、三浦サンは教団のイベントで知り合った出版社社長に手紙を出すことにした。するとまたまたラッキーなことに、仕事を手伝ってくれとの返事。早速会いに行くと、そこはやはり、オカルト系の出版物を出している会社だった。

 資産家でもあるという社長から「精神世界を正しく分かりやすく読者に伝える使命が我々にはあるんです」と熱く語られ、今度もすっかりこの社長に惚れ込んでしまった著者。ところが、社長はある日、三浦サンにこんなことを言い始める。

「大ニュース、大ニュースですよ。フリーエネルギーで動く製品が現実のものとなったんです!」

 なんでも、フリーエネルギーとは空間に無尽蔵に存在するエネルギーのことらしい。

「人間の意識力で車を走行させたり、飛行機を飛ばすことができる可能性をじゅうぶん含んでいるのです」
「これは世界的なビッグニュースです。フリーエネルギーを使った機械と本を同時に発売すれば世界中を震撼させるほどの売れ行きになるはずです」

 そして、このエネルギーに関して本を出すので、それを書いてくれという依頼をされるのだ。三浦サンが打ち合わせのため再び会社を訪れると、そこには既にフリーエネルギーを開発しているという貿易会社の人間もいた。

 しかし、本の情報をもらうためになぜかその貿易会社社長宅に下宿しなければならないという。給与は30万円という悪くない条件だったので三浦サンは引き受けることにした。ところが──。社長宅で居候をはじめてみると、肝心のフリーエネルギーの仕事はまったくなし。かわりに毎日毎日、社長の家に同居していた高齢の両親の面倒を見させられたのだという。しかも、約束の月々30万円の給与は一度だけしか支払われず、本の話はそのままなぜか立ち消えになってしまった。

 だが、著者はそれでも懲りない。その後も怪しいセミナーやイベントで、次次々に風変わりな団体や霊能師たちに出会っては、入れ込んで行く──。

 例えばあるセミナーで、"酒井"という魔界理論を説く霊能者に「くぎづけになった」三浦サンは早速、酒井の道場に出かける。すると、

「酒井のパワーを受けると、いろんな症状や病気が改善するという。パワーを受けている最中、手のひらに熱い棒が強く押されるような感覚があった」

 酒井の魔界理論とは、神界と正反対の立場にある魔界があって、それが人間に試練を与えることによって意識の向上を助けるというものらしい。なんでそれが魔界なのかよくわからからないが、三浦サンはこの話に説得力を感じ、またまた、酒井に心酔して、道場に通いはじめる。

 だが次第に愛想を尽かす出来事も起き始める。ある時、著者に酒井から電話があった。

「三浦さん、魔界から通信がありましてね。明日、東京は大震災が起きて壊滅状態になりますので、絶対に上京してはいけませんよ」

 そう聞いた著者は終日千葉の事務所にこもったが、大震災は起こらない。翌日、聞いてみると、酒井は「(魔界から)我々はおまえを試すつもりででたらめを告げ、その後、おまえがどんな態度をするのはみていたのだ、って」などと言い訳をしたという。

 このあたりから、徐々に酒井に不信感を持ち始めた三浦サンは酒井のこんな言葉で完全に愛想をつかしてしまう。

「わたしがパワーを伝授した女性は胸が大きくなるんですよ。(略)だから、彼女たちに言ってやるんですよ。オレのおかげで胸が大きくなったんだから、触らせろ、ってね。ハハハ」

 しかし、こうして読んでいると、オカルト業界の教祖やら霊能師やらのトンデモぶりもさることながら、それよりも驚かされるのは、著者の三浦サンの"懲りなさ"加減である。

 とにかくオカルトに出会ってはいとも簡単に傾倒し、そして結局、最後は怪しいと愛想をつかす。騙されては、そのたびに「騙されていた」と怒るという繰り返しなのだ。しかしそれでもなお彼女のオカルト信仰は止まらず、懲りずにオカルト世界に近づき、騙され続ける。

 これでよくライターという仕事を続けてこれたなと驚嘆するが、一瞬でインチキとわかるような説明にもなんの疑問も持たず「これが探し求めていたものだ!」と思いこんでしまうそのメンタリティを考えると、著者はやはりライターというより、本気のオカルト信者だったのかもしれない。

 そういういう意味じゃ、この本、オカルト業界の内情というより、オカルト業界から「カモ」にされやすい人の思考回路を教えてくれる一冊といってもいいだろう。

「オカルト業界で揉まれに揉まれてきた現在では、素直にオカルト業界を肯定することは難しくなってきた」

 著者はオカルト業界にかかわった20年近くをふりかえってこんな総括をしているが、いやいや、このぶんじゃ、あなた、またきっと騙されますよ。
(林グンマ)