米TVの「ユートピア実験」リアリティ番組が突きつけるもの

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さまざまな経歴をもつ15人の男女が、個人の持ち物をほとんどすべて没収されたうえで、協力して「持続可能な楽園」をつくるリアリティ番組「Utopia」が、Foxテレビで始まった。

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Foxテレビで9月第2週に始まった「社会実験」番組「Utopia」のテーマは魅惑的だ。性別も経歴もまったく違う15人の出演者が、あるオアシスに連れて行かれ、個人の持ち物はほとんどすべて没収されたうえで、協力して独自の持続可能な楽園をつくるよう告げられるのだ。

だが、番組の仕掛けはたちまち、人間たちの悲しい皮肉を浮き彫りにする。

番組はこれまでに5時間分が放送されているが、「現実世界」で多くの問題の原因となるような差異や不平等がすでに生まれていて(そうした問題は、出演者たちがエントリーした時点でぬぐい去られていたはずだったのだが)、対立の源となっている。

酒飲みの兄弟、いつも腹を立てている田舎者、ホームレスの前科者が、軍隊勤めをしていたシェフや、女性解放を唱える肉体派の女性ハンター、自由を尊重するサヴァイヴァリスト(生存主義者)たちと、激しく角を突き合わせている。そして、ユートピアの反対である「ディストピア」を描いた小説や映画のほうがなぜ豊富なのか、その理由を見せてくれる。

番組では、施設全体に130台のカメラが設置され、全体主義の管理社会ばりに、すべてが監視されている。実のところ、ディストピアを描いたSF映画『ハンガー・ゲーム』を見ているような気分になる(映画と違うのは、出演者が死なないということだ)。

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番組プロデューサーのジョン・クロールは、たくさんのリアリティ番組やドキュメンタリー番組を扱ってきたヴェテランだ。「今回の着想は、(サヴァイヴァルの要素を減らして)『地獄とは他人のこと』という事実をもっと前面に出すことにある」と語る。「出演者たちに求められるのは、サヴァイヴすることではなく、最初から完璧な環境に送り込まれる。『彼らがそれをつくれるか?』ではなく、『それを維持できるか?』がポイントなのだ」

この番組の設定にはパラドックスがある。もし本当にユートピアが達成され、参加者が協力的で調和のある生活ができるなら、TV番組としては人気とならず、成功しないということだ。

クロール氏はその体験から、ユートピアは達成できないと確信している。実は同氏には、幼いころ、「コミューン」で暮らした経験がある(コミューンとは、1970年代のベトナム反戦運動の時代に、新しい価値観や生き方を目指して行われた共同生活のこと)。8歳から18歳まで、家族とともに、カリフォルニア州北部にある「オズ(Oz)」というコミューンで暮らしていたのだ(オズはその後、観光農場になったが、2014年に火事があったなどで現在は売りに出されている)。

その閉鎖的な環境の中で、クロール氏は、トマス・モアが描いたような『ユートピア』はどこにも存在せず、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』のようなディストピアのほうがずっと実現しやすい理由を身をもって学んだという。

「人の交流は不和を生む。そして、不和はディストピアに向かう」とクロール氏は言う。「対立が一切なく、資源も十分にあることがユートピアの定義だとするなら、血管にチューブを刺したまま、一日中『MTV』を見るか、ひとりでヴィデオゲームをしていればいい。それならば間違いなく社会対立は減るだろう。それが理想だという人もいる。だが、それをディストピアだと思う人もいるだろう」。

ただ、現在までのところ、番組はあまり人気になっていない。それはおそらく、参加者たちの対立が、「退屈」なものだからだ。リアリティー番組の醍醐味である小競り合いも、完璧な社会をつくるという魅力も、その両方が、この番組には欠けているように見えるのだ。

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