第42回:豪栄道

ベテラン、若手ともに、
話題の力士の奮闘が期待される
秋場所(9月場所)が始まった。
激戦が予想される中、
横綱が注目しているのは、
新大関の豪栄道だという。

 9月14日から大相撲秋場所(9月場所)が始まりました。名古屋場所(7月場所)後には新大関・豪栄道が誕生。夏巡業や秋場所前の出稽古では、遠藤や大砂嵐ら期待の若手力士も内容のある稽古をこなしていました。ファンのみなさんにとっても、見どころの多い場所になるのではないでしょうか。

 私は、夏巡業や所属する宮城野部屋の合宿中に英気を養いながら、秋場所に向けて自分なりの調整を続けてきました。そうした中、宮城野部屋に新小結の千代大龍が単身で出稽古にやってきたので、その相手をしたり、自らも出稽古に行って、遠藤らに稽古をつけたりすることもありました。やる気のある若い力士たちと一緒に汗を流して、「私もまだまだ、彼らの"盾"にならなければいけないな」と、改めて感じました。

 一方、ベテラン力士も元気です。ひと際存在感を示しているのが、旭天鵬関と豪風関です。

 秋場所初日の前日、40歳の誕生日を迎えた旭天鵬関は、初日から3連勝。40歳の幕内力士誕生は60年ぶりの快挙だそうですが、連日、年齢を感じさせない力強い相撲を見せています。

 モンゴル人力士のパイオニアである旭天鵬関。私もモンゴルで過ごしていた少年時代には、その奮闘ぶりをテレビで見ていました。私にとっては、大先輩であり、まさにヒーローという存在でもありました。

 旭天鵬関と一緒に入門した旭鷲山関はすでに引退しましたが(2006年)、旭天鵬関は2年前の夏場所(5月場所)にも幕内最年長記録(37歳8カ月)で優勝。相変わらず脅威の体力を誇っています。

 旭天鵬関とは一緒に稽古をする機会が多いのですが、驚かされるのは、稽古の間ずっと体を動かしていること。準備運動を入念にこなして、そのあとはみっちりと四股(しこ)を踏んでいます。その姿勢には、見習う部分がたくさんあります。ベテランだからといって、稽古を休むこともほとんどないそうです。そうした日々の努力が、40歳になっても幕内力士でいられる理由なのでしょうね

 35歳にして新関脇に昇進した豪風関も素晴らしい活躍を見せています。身長171cmと決して体格には恵まれていないのですが、思い切りのいい取り口で相手をかく乱。今場所もキレのある相撲で勝ち星を重ねています。

 最大の良さは、自己管理が徹底していること。加えて、研究熱心でもあります。だからこそ、35歳を迎えてもなお、強くなっているのでしょう。こうした先輩力士たちのがんばりにも、私は大いに刺激を受けています。

 さて、今場所は大関に昇進した豪栄道にも注目しています。彼はもともと力のある力士です。それは、2年もの間、関脇の地位を保っていたことでも証明されていると思います。しかし、これまで"何か"が足りなかった。なおかつ、自分なりの相撲の形を持っていながら、あっけない負け方を喫するなど、安定感に欠ける部分がありました。それが、なかなか大関昇進につながらなかった要因でもあります。

 ついに大関昇進を果たしましたが、豪栄道はまだ"何か"を得られていないと思います。安定感という意味でも、必ずしも磐石とは言えません。大関という地位では常にふた桁勝利を求められます。それだけに、豪栄道はこれから一層の努力が必要でしょう。そして、もっともっと気を引き締めて戦っていかなければいけません。

 ともあれ、名古屋場所の13日目には左ヒザを痛めるというアクシデントがありながら、千秋楽で勝利をもぎとって、大関の座を手に入れました。逆境を迎えたときこそ、力を発揮できるのは、彼の強みです。精神的に強い力士ですから、今場所も大いに盛り上げてほしいですし、大関以上の力士には必要な"何か"を見つけ出して、今後のさらなる飛躍を期待したいところです。

 先場所で30回目の優勝を達成することができた私は、これからも一番、一番を大切にして、いい結果を出せればと思っています。周囲からは「次は千代の富士関の31回だ」「その次は大鵬関の32回だ」などとハッパをかけられますが、そうした数字はあまり意識しないようにしています。先場所、先々場所では、「30回」という数字を知らず知らずのうちに意識して苦しんだのでなおさらです。何より、自分を見失わないこと、己に打ち勝つこと、というのを肝に銘じて、目の前の一番に全力を尽くしていきたいと思います。

 ところで、「スポーツの秋」と言われるだけあって、あらゆるスポーツが盛り上がりを見せていますね。プロ野球は佳境を迎え、サッカーの日本代表もアギーレ監督を招聘して新たな一歩を踏み出しました。これからがますます楽しみです。

 そして、忘れてはいけないのが、テニスの錦織圭選手です。全米オープンでは、準決勝で第1シードのジョコビッチ選手を破って、見事決勝進出を果たしました。最終的には準優勝に終わりましたが、世界の大舞台で日本人選手が活躍するというのは、本当にうれしいことですね。テニス界だけでなく、多くの日本人アスリートにいい刺激を与えたのではないでしょうか。

 また、韓国・仁川でアジア大会が開催されます(9月19日〜10月4日※サッカーは9月14日からスタート)。各競技の選手にとっては、2年後のリオデジャネイロ五輪へ向けて、その行方を推し量るうえでも、重要な大会となりそうです。大会に挑む選手たちには、ここで自信をつけたり、結果を残したりして、五輪へのいいステップにしてほしいですね。

武田葉月●構成 text by Takeda Hazuki