石井大裕(いしいともひろ) プロフィール
東京都出身。1985年生まれ。6歳でテニスを始め12歳で「修造チャレンジトップジュニア」に選出。高校1年時の2001年、錦織圭選手(当時小6)とともに松岡修造氏主催の強化合宿に参加し、慶応高卒業後は世界を転戦した経歴を持つ。2010年TBS入社。同局営業局勤務の兄・大貴(ともたか)との音楽ユニット「Well stone bros.」で今年ミュージシャンとしてメジャーデビュー。185センチ、75キロ。

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昨日、開幕を迎えた「アジア大会2014」。現地・仁川のスタジオで進行を務めるTBS石井大祐アナウンサーに聞く、大会の見どころや注目点。後編では日本人選手の注目株を中心に話を聞きました。(前編はこちら)

《アジアにはまだ倒さなきゃいけない敵がいっぱいいます》
─── リオ五輪を2年後に控え、各競技で世代交代が進んでいます。特に、若手で期待したい選手、というと誰になりますか?

石井 もう、たくさんいるんですが……先日のパンパシフィック水泳で大活躍した競泳陣の中では、平泳ぎの渡部香生子選手です。パンパシ水泳でも200mで金メダルをとりました。まだ17歳、これからの日本競泳陣を引っ張っていく選手といわれています。先日取材したときには、「200mでも100mでも、アジアで一番にならなければ世界では勝てない。今回のアジア大会で世界記録を狙える域にはまだ来ていない。でも、一番にはならなきゃいけないんだ」と話していました。

─── 10代のアスリートが活躍するのは嬉しいですよね。

石井 10代という意味では、ゴルフの勝みなみ選手にも注目しています。今年、15歳で日本ツアー国内最年少優勝を果たしました。ただ、ゴルフはアマチュア選手しか出られませんから。彼女は、今回が最初で最後のアジア大会になるんです。先日16歳になった勝選手。16歳で挑む国際大会が最初で最後になる、ってちょっと面白いですよね。実は、勝選手が憧れる宮里藍選手も同じ「最初で最後」という境遇で臨んだアジア大会(2002年、韓国・釜山)で金メダルをとっているんです。宮里選手は当時、高校2年生。今回の勝選手は高校1年生ですから、憧れの宮里選手を上回れるのか、注目です。

─── ほかに10代のメダル候補、というと?

石井 個人的に期待しているのはバドミントンの山口茜選手ですね。山口選手は去年のヨネックスオープンで、中国人のトップ選手達も倒して日本人として初めて優勝しました。まだ17歳、間違いなく2020年の東京五輪で期待のかかる選手のひとりだと思います。彼女なんかは、もっともっと注目されていいと思います。シングルスだけじゃなく、団体でもメダル候補ですからね。ほかには……レスリング48kg級の登坂絵莉選手ですね。彼女にしても初めてのアジア大会。直前の世界選手権では見事二連覇を達成しましたけど、「アジアにはまだ倒さなきゃいけない敵がいっぱいいますから」と語っています。2016年のリオ五輪を見据える上でも、彼女たちの戦いには期待したいですね。

─── 石井アナウンサーが特に「絶対見逃しちゃダメ!」とオススメしたい競技は何でしょう?

石井 私自身ずっとテニスをやっていましたので、やっぱりテニスですね。今、日本の男子テニスはとても強くなっていると思います。

─── 全米オープンの際には、ジュニア時代に対戦した経験もある錦織選手を応援するために緊急渡米したことがニュースにもなっていました。

石井 やはり、「錦織圭」という存在に非常に引っ張られていますね。全米オープンでは錦織選手も含め4人の男子選手が本戦に出場しました。これはもう快挙です。自分が生きている間にこんなことが起こるんだ! という感動でもあったんですけども、その中で特に注目なのは西岡良仁選手ですね。まだ18歳なんですけども、錦織選手よりも才能があるんじゃないかと言われている選手がアジア大会に出るんですね。まだあまり一般には知られていないと思うんですけども、男子テニス、そして西岡良仁選手は注目です。

吉田沙保里選手の名前で埋まって競技が終わる》
─── 若手以外の中堅、ベテラン勢で、期待したい選手やもう一花咲かせてほしい選手というと、どなたか浮かびますか?

石井 そうですねぇ………個人的には競泳・平泳ぎの鈴木聡美選手です。ロンドン五輪で3つのメダルをとった後、なかなか結果が出なくてがき苦しんでいます。先日のパンパシ水泳でもメダルには届きませんでした。でもまだ23歳。リオに向けてまだまだ現役を続けていくと宣言していますから、若い17歳の渡部香生子選手と切磋琢磨して、なんとかアジアの舞台で返り咲いて欲しいですね。

─── ベテラン選手では?

石井 レスリング女子75kg級の浜口京子選手ですね。アテネ、北京と2度の五輪に出場しても一番いい色のメダルはとれず、前回、ロンドン五輪では出場もできなかった。そういう意味では、彼女の実力を全て発揮できていない部分もあると思います。だからこそ、やっぱりこのアジアの舞台で、今までやってきたものを全て出していただきたいですね。本人に話を聞いても、「限界を超えたところに笑顔がある」と言っていたので。まあその隣でお父さん、いつもワッハッハー、ワッハッハーって言ってますけど(笑)。

─── レスリングといえば、やはり吉田沙保里選手が気になります。

石井 そうですね。レスリングは階級制度が変わりますので、吉田選手が慣れ親しんだ「55kg級」でアジア大会に出るのは今回が最後になります。アジア大会直前に開催される世界選手権では新しい「53kg級」で出場していますから、アジア大会に向けては55kgに戻す、という難しい調整も入ってきます。

─── でも、吉田選手なら問題なく勝ちそうな気がします。

石井 はい。アジア大会で女子レスリングが採用されてから今回が4回目。吉田選手は現在三連覇中ですから、今回勝てば四連覇になります。つまり、アジア大会の歴史の「女子レスリング55kg級」という欄は、吉田沙保里選手の名前で埋まって競技が終わるんです。歴史を作って、次のステップに進む。これはもう楽しみですよね。金メダリストでいえば、ソフトボールの上野由岐子選手もまだ32歳。8月の世界選手権では連覇も達成していますので、アジアもしっかり制して欲しいですね。

《アジア大会はどういうものなのかを皆さんから引き出せていけたら》
─── TBSとして今回のアジア大会の中継で準備していること、特徴的な取り組みを教えてください。

石井 今大会は、私と、小林由未子TBSアナウンサーの二人で、韓国・仁川のスタジオ進行を務めさせていただきます。そして今回の見どころは、そのスタジオにお招きする「アスリートプレゼンター」という、日本の、いや世界のトップで活躍された方々の存在です。具体的には、マラソンの高橋尚子さん、シンクロナイズドスイミングの小谷実可子さん、陸上投擲種目の室伏由佳さん、バドミントンの潮田玲子さん、体操の田中理恵さん、柔道の古賀稔彦さん、そして唯一の現役アスリートとして競泳の北島康介さんの7名になります。

─── 「解説」とはまた違うんですね?

石井 そうですね。「解説」担当の方はまた別に起用して、いわゆる「実況・解説」というスタイルで各試合会場から中継をしてまいります。それとは別に、スタジオでプレゼンテーションしていただくのが「アスリートプレゼンター」です。たとえば、高橋尚子さんが今まで経験してきたアジア大会や五輪でのエピソードを今の選手達と重ねあわせて、「こういう場面ではこういう心境で戦っていますよ」という部分を紐解いていただく。あるいは、この選手にはこんなバックグラウンドがあってこの舞台に立っているんだ、というのを、プレゼン形式で進めていけたらと考えています。

