東レPPOテニスに出場したクルム伊達公子だったが、16日のシングルス1回戦、17日のダブルス1回戦でいずれも初戦敗退。日本のファンの前での約1年ぶりのプレイは、あっけなく終わってしまったが、健在ぶりは十分に発揮してみせた。

 ツアー最年長選手として活躍するクルム伊達のテニスに懸ける情熱もまだ当分は冷めないようだ。今月28日で44歳を迎える彼女に、一体どんなモチベーションで毎シーズンを戦っているのかを聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「今回の東レもそうですが、当然、小さなケガはあります。それでも、基本的には大きなケガもなく、フィットした状態で大会に挑めていますし、ツアーに対してもそれほど疲れを感じることもなく、ファイトする気持ちを失わずに転戦できていますね。それはツアー仲間や楽しい友達がいるからで、私にとってのモチベーションにもなっています。基本的にはチャンレンジする気持ちをまだ失っていないんじゃないかと思います」

 彼女はいま、肩肘張らずにテニスを心から楽しみ、極めようとしている。ベースラインからのラリーでは角度のあるボールで相手を振り回し、チャンスボールには積極的にネットプレーで相手をほんろうする。これほど多彩なショットを披露できるのも熟達の域に到達した大ベテランならでは。

 今季はシングルスにもダブルスにも積極的に出場してシーズンを戦っているクルム伊達にとって、今週行なわれている東レPPOテニスは20大会目だった。さすがにシーズン終盤は、鍛え上げてはいるものの、若い時とは違う40代半ばの肉体は、蓄積疲労により悲鳴を上げる時期だという。だが、かつて20代でツアー転戦していた時は、転戦自体にストレスを感じ、試合数も極力抑えて最低限の海外遠征をしていたことを振り返ると、37歳で現役復帰した後のクルム伊達がいかにテニスを楽しみ、過酷でもあるツアーを戦っているかが分かるというものだ。

「今季ここまでタフなスケジュールをこなしてきて、疲れが蓄積しているところです。私に限ったことではないですが、体力的には厳しい時で、どの選手もケガをしやすい時期でもあります。私もシングルス1回戦の試合途中で股関節に肉離れに近い筋肉の痛みを感じ、その後は思うような動きができなかった」

 16日のシングルス1回戦で元世界ランキング1位のビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)と対戦。第1セットは立ち上がりから調子が良く、軽快な動きで相手を封じ込めて先取。このままの流れで行くかと思われたが、本人曰く「好事魔多し」。第2セットは序盤から動けなくなってしまい、最後までそれを引きずって6−3、0−6、2−6の逆転負けを喫した。

「(前週の大会の)香港で悪かった肩は回復した状態で東レPPOに臨んだが、体調が良かった分、ハードに動いてしまったことで痛みが出たかもしれない。第1セット途中から違和感があり、第2セット第1ゲームで相手のサービスをリターンするときに右股関節に強い痛みを感じ、その後はナイフを突き刺すような痛みを感じるようになった。リタイアを考えなかった訳ではないが、私自身、負けることよりも途中でリタイアすることの方が避けたいことなので、ダブルスに大きな影響が出ないと判断して、試合を続けました」

 バルボラ・ストリコバ(チェコ)とのペアで出場したそのダブルスでは、ワイルドカードで出場したドミニカ・チブルコバ(スロバキア)、キルステン・フリプケンス(ベルギー)組に、3−6、5−7で競り負けた。

 先の全米オープンでは、今年3月から組んでいるストリコバとのペアで、自身初となるグランドスラム(四大大会)のダブルス・ベスト4に輝いた。パートナーとなったストリコバは、多彩なショットの持ち主でネットプレーが上手い。身長も同じくらいのクルム伊達と似たタイプの選手なだけに、試合を重ねるごとに絶妙なコンビネーションが生まれ、全米では強豪ペアを次々と撃破して快挙に結びつけた。20代の現役時代は、ほとんどダブルスはせず、シングルス一本に絞って戦っていたが、今では「ダブルスらしいダブルスができるのは楽しい」と言うほどの変わりようだ。

「彼女(ストリコバ)と組んでいつもいいプレイができていたんですけど、今日(17日)は(緩急をつける)相手のフリプケンスのペースに巻き込まれてしまい、それに合わせてしまったところがあって、自分たちのいいところを出せなくなったのが敗因。足の状態は昨日は最悪でしたが、アイシング、炎症止め、マッサージ、針など手持ちの機械であれこれやって、今日起きたら痛みはゼロに近かった。何が効いたのかは分からないですが、不安要素はなく、ダブルスに臨むことはできた。当然多少のダメージはありますが、プレイに影響はありませんでした」

 ダブルスのツアータイトル数17を誇る28歳のストリコバは、伊達について「常に一緒にいて楽しい方です。オンコートもオフコートも楽しく過ごせるパートナーで、彼女とはオフコートでもいいコミュニケーションが取れている」と、15歳上のクルム伊達について語っている。今季はこの後、それぞれ別の大会に出場するため、2人が組むダブルスはこの東レが最後の試合になる。今後もペアを組むかはまだ話し合っていないというものの、ストリコバは「今後も一緒にやっていきたいし、グランドスラム優勝も可能性はあると思っています。彼女とは来年もいくつかトーナメントには出たいと思っています」と話している横で、クルム伊達は笑顔を見せながら「もう私と組んでくれないの?」とおどけてみせた。

 ダブルスの試合後の会見で、「復帰してから何が大きく変わったのか」を尋ねると、少し考える伊達に、パートナーのストリコバが「歳を取ったことでしょ!」とささやいて笑いを誘うと、苦笑いの伊達は「はい!歳を重ねました!もうすぐ44歳よ」と応じ、会見場が沸いた。そして、あらためて記者の質問に伊達はこう答えた。

「ここまで来る中で変化したところは、歳を重ねていくに従い、自分の身体とどう向き合うかということを考えるようになり、若い時よりもしっかりバランスが取れるようになった。自分の状態をきちんと知らなければ身体を壊してしまうので、トレーニングを続ける時と減らす時を見極めることができたことで、今でもプレイを続けて来られているのだと思います」

 強靭な精神力と努力の賜物によるところが大きいクルム伊達のチャレンジは、大きな怪我がなければまだしばらく続くのだろう。

 そのクルム伊達は21日、東レPPOのシングルス決勝後のイベント「クルム伊達公子&マヌエラ・マレーバ ジュニアチャレンジマッチ」に出場予定。クルム伊達とマレーバがそれぞれジュニア選手と組み、ダブルスの6ゲーム先取マッチを戦うことになっている。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha