74歳にしてこの歌声!スモーキー・ロビンソンという怪物がいる
 久々に全世界が思わず口ずさんでしまうような大ヒット曲となったファレル・ウィリアムスの「Happy」ですが、そのハスキーで半分ファルセットのような歌声を耳にしてあるソウルシンガーのことを思い出した人もいるかもしれません。

 スモーキー・ロビンソン。モータウンレコードの創設者の一人で、テンプテーションズの「My girl」やビートルズがカバーした「You really got a hold on me」の作者として知られる偉大なソングライターでもあります。故ジョージ・ハリスンが敬愛し、あのボブ・ディランも「アメリカで最高の詩人だ」と語り賛辞を惜しみません。

◆超一流どころと共演したデュエットアルバムが出た

 そのスモーキーと豪華ゲストが共演したデュエットアルバム『Smokey & Friends』が9月10日(日本盤)に発売されました。参加メンバーには、エルトン・ジョン、スティーブン・タイラー、ジョン・レジェンド、ジェームス・テイラー、メアリー・J・ブライジといった超一流どころがずらり。

 プロデューサーは『アメリカンアイドル』でおなじみのランディ