公衆衛生の極めて劣悪な国の中国で何が起きても驚かないが、“ペスト”と聞くと放ってはおけない。中国甘粛省政府によると、同省玉門市で男性が肺ペストに感染し死亡。当局は同市に通じる高速道路や幹線道路を封鎖するなどして、市民ら約3万人を隔離したという。
 「男性は7月15日にペストの症状が出て、翌日には死亡している。原因は定かではないが、大型のリスの死骸を捌いて飼い犬に与えていたそうです。当局は男性と密接な接触があった約150人を完全隔離し、今のところ新たな感染者は出ていないといいます。ただし隠ぺい体質の中国のこと、1カ月以上経った今、実情がどうなのかはわかりません」(社会部記者)

 ペストは、ネズミなどのげっ歯類などが媒介する感染症だ。
 世田谷井上病院の井上毅一理事長が説明する。
 「ペスト菌の場合、ノミが保菌したネズミの血を吸い、次いで人を刺した結果、人体に侵入する。加えて、感染者の血痰などに含まれる菌を吸い込むことでも感染します。人間、げっ歯類以外に、猿や兎、猫などにも感染する。皮膚が黒くなることから“黒死病”とも呼ばれ、中世ヨーロッパでは全人口の30%が死亡していることから、歴史を塗り替えた病気ともいわれています。短期間のうちに死に至るため、発症後24時間以内に抗生物質を投与する必要があります」

 放置すれば致死率100%。しかも、人から人へ空気感染する恐れもあるという。
 「感染した男性はリスを解体する際、血の飛沫を吸い込んだ可能性がある。ネット社会が進んだ今、中国政府も完全に情報を隠すことはできないことからも、一気に蔓延という可能性は少ないと思われます。ただし、珍種の哺乳類などはどんな感染症を持っているかわからない。さらに、その哺乳類に付いているノミやシラミも危ないのです。悪質なペット輸入業者は少なくないので十分な注意が必要です」(ジャーナリスト・村上和巳氏)

 デング熱やエボラ出血熱といった感染症パニックが続発する今、ペストでさえ他人事ではない。