アジア大会初戦、勝たなければならない試合だった。

 日本は中国、ヨルダン、チャイニーズ・タイペイとともにグループBに属し、初戦はグループ内で最も力が拮抗する中国との対戦となった。山形でガーナとの一戦を終えて中一日。強行スケジュールで迎えた初戦は、アジア大会2連覇へ勢いをつける内容にはならなかった。

  スタメンはガーナ戦と同じ顔触れ。ガーナを相手に5ゴールの大爆発を見せたメンバーだが、中国を相手にするとその攻撃力は沈黙した。もちろんこれは容 易に想像できたことで、選手たちもこの状況に焦りはない。90分を通して、主導権は日本が握っていた。宮間あや(湯郷ベル)を中心に丁寧にパスをつなぎ、 形を作れないときには無理をせず、最終ラインからやり直す。ボールを動かしながら、隙を突いて前線にボールを入れる。選手たちの意図は明らか。フィジカル に長(た)け、粘りと統率のある中国の守備に揺さぶりをかけたいところだった。

 大舞台でスタメンを掴んだFW増矢理花は、所属するINAC神戸でもペアを組む高瀬愛実のサポートを受け、相手に囲まれながらも懸命に突破を試みる。両 サイドの川澄奈穂美、中島依美(ともにINAC神戸)も、ドリブル、連携などパターンを変えて切り込む。攻撃の形を作っていく日本だが、最後の一本でどう しても中国の守備網に引っかかってしまう。

 こんなとき、日本がゴールをこじ開ける手段として頼るのがセットプレイだ。しかしこの頼みのセットプレイからゴールの匂いがしたのはわずかに2本。日本のゴールは遠かった。

 それでも前半はまだバイタルエリアにスペースがあった。後半に入ると中国は守ってショートカウンターの一辺倒。日本はますますスペースの少ないゴール前 をこじ開けなくてはならなくなった。膠着状態が続く中、残り20分を切って、佐々木則夫監督はFW菅澤優衣香(ジェフ)、FW吉良知夏(浦和レッズ)を、 ロスタイムにはMF木龍七瀬(日テレ・ベレーザ)を送り出すも、最後までゴールを割ることができずにタイムアップ。スコアレスドローでアジア大会をスター トさせることになった。

 まず踏まえておかなければならないのは、これまで誰もがイメージしてきた"なでしこジャパンの物差し"は使えないということ。このチームは生まれてまだ 1週間のチーム。互いを知るには時間が足りていないことは簡単に見て取れる。「今のみんなでどんなサッカーをするかが大事」とは宮間だが、残念ながらその サッカーを初戦では感じ取ることができなかった。

 DF臼井理恵(浦和レッズ)がボールを奪った際に「慌てない、慌てない!」と宮間が落ち着かせる場面があった。限られたエリアで相手のプレスが速い中、 判断を急ぐあまり全体的にパスミスも多く、そこからピンチを招くこともしばしば。フィニッシュに直結するフィード、クロスの精度もまだまだ改善しなければ ならない。「ミドル、ロングシュートも練習していたが、手間をかけ過ぎた」と指揮官も振り返るように、手数をかけることでリズム・スピードの緩急の効果が 薄れた感もある。

 前線でボールを待つ高瀬も「これをやるぞ!っていうのではなく、ここでパスを出してもいいかな、ダメかなって迷いながらやってる」と感じていた。前半か ら増矢を生かそうとする動きを見せていた高瀬。その動きはいくつかの増矢のドリブル突破につながったが、その増矢が瞬時に囲まれてしまうことも多かった。 問題はトップにボールが入るタイミングだ。時折、宮間がDFの裏を狙うタテパスを送ったが、ハメることはできなかった。

 90分間、同じテンポで進んでしまった結果、中国に"日本慣れ"をさせた。だからこそ、中国はショートカウンター一本に絞り、日本の連係プレイに食いつかないことで体力を温存させることもできた。打開するには何らかの"変化"が必要だった。

「横には動かせるから、もう少しタテにも動かしたい。トップにちゃんと収まれば、違う形も見えたはずなので、前線の責任です」と高瀬は声を落とす。「それ でも裏は取り続けたいんです。もっと前を向いてプレイできるようにしないと相手も怖くない。今日は理花(増矢)との距離がなんか遠かったんです。もっと近 くにいれば何かできる自信はある。90分の中で味を変えていかないとダメってことですね」(高瀬)。

 その味付けのヒントは90分の中にあった。多くの難しいことをやって中途半端になるより、限られても軸となる攻撃の精度を上げることが先決だ。前半に見 られた宮間のタテパスを生かしきる。阪口夢穂のバーを叩いたミドルシュートなど、DFを引き出しながら得点を狙うプレイを増やす。76分に生まれた左サイ ドをえぐった川澄がDF裏に入れたクロスボールのように速いラストパスを組み入れる。これだけでも十分に変化は起きるはずだ。

 ここからのグループリーグの戦いは格下が続く。中国と引き分けた今、1位通過には得失点差が絡む。2位以上で確実に決勝トーナメントに進めるとはいえ、 中国以上に自陣に引きこもるであろう相手をどう"崩し切る"か。その中で、このチームらしいストロングポイントを見つけ、味を深めなければならない。攻守 が激しく入れ替わる決勝トーナメント以降の戦いに備え、残り2試合で何とか突破口を見出してほしい。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko