凶暴なサウンドスケープで、まったく新しい「音楽」の世界を探求しつづける孤高のサウンドアーティスト、ベン・フロスト。ブライアン・イーノをはじめ世界中の音楽家が注目し、メディアもこぞってそのサウンドを賞賛。オーストラリア出身、現在はアイスランドに拠点を置く異才が、来日公演を間近に控え、最新作「AURORA」のほか映像作家リチャード・モスとのコラボレーションなどについて語る。

「ガンマ線からコンゴの紛争地帯へ:エレクトロノイズの鬼才ベン・フロストが捉える「根源のサウンド」」の写真・リンク付きの記事はこちら

最新作「AURORA」は、PitchforkでBest New Musicに選出され、8.5点の好評価を得た。音楽誌『WIRE』の表紙を飾ったほか、Rolling Stones誌が選ぶ「いま知るべき10人のアーティスト」にも選出されている。

メディアがこぞって注目するエレクトロニックミュージックの鬼才、ベン・フロスト。その才能がいかなるものであるのか説明するのかは、極めて困難だ。インダストリアルノイズのような凶暴性をもちながら、そこに独特のエレガンスをも忍ばせる。極めて非音楽的に聴こえながら、音楽的でもある。

『WIRED』最新号の別冊付録「Enhanced Vision」のなかで紹介した、写真家/ヴィジュアルアーティスト、リチャード・モスとのコラボレーションなども行なっており、その活動のフィールドは、音楽という狭い枠を超え、異ジャンルにも及ぶ。言葉の正しい意味で「サウンドアーティスト」と呼ぶのがふさわしいのだろうか。かのブライアン・イーノさえもがラヴコールを送る、オーストラリアのメルボルン出身の異才に、メールインタヴューを試みてみた。が、その答えは、なかなか意味が汲み取りづらい。おそらく答えの中身ではなく、その答え方、語りの構成や文体自体のほうが、きっと、彼の音楽について、より雄弁に語っているようでもある。

──まず最新作「AURORA」のコンセプトってあったら教えていただいていいですか?

ガンマ線だ。くそデカい惑星から吐き出されて時速10億マイルの速度でわれわれを射抜くガンマ線だ。巨大なバッテリーのように地球の極に吸い上げられ、暴力的ともいえる作用によって頭上から降り注ぐ。それは抗うことのできない圧倒的な脅威だ。しかし、われわれがそれをどう受けとめているかはまた別の話だ。(※編集部註:おそらくガンマ線バーストという現象について言及していると思われる。)

あるレヴェルにおいては、この作品はダンスミュージックを書き直すものでもある。そのリズムや至福感をもたらす性質や、それが目指そうとしているものを読み替えるということだ。バスドラムのビートが心臓のリズムを外在化したものであるというのは言わずもがなの話だ。だからこそ、われわれはリズムに魅せられる。

それはつまりわれわれがある発明を無から行なっているわけではないということだ。もっと深く根源的なところからそれはやってくる。オーロラ。光のイメージ。蛍光のゆらめき。それが魔術的であるのは、単にその動きのなせるわざではない。それは美とも関係ない。われわれがそれに魅せられるのは、そんな理由からではない。そういうふうに読み解くことはできるが、本当はもっと深い骨や肉のレヴェルにおいて、われわれはそれに魅せられる。それは、わたしたちに、答えることのできない問いを語りかけているんだ。

──どのようにアルバムをつくりはじめるのですか? コンセプトですか? それとも音(テキスチャーやリズム)から始めるのですか? もしくは視覚的なレファランスがあるのですか?

長い時間のかかるプロセスで、その間にたくさんの犠牲がでる。たくさん議論をし、たくさん読み、聴き、そしてただ普通に生きることからそれは出てくる。そして次第にアタマのなかに像がかたちづくられてくる。気象衛星が嵐や竜巻がつくられる瞬間を捉えた映像を見たことがあるだろう。あんな感じだ。どこからともなくそれは現れるわけじゃない。東西南北から気流が押し寄せてそれはかたちづくられる。さまざまな要素が渦をなし、癒合し、それが完璧な嵐になるべく速度を増していき、そしてある時点で完璧な破壊の瞬間が立ち現れる。そんなやり方でこの数年、この作品をつくってきたが、それが最大風速を得たのは昨年のはじめのことだったはずだ。

──ご自分の音楽をどのように定義されます? エレクトロニカ? 実験音楽?

