ヤンキース・田中将大【写真:田口有史】

終戦ムードでの復帰に大多数が否定的

 右肘靭帯部分断裂で離脱中のヤンキース田中将大投手が、21日(日本時間22日)のブルージェイズ戦で7月8日のインディアンス戦以来となるメジャー復帰を果たすことが決まった。慎重なリハビリを進めていた田中も復帰に自信を見せている。

 しかし、実はヤンキースファンの大多数はルーキー右腕の今季中のメジャー復帰に反対していることが分かった。ESPNは「ヒロの復帰の時なのか? 今季終盤にマサヒロ タナカが登板することは名案なのか?」というアンケートを実施。現地時間17日午前1時段階で得票数は2538票。うち73%ものファンが登板に「No」としている。

 オリオールズのア・リーグ東地区優勝が決まり、ワイルドカードでのプレーオフ争いでも進出圏内のロイヤルズとゲーム差6と開いているヤンキース。ロイヤルズとヤンキースの間にはマリナーズ、ブルージェイズ、インディアンスがひしめく現状は、もはや終戦ムードに近い。そこで田中を復帰させることに、多くの人間は否定的な考えを持っている。

 ESPNのマイク・メアッツォ記者も、今季中に田中を復帰させるヤンキースの方針を明確に否定した。

ヤンキースはマサヒロ タナカに多額の投資をしている。あと6年でこの25歳のエースに(年俸総額の残額である)1億3300万ドル(約142億5000万円)もつぎ込んでいるのだ。それを考えるにつけ、なぜ日曜日(日本時間22日)にメジャー復帰というリスクを犯すのだろうか」

 今季開幕前に米国内でしきりに登板過多と指摘された日本でのキャリアも理由に、さらなる休養こそ有益と指摘している。

「彼のシーズンは終了したかに思えたが、終わっていなかった。タナカはリハビリを続け、身体を鍛え直した。週末にマウンドに立つことになりそうだが、一体なんのために? ヤンキースは消化試合で投げさせるくらいなら、なぜ休ませないのだ。彼は2007年の日本でのルーキーイヤーから1444イニングを投げ、57試合完投している。彼の腕には休養が必要なんだ」

復帰戦は肘の最終テストの場

 さらに、田中は来年以降にピンストライプの名門を背負って立つスター候補だとして、メアッツォ記者はそのリハビリ方針に大きな疑問の声を上げた。

「田中を早々に今季休ませる方が、より意味がある。(今季中の復帰が)選手かチームにメリットがあるとは思えない。デレク・ジーターの(今季限りでの)引退後は、田中がチームのメイン・アトラクションの1つとなる。ヤンキースは彼が健康であることを確信する必要がある。だが、今季中の登板が最良の方法なのだろうか」

 一方、27%にとどまっている賛成派の意見をヤンキース番のアンドリュー・マーチャンド記者が代弁する。

「田中に関して想定しうる最悪のシナリオは、(復帰戦で)肘を抱えながらマウンドを降り、そのまま手術台に直行すること。それでも、後に発覚するよりは早いに越したことはない。だからこそ、ヤンキースが日曜日(日本時間22日)に田中を復帰させることは正しい選択だと言える。もしも、メジャーの真剣勝負の負荷に肘が耐えきれなければ、ヤンキースは即時にトミー・ジョン手術(靱帯再建手術)に送り出すことができる。2016年シーズンには復帰できる」

 記事では、田中を日本時間22日に復帰させるヤンキースの狙いとして、肘の最終テストであることを主張。マウンド上で思い切り腕を振ることができるか。本気のファストボール、スプリットに靭帯は悲鳴を上げることはないのか。それを早く知りたいというのだ。

 実際の肘の状況は、メジャーのマウンドしか確認できない。ジョー・ジラルディ監督も「もしも、来季のスプリングキャンプで肘の状態の不安が顕在化した場合、2015年シーズンの離脱に加え、2016年シーズンのスプリングキャンプまでリハビリ期間は延びることになる。2016年シーズンに疑問符が付くことにもなる」と説明している。

「問題がなければ来年にポジティブな気持ちで臨める」

 復帰賛成派のマーチャンド記者も、最終的に田中が自らの腱を患部に移植して靭帯を再建するトミー・ジョン手術を受け、全治1年〜1年半の離脱を余儀なくされる可能性があることを認めている。

「最終的には田中は手術が必要となるかもしれない。その時には『ほら言っただろ!』という声を間違いなく浴びることになるだろう。だが、ヤンキースは2014年シーズンを捨てることができなかった。開幕前から2015年シーズンをあきらめたいとも思っていない。

 ヤンキースは楽観的であろうとしているのかもしれないが、現時点で(今季登板策に)は失うものはさほどない。田中の現状を把握することができる。今季終了までの2試合の先発登板で問題がなければ、来年にポジティブな気持ちで臨むことができる。ヤンキースは希望を持つことができる。そうではない場合も、田中には2016年の復帰まで十分な時間が残されている」

 こう考察を加えている。

 来季以降、田中はピンストライプの名門の巻き返しに向けて最大のキーマンとなる。今季のみならず、2016年シーズンまでの運命を左右するマウンド復帰は、プレーオフ争いが加熱するメジャーにおいても大きなトピックとなっている。