『作家のごちそう帖: 悪食・鯨飲・甘食・粗食 (平凡社新書)』大本 泉 平凡社

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 森鷗外、夏目漱石、正岡子規、永井荷風、志賀直哉、谷崎潤一郎、芥川龍之介、川端康成、三島由紀夫......といった、日本を代表する文豪たち。そんな彼らに共通するのが、食へのこだわり。その文学作品にそれぞれ特徴があるように、彼らの「食」もまた個性に富んだものだったのです。

『作家のごちそう帖』の著者、大本泉さんは「何を食べてきたのか、作家の食歴を追っていくと、作家がどのような人だったのかが見えてくる。立ちあらわれてきた作家の印象とその文学とのせめぎあいを見ていくと、新しい読みがひらかれてくるのではないだろうか」と述べ、数々の偉大な作家たちが何を好んで食し、どのような店に足繁く通ったのか、それぞれの作家たちのエピソードと共に綴っていきます。

 本書で取り上げられる、22名にも及ぶ偉大な作家たち。
 
 例えばその中の一人、三島由紀夫の好んだ食べ物は何かと問われると、文学作品における流麗なる美文の数々から、ともすると豪華絢爛な食生活を想起しがちなのではないでしょうか。しかし「「美食」を意識していないスイーツや食の記憶の方に、三島のリアリスティックな食体験が窺われておもしろい」と、実は意外な一面があったことを大本さんは指摘します。
 
 では実際に、三島由紀夫はどのようなスイーツを好んでいたのでしょうか。大本さんは次のように続けます。

「三島は、『カド』のプチ・ガトー、『日進堂』のマドレーヌ、そして『梅むら』の豆かん等が好きだったことが知られている。元マガジンハウス編集者椎根知氏の取材によると、深夜のおやつは野菜煎餅。執筆中にはウィスキーボンボンとカボチャの種を食べていたらしい。(中略)三島は、ミシュラン本のように華やかな店を挙げる一方、延命茶を啜り、駄菓子煎餅を食べながら原稿を執筆してもいた」

 ちなみにフランス菓子店「カド」は川端康成も好んだお店。そして三島、川端のみならず、芥川龍之介もまたスイーツ好きだったのだそうです。

 作家たちが愛した名店の数々。本書の中に出てくるお店の中には、今でもまだ彼らの食した味を味わうことのできる処も多々あります。彼らがどのような味を好んだのか、自身の舌で確かめに行ってみると、文学作品もまた一味違って見えてくるかもしれません。