─── 試合や競技の魅力や奥深さ、という部分をまさにプレゼンしていく、と。

石井 はい。それこそ、小谷実可子さんはアジア大会の組織側にも入った経験のある方で、アジア大会のすべてを知っているといっても過言ではありません。ですから、先生的な立場でいろいろ教えて頂きたいと思っていますし、ひとつひとつの競技のことはもちろん、このアジア大会はどういうものなのかを皆さんから引き出せていけたらなぁと思っています。まぁ、そのためには、進行役の私がちゃんと知識を持って、もう選手と同じぐらいの準備をして臨まなければ、とプレッシャーを感じている次第です。

《2年後のリオ五輪、2020年の東京五輪で活躍する選手が出ています》
─── 石井アナのプロフィール欄の“おすすめの1冊”という項目では、小泉信三さんの『練習は不可能を可能にす』を紹介していました。実際、今まで取材してきた中で、この練習はすごかったなーというのはありますか?

石井 いやー、もう全員ですよね。たとえば、シンクロナイズドスイミングで言えば、井村(雅代)コーチが日本代表に戻ってきて、まず何をしたかというと「整理整頓」なんですよ。「整理整頓ができなければ水中で綺麗に並ぶことなんてできないだろう!」ということなんですね。それを聞いて自分も身が引き締まる思いで、もう次の日からもう私の家はピカピカですよ(笑)。そういう教えは、一般の我々にもためになるじゃないですか。日々のひとつひとつのことが、どれだけ大きな積み重ねになるのか、という意味でも非常に印象的ですね。

─── 練習、特訓というと、肉体的な厳しさを連想しがちですが。

石井 確かに、キツい練習をやればいいとか、重いものを上げたらいいとか、そういう風に思いがちなんですけど、それだけじゃダメなんですね。当然キツさ、厳しさっていうのはある中で、いかに考えながら取り組めるかが重要になると思います。先ほど名前をあげたバドミントンの山口茜選手の練習がそうだったんです。山口選手って、パッと見た限りだと本当にのんびり練習しているんですね。のんびりっていうのは、ひとつひとつの動きを自分なりに理解しながらやっているんですよ。面白かったのが、「足を開く角度は135度なんです」って言っていて。

─── それをプレーしながら意識するってとんでもないですね。

石井 やっぱり、こういうひとつひとつの感覚っていうのを一流アスリート達は大事にやっているんだなぁというのを痛感しました。あとは激しい練習といえばやっぱりレスリングです。「金メダル坂」といわれる坂を、選手が二人背負って駆け上がる。女子選手がですよ! そして、この練習で大事なのが、みんな笑顔なんです。

─── ……凄まじいですね。

石井 笑顔、といえば印象的だったのが、高校野球の石川大会決勝、星稜対小松大谷戦での大逆転劇です。ミラクル星稜なんて言われて、最終回に8点差を逆転したんですけど、あの時の星稜高校もみんな笑顔だったんですね。

─── 「必笑」が星稜高校のキーワードになっていましたね。

石井 レスリング代表が練習中に見せる笑顔もあれに近いものがありますね。浜口京子選手はよく「限界を超えると笑顔になるんです」と言っています。人間、そこまで追い込むと初めて違う世界が見えてくるんでしょうね。

─── では最後に、改めてこのアジア大会は、こんな大会だ! というのを教えてください。

石井 いやもうほんっとに、見ないと損すると思います。なぜならば、2年後のリオ五輪、2020年の東京五輪で活躍する選手が出ていますから。もう、今知らなかったらもったいないと思います。それは日本だけじゃなくて、アジア45の国と地域、全てにおいて言えると思うんです。「うわー、この選手強くなったねー!」とか、「この若手、やっぱり伸びてきたねー」「このベテランまだやってんだ」とか、いろいろ感じながら楽しんでいただければと思います。

「アジア大会2014」
会期中、TBS系列でゴールデンタイム生放送!

(オグマナオト)