9月特集 アジア大会2014の発見!(3)

 仁川アジア大会の水泳競技の華、シンクロナイズドスイミングでは、名指導者の井村雅代コーチ(※)が日本に10年ぶりに復帰した。低迷を打破するため、70歳の金子正子チームリーダー、64歳の井村コーチの「黄金コンビ」が再結成された。焦点は、『打倒!中国』&『アジアの盟主奪回』成るかどうか、である。

(※)1978年に日本代表コーチに就任。1984年ロス五輪でシンクロが正式種目となり、デュエットで銅メダル。その後、アテネ五輪まで、6大会連続計10個のメダル獲得に貢献。2006年中国代表のコーチに就任。北京五輪でチーム種目銅メダル、ロンドン五輪ではデュエットで銅、チームで銀メダルの獲得に貢献。その後、イギリス代表のコーチを経て、今年5月日本代表コーチに復帰

 14日の日本選手団結団式の直後、井村コーチはこう語った。「この5カ月間、私の持っているものをすべて、彼女たちにぶつけ、練習してきました。今、持っている力を出してくれて、どこまで成長したのかを見るのが、私も楽しみです。勝負どころは、日本が持っていた"ちゃんと並んで合わす"というところに尽きると思います」

 かつてアジアの盟主を堅持していた日本シンクロだが、2006年ドーハ・アジア大会で盟主の座から滑り落ちた。井村コーチが中国チームのヘッドコーチに就任したことで、その差は広がった。

 08年北京五輪では、中国がチームで初めて銅メダルを獲得し、日本もデュエットで銅メダルと踏ん張った。12年ロンドン五輪では、中国がチームで銀、デュエットで銅を獲ったが、日本はチーム、デュットとも5位に沈んだ。

 アジア大会では、前回の10年広州アジア大会で、デュエット、チーム、コンビネーションいずれも日本は中国の後塵を拝し、銀メダルにとどまっている。彼我(ひが)の立場をひっくり返すことは難儀だが、井村コーチが中国から日本に戻ったことで、おそらく中国チームの演技は細かい精度が落ちている。

 対照的に日本選手の演技は改善された。「中国にスキが出てきている」と、日本チームの吉田美保コーチが説明する。「そのスキを狙いたいと思います。井村先生がこられて、選手に勢い、シャープさが以前より、出てきました。特に足のシャープさはだいぶ、変わったと思います」

 この日本チームは4月に始動した。まず、体作りから始めた。ただ筋力を強化しようと思ったら、代表選手たちの体脂肪率が高く、予定通りには行かなかったそうだ。「あなたたち、(脂肪の)着ぐるみを脱ぎなさいよ、という感じやった」と当時、井村コーチは漏らした。「マイナスからのスタートでした」

 朝8時前から午後10時過ぎまでの3部練習など、1ケ月半ほどの猛練習で余分な脂肪はとれた。動きの悪い癖も直して、ひとつひとつ、基本技術からたたき込んできた。歩く時の目線の角度までうるさく言った。

 例えば、チーム演技の場合、どうやって水中で整然と泳ぐのか。「それこそ、魚の大群と一緒でしょ。アジとか、ピッピ、ピッピと泳ぐでしょ。そのノウハウが彼女たちにはわからない。だからカウントで、タッグの仕方とか、タイミングとか、角度とか、ずっと指導してきました」とも振り返ったことがある。

 演技のメリハリがついてきた。いわば動きのキレ。技の正確さ、クリアさが出てきたのだ。チームが一緒になってのトレーニング期間は十分ではないが、同調性もアップしてきた。エースの乾友紀子は「勢いのある演技で、日本が変わったということを見せたい」と自信を膨らませている。

 種目は、20日のデュエットから始まり、21、22日チーム、23日コンビネーションとつづく。中国にどこまで肉薄できるか。正直、逆転までいくのは厳しいだろうが、井村コーチは大舞台で選手に成長を実感してほしいという。

「(世界は)みんな、ワタシのことに一目置いてくれていると思うから、あの子たちは私を利用してほしい。彼女たちには、こういうつらい練習をしてきたら、国際大会でこう評価されるんだよ、という達成感を味わわせてあげたいのです」

 さあ"井村マジック"の効果はいかばかりか。いずれにしろ、世界きっての名指導者が、低迷する日本シンクロに多大な刺激を与えるのは確かだろう。

松瀬 学●取材・文 text by Matsuse Manabu