「ショックで、今はもう先のことは何も考えられない」

 ブラジルW杯で惨敗したあと、吉田麻也は放心状態だった。あれからおよそ2カ月が経過し、吉田はその悔しさを糧にして、一段とたくましくなっていた。所属のサウサンプトン(イングランド)ではレギュラーの座を奪取。アギーレ監督を迎えた新生・日本代表にも招集され、2018年ロシアW杯への第一歩となる2試合でフル出場を果たした。が、チームはウルグアイ戦で0−2と力負けし、ベネズエラ戦は勝ち切れぬまま2−2で引き分けた。

―― 試合後、不満そうだった。

「そりゃ、そうでしょ」

 ベネズエラ戦を終えて、吉田は吐き捨てるようにそう言った。

「2試合とも勝てなかったことがすごく悔しい。監督は結果を気にしなくてもいいと言っていたけど、(2試合とも)ミスを重ねて失点した。ベネズエラ戦では、リードして追いつかれて、またリードして追いつかれてと、リードしたあとの戦い方もよくなかった。攻撃の形も、チャンスも、そんな多く作れたとは思えない。だから、戦えたな、という感覚もないです。むしろ、非常に受け入れ難い引き分けかな、と思います」

 吉田の表情は憮然としたままだった。

 今回、吉田は自らにミッションを課していた。戦術面において、前指揮官のザッケローニ監督と最も異なるのは、アギーレ監督は4−3−3のシステムで中盤の底にアンカーを置いている点である。W杯で浮き彫りになった守備の課題を踏まえて、より強固なディフェンスを確立しようという狙いがあるのだろう。吉田はそのアンカー役(森重真人)とともに、守備の形を確認し、攻守の連係を構築しようとしていた。

「この2試合で特に自分が意識していたのは、アンカーを使いながら、どうビルドアップしていくか、ということ。守備では、いかにアンカーのところで相手の攻撃を摘めるか、ということだった。(2ボランチだった)今までは、相手ボールホルダーの位置によって、サイドバックも(中に)絞って対応していたけど、今回のシステムでは、サイドバックが常に絞ってきて、アンカーとともに相手の攻撃の芽を摘んでいくことが必要になる。そのために(自分は)90分間、しっかりとコーチングしていかないといけない。それにプラスして、ラインの設定とか、プレスのかけどころとかも、試合をこなしながら固めていければな、と思っていた」

 しかし、初戦のウルグアイ戦では、思ったことの半分もできなかった。とりわけビルドアップ、攻撃ではほとんどいい形を作れなかった。パターン化され完成度の高かったザッケローニ監督時代の攻撃に比べて、かなり見劣りした。

「後ろの僕らがボールを持つ位置が低過ぎた、という面があった。ただ、真ん中(中盤)にボールが入ったときに、もう少しアイデアがあってもいいのにな、と思うこともあった。それに、前につなげられないから、横パスやバックパスが多くなってしまった。ヤットさん(遠藤保仁)がいないから、というわけじゃないけど、ずっと(攻守のつなぎ役を)やっていた選手がいなくなると、そういう部分でも影響があるんだな、と思いましたね。

 守備では、アンカーを使ってカウンターを封じるという点は、自分たちのミス以外で相手にそういうシーンを作らせなかったので、評価できると思います。でも、連動して守備をする、という部分はまだまだです。パスミスや判断ミスが多かった。みんなが連係して守れるようになるには、もう少し時間がかかるでしょう」

 新監督を迎えて、メンバーも、システムもガラッと変わった。実質2日間の合同練習では、世界の強豪国さえ、組織的かつ完璧なサッカーを実践するのは難しいだろう。当然、中3日で行なわれた2戦目のベネズエラ戦でも、何かが劇的に変わるはずはなかった。

 吉田自身、思い描いていたことがそう簡単にできるとは思っていなかった。それでもなお、吉田の表情が最後まで晴れなかったのは、それだけが原因ではない。ブラジルW杯のときに痛感した「戦う気持ち」が、自らも含めて、まだまだ足りないと感じたからだ。

 ブラジルW杯のあと、吉田はこう言っていた。

「(世界で勝つためには)戦術うんぬんよりも、最後は気持ちだというのがはっきりとわかった。ネイマール(ブラジル)だって、ロッベン(オランダ)だって、最後まで諦めずに走って、戦っている。でも、自分たちは本気で、死ぬ気で戦えたかと言えば、そうじゃなかったかもしれない。どんなときでも、どんな試合でも、戦う気持ちを持って、100%全力で戦わないと、日本はW杯で勝てない」

 今回の2試合で、吉田は改めてその気持ちを胸に秘めてプレイした。親善試合だろうと何だろうと、勝負にこだわって、全力を尽くそうと決意していたが、選手全員の意識はそこまで高くなかった。それが口惜しかった。

「プレイ面では、みんな、監督の要求に素直にこたえようとしてばかりで、『オレが決めてやる』という動きが少なかった。あと、(ベネズエラ戦で)PKをとられたときなんか、審判に激しく抗議して、もっとプレッシャーをかけないといけない。その結果、次に何かあったときには、僕らがPKをもらえるかもしれない。そういうことができないのは、(日本の選手は)ちょっと正直過ぎるかな、と思った」

 とはいえ、中には戦う姿勢を見せた選手もいた。ウルグアイ戦で失点につながるミスをしたDF坂井達弥である。初代表という立場にあって、普通なら落ち込んでも不思議はないが、彼はミスをしたあとも下を向くことはなかった。その姿に、今後の可能性を感じた吉田は「センターバックは、こういう経験をして一歩ずつ階段を上がっていくんだ」と、坂井に声をかけたという。

 また、ベネズエラ戦の途中では、選手たちの戦う気持ちが前面に出て、チーム全体の士気が上がった時間帯があった。

「前半は、みんな動きが少なくて、テンポも上がらなかった。でも、武藤(嘉紀)がゴールを決めてから(後半6分)、ようやくみんな、前に行く姿勢を出し始めた。(代表に)新しく入った選手も、前からいた選手もみんな、『オレが』っていう雰囲気になって、スイッチが入った感じだった。

 本来、そういう気持ちは常に持っていないといけない。そうじゃないと、W杯でまた同じ過ちを繰り返すことになる。そこは、これからも(みんなに)要求していこうと思いますし、自分ももっと戦う姿勢を見せられるようにしていきたい」

 4年後のロシアW杯に向けて、チームは始動したばかりだが、吉田は悠長に構えてなどいない。数少ない代表での活動を大切にし、一戦一戦、気を抜かない覚悟でいる。

「このあとも、みんなクラブに戻って、試合に出て、(代表戦に向けて)常にいいコンディションを保っていくことが重要。まあそれは、僕に一番求められていることだと思うけど、それに対しての意識はしっかり持っているつもり。(欧州は)シーズン序盤のすごく大事な時期。そこで試合に出て、波に乗っていきたいと思っています。

 そうした流れの中で、代表でもいいプレイをしていきたい。今回、武藤や(柴崎)岳ら、新しい選手が活躍したけど、これからは代表の競争が一層激しくなる。自分もうかうかしていられないし、そういう状態が、自分にとっても、チ−ムにとってもベストだと思います」

 完全なヒエラルキーが形成されていたザックジャパンでは、ほとんど競争がなかった。しかし、アギーレジャパンでは新旧入れ乱れての"戦国"の様相だ。それもまた、世界で、W杯で勝つためには必要なことだと、吉田は強く思っている。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun