9月特集 アジア大会2014の発見!(7)

 アジア大会2日目の競技として行なわれたウエイトリフティング女子53kg級。11月4日からカザフスタンで開催される世界選手権にも同じ階級で出場を予定している三宅宏実と八木かなえにとって、この大会はその前哨戦となった。

 アジア大会とはいえ、この階級にはロンドン五輪女王で09年と11年世界選手権優勝者のズルフィヤ・チンシャンロ(カザフスタン)や、ロンドン五輪2位の許淑浄(チャイニーズタイペイ)、12年の世界ジュニア優勝者で、昨年の東アジア大会ではトータル219kgで優勝しているチョウ・ワンキョン(中国)など、強豪がひしめいている。もちろん厳しい試合となった。

 この試合、八木のエントリー重量は195kg。これまでならそれで後半のAグループに入れていたが、230kgの許を筆頭に、202kgの三宅を含めて200kg以上が8名いたために前半で競技を行なうBグループに入った。

「三宅さんと一緒なら心強いかなと思ったけどBになってしまったので......。でも逆に、気負わずのびのび出来たと思います」という八木は、スナッチを自己ベストより6kg軽い80kgでスタート。それを確実に成功させると2回目に82kgを挙げたが、3回目の84kgで失敗。

 そして、クリーン&ジャークは八木以外の3人の試技がすべて終わり登場すると、「スナッチで同記録だったインドネシアの選手が101kgで終わっていたので、確実にBグループのトップを取ろうと考えた」というように、1回目を、予定していた103kgから102kgに下げて成功。そして2回目に105kgを挙げると、「2回目の動きが良かったから」と3回目には108kgを挙げてトータルを190kgにした。

 結果、トータルは自己ベストから7kg少ない結果でも八木は笑顔を見せた。

「アジア大会は世界選手権につなげるための大会という意味もあったけど、かといって手を抜くのではなく両方を意識した形で臨もうと思っていました。腰痛が出てしまって練習が積めず、いいときの50〜60%しかできないボロボロの状態だったけど、その中でもトータルで190kgを出せたので最低限のことはできたと思います」と安堵した表情で話す。

 八木を指導する横山信仁コーチによれば、腰痛で大会直前の練習ではスナッチ80kg、クリーン&ジャークは105kgしか挙げられなかったという。「2カ月前までは練習でスナッチ87kgとクリーン&ジャーク110kgまでできていたんです。これならアジア大会ではずっと目標にしていた200kgは行くと期待したら、腰が痛くなったと伝えてきて......」と悔しそうな表情を見せる。

 ボロボロの状態でも最低限のことができたのは評価しながらも、「スナッチ82kgとクリーン&ジャーク108kgというのは、11月の世界選手権ではスタート重量にしなければいけない数字。今でもクリーン&ジャークでは115kgまで挙げる力はあるが、将来的には90kgと120kgを挙げられる潜在能力は持っている」と今後に期待する。

 そこから2時間ほど後に始まったAグループは驚くような激しい戦いになった。

 クリーン&ジャークの終盤、チンシャンロが2回目に自身が保持するクリーン&ジャークの世界記録を1kg更新する132kgを挙げてトータル228kgで許とチョウに並んだ。体重差で許とすでに試技を終えたチョウを抑えてトップに立った。するとまだ1回残っていた許が、1回目に挙げた127kgから5kgも増量した132kgを差し挙げ、トータル233kgの世界新記録で逆転した。

 そこでチンシャンロも逆転のためにと、137kgに挑戦。失敗はしたが世界新をめぐる激しい競り合いに場内も興奮。

 そんな戦いの中で三宅は「ロンドンが終わって2年が経ち、ようやく状態が戻ってきたところなので今回はトータル200kgを目標にした」と話し、淡々と競技を続けた。そしてスナッチでは「2年ぶりに挙げられた」という87kgを3回目に成功。クリーン&ジャークは107kgから初めて110kg、113kgと進む予定だったが、1回目に差し上げで僅かなミスを出して失敗。その後は成功して3回目に110kgを挙げ、トータル197kgで8位になった。

 今回の三宅の体重は上限より遥かに低い49.56kgだった。その理由をこう説明する。

「今回減量して48kg級に出れば、もしかしたらメダルに絡んだかもしれません。でも私はリオデジャネイロ五輪の48kg級で勝負すると決めているから、目先のことよりその後を意識しました。53kg級で勝負するなら今より5kgくらいは増量して試合前に減量しなければいけないけど、今はリオの48kg級でメダルを獲るために、無理をしない現状の体重で53kg級に出て底力をつける時だと思っています」

 ロンドン後はトータル180kg台で終わる試合が続き、自分で限界かなとも思ったという。だがやっと戻りつつある状況。そこでクリーン&ジャークの失敗で目標の200kgには届かなかったが、手応えのある試合ができたと笑顔を見せる。

「世界記録の応酬になるすごい試合を肌で感じることができて刺激されました。許選手もチンシャンロ選手も、クリーン&ジャークでは自己ベストより5kgも重い重量をあげて勝負を仕掛けて。その勇気は見ていて鳥肌が立つくらいすごいと感じたし、私も本当に本当に元気とやる気をもらいました」と三宅は興奮気味に話した。

 それは八木も同じだろう。ふたりは11月の世界選手権はともに53kg級に出場する。キッチリとリオデジャネイロ五輪の48kg級に照準を絞り、しっかりと底力をつけようとする三宅と、大学卒業後はアルソックに入社して、社会人として技術と体力を磨きながら競技を続け、このハイレベルな階級で勝負しようと決意する八木。彼女たちはこのアジア大会を踏み台にリオへ向け、それぞれの歩みを始める。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi