扁桃は、口を開けた時に見える口蓋垂(顎の上から垂れ下がっているもの)の両脇にある。ここには免疫細胞が集まっており、鼻や口から気管や肺へ細菌が侵入するのを防いでいる。
 「扁桃は、かつては専門家の間でも扁桃腺と呼ばれていましたが“腺”は汗腺、涙腺などのように何かを分泌するものを指す言葉なので、妥当ではないということになったようです。今では細菌やウイルスなどの病原菌が通る最初の部位(関門)と捉えられ、そこは常に炎症がある。健康な時なら炎症があっても大たいした事はありませんが、風邪をひいたり、疲労や喉が乾燥すると細菌が増殖、炎症がひどくなります。最初は“ボヤ程度”だったのが、どんどん“火”が大きくなっていくのです」(関東中央病院〈世田谷〉耳鼻咽喉科担当医)

 怖いのは、最初は扁桃だけの炎症(扁桃炎)だったものが、扁桃の周囲、そして喉の奥にまで広がり膿が溜まり、さらに炎症が頸部から食道へ、食道から胸へと広がっていくことだ。
 「扁桃だけの炎症なら抗生物質で対処できるかもしれませんが、扁桃の周囲まで炎症が広がり膿が溜まった扁桃周囲膿瘍以降は、厚生物質に加え切開して膿を取り除く手術が必要となります。術後も肉が腐り細菌が繁殖して膿が溜まりやすい状態になっているので、胸腔内にチューブを入れて圧をかけ、膿をその都度吸引する胸腔ドレナージが必要になることがあります。入院は数週間。最悪の場合、亡くなられる方もいるのです」(同)

 また扁桃の炎症が、頸部から脊椎や脊髄へ広がることもある。手足に繋がる神経が通っているので、手足にマヒが出て寝たきりになるケースもあるという。
 「しかも、病巣性扁桃炎といって、扁桃炎があるだけで扁桃とは遠く離れた腎臓、皮膚、関節などに悪影響を及ぼすことがわかっています。理由はまだ完全に解明されていません。腎炎がなかなか治らなかったが、扁桃を摘出したら腎臓の炎症も改善したというケースもあります」(東京社会医療研究所・村上剛主任)

 扁桃炎の治療の場合、軽症なら抗生物質や消炎剤などの薬物治療や、点滴による治療もあるが、扁桃周囲膿瘍は前述の通り手術となるため、こじらせないことが重要となる。
 「とにかく最初の風邪と似通っているので、症状だけで見分けるのは困難です。風邪らしき症状があった場合、2〜3日様子を見ても改善しない、激烈な喉の痛みがあるといったときは、躊躇しないで病院に行くべきです」(同)

 また一方、前で紹介した慢性扁桃炎と診断されたBさんのように、喉の違和感から頻繁にうがいをしても扁桃炎は改善しないし、その予防もほぼ不可能。
 「Kさんのようなケースは『慢性扁桃炎の急性増悪』(急激に悪くなること)で、咽頭痛、高熱、全身の倦怠感、頭痛、関節痛などの症状が出ます。仕事などできないほどの激しい症状になります」(医療関係者)

 慢性扁桃炎も急性憎悪にならなければ症状は軽いが、安心はできない。
 「やはり、この症状を放って置くと心臓や腎臓もやられることが多い。具体的には心筋症やIgA腎症で関節リウマチの引き金や悪化つながります。免疫反応が心臓、腎臓を攻撃し、ダメージを与えるからです」(前出・村上氏)

 9月に入り、気温の温度差も激しくなる。風邪に注意が必要だが、その後に残った喉の痛みも軽く見てはいけないと肝に命じよう。