定義はしない。

──なんで、あなたの音はこんなに凶暴なんですか? それはどこから来るのですか?

親のせい、としておこう。

──アルバムに収録される曲とそうでない作品とをどう振るい分けるのですか?

すべてがきちんと収まるまで作業をしつづける。それがすべてだ。よかれあしかれ、途中でやめないことだ。

BEN FROST|ベン・フロスト

1980年、オーストラリアのメルボルン生まれ。2005年よりアイスランド・レイキャビクに拠点を移して活動する北欧エレクトロニカ・シーン注目の若きクリエーター。<Bedroom Community>創設者ヴァルゲイル・シグルズソン等と共に音楽活動を行い『Steel Wound』(2003年)でデビュー。その後『Theory Of Machines』(2007年)に続いて2009年にリリースした『By The Throat』にてNMEやWireで好評価を獲得。2010年にはブライアン・イーノからの依頼でダニエル・ビャルナソンと組み、タルコフスキーによる映画『惑星ソラリス』にインスパイアされたエクスペリメンタル・ミュージックを制作。またスワンズの前作『The Seer』や、アンビエント、ドローン・ミュージック界の重鎮ティム・ヘッカーなど様々なミュージシャンの作品でも制作に関わるほか、コリン・ステットソンやVampilliaのプロデュースなども手がける。ダンスカンパニーへの音楽提供や、アート作品や映画のスコアなども、音楽の領域外での活動も活発だ。

同じく最新作「AURORA」から。

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ArtistInterviewMusicSounds of IcelandVol13

フロストが音響を担当したアート作品「Enclave」を作家のリチャード・モスが解説したドキュメンタリー。ここでは、フロストは「ミニマル作曲家」として紹介されている。作品が55回ヴェネツィア・ビエンナーレで発表された。

──映像作家のリチャード・モスとトレヴァー・トゥウィーテンとの関係を教えてください。

ニューヨークのアパチャー・ギャラリーではじめてリチャードの作品集『The Enclave』を見た。それは、それまでに観たことのないようなものだった。その瞬間、アイデアがぴたっと収まった。ちょうどそのとき新しい音楽のアイデアを探究していたんだが、彼の作品はまるでそれが反映されているように思えた。まるでそこにある空間が別のありかたで立ち現れ、ずっとそこにあったのに隠されていたものが、突然見えるようになったというような体験だった。結果リチャード・モスの作品は、ここ数年における重要な要石のような存在となっている。もちろん最新作もリチャードの活動とどこかでリンクしている。

──どのようにしてコラボすることになったのですか?

初めて会ったのはアフリカだ。

「The Enclave」(『WIRED』Vol.13でも紹介)という作品のなかででわれわれがやろうとしたのは(編集部註:コンゴの紛争地帯を赤外線フィルムで映像に収めたこの作品で、フロストは音響を担当した)、現実にある状況を超越することで、別の視点からコンゴの紛争地帯の現状を明かすことにあった。音はそれを成し遂げるにはユニークな道具となった。あの場所にいて、ジャーナリストを気取りながら──実際にジャーナリストでもあったわけだが──自分がショットガンマイクでやろうとしてのは、違った耳で現場を聴くということだった。虫が絶えず鳴らし続けるドローンは、ときに堪え難いほどの音量で迫ってくるものだったが、それは通常のドキュメンタリー作品だったら真っ先に消し去られてしまうはずのものだ。

それはつまるところ、まやかしということでもある。あるものをなかったことにする。真実を伝える、といったことのなかには、そうした作為が紛れ込むということでもある。われわれはそれを別の角度から捉えようとした。それは、その現場、その空間のいつものありようを捉えるということだった。戦場だからといって、常に自分が死体に囲まれているわけではない。90%は普通の営みだ。人びとには日常生活を送っている。けれど、そこには、すべてが一瞬で決定的に変わるという不安定さがおおいかぶさっている。緊張感だ、そして虫のドローンは、そこではまるで映画音楽における緊張感溢れるトレモロのように聴こえる。ただしそれは演出ではない。それはそこに、ランドスケープの一部としてある。わたしは、それを捉えたかった。

あの作品で、わたしは録音のためにiPhoneを使った。それはわたしたちが何かをしていると周囲の人に悟られないようにするためだったが、現地の人びとは結局のところ、わたしたちがもっていた機材に気を取られているわけではなく、背の高い白人が景色のなかを歩いていること自体に反応しているのだ。物体が異物なのではなく、人が異物なのだ。われわれがどんな機材をもっていようが、コンゴの子どもたちの反応は変わらないのだ。

──映像作家と一緒に仕事することはどんなメリットがありますか?

自分以外の人間と何かをする、というのはいつだって、健康的だ。

──アイスランドに拠点を置いていることのメリットってありますか?

世界がゾンビに征服されたとしても、生き残る確率はよそより高いだろう。

関連記事:氷の島と音の巡礼:アイスランドの音楽エコシステムを巡る

人口15万人。アイスランドの首都レイキャヴィックの小さな小さな音楽シーンはなぜグローバルに支持されるのか? 未来の音楽ビジネスのヒントを探して、極北の孤島へ飛んだ。

──いま興味もっている新しいテクノロジーとかありますか?

友人のニコ・ミューリー(編集部註:現代音楽家。フロストが作品をリリースしているアイスランドのレーベル「Bedroom Community」の創設者のひとりであり、ミューリーの作品にフロストは参加している)と最近話していたのは、プリプログラムできて人間にはできないような速度で演奏できるfxxkingなマシーンのために曲を書くということだ。パーカッションのための音楽をつくったら面白いだろう。というかアホらしいだろ。

──いまはどんなプロジェクトに携わっているのですか?

オペラにとりかかっている。リサーチのためにたくさんの本を読んでいる。かつ酒を飲み過ぎ、たばこも吸い過ぎている。ところで最近、日本人のアーティストでキノコハジメというヤツにハマってるんだが。知ってるか?

エレクトロノイズの鬼才ベン・フロスト
注目の来日公演10月1日・2日に開催!

ATP(All Tomorrow’s Party)、カナダのMUTEKはじめあらゆるフェスティヴァルや北米・ヨーロッパ各国で精力的にライヴツアーを展開しているベン・フロストがいよいよ日本ツアーを開催。いま最もそのパフォーマンスを観たいと世界の先端音楽フリークたちが望む鬼才のサウンドを体感せよ!

<東京公演>
WWW presents “Ben Frost A U R O R A live in JAPAN”
出演:Ben Frost
日程:2014年10月2日(木)
会場:渋谷WWW
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売¥4,500 (ドリンク代別 / オールスタンディング)
問合わせ:WWW 03-5458-7685
詳細:http://www-shibuya.jp/schedule/1410/005316.html

<大阪公演>
iinioi presents “Ben Frost A U R O R A live in JAPAN”
出演:Ben Frost / Vampillia
日程:2014年10月1日(水)
会場:CONPASS
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売¥4,000 (ドリンク代別 / オールスタンディング)
問合わせ:CONPASS 06-6243-1666 / WWW 03-5458-7685
詳細:http://www.conpass.jp/

最新作「AURORA」絶賛発売中

ビョーク、シガー・ロス、ムーム等の作品を手掛けてきた、アイスランドの音楽シーンの重要人物ヴァルゲイル・シグルズソンのレーベルBedroom Communityの一員として、活動してきたフロスト。轟音と静寂、凶暴さと繊細さが交錯する唯一無二のシューゲイズ/エレクトロ・サウンドは世界中から高い評価を受けてきた。オリジナル作品以外でもビョークのリミックス、ブライアン・イーノとのコラボレーションなどでも知られる鬼才の最新作!PVは、注目の映像作家リチャード・モス+トレヴァー・トゥイーテンが担当! (Mute/Bedroom Community)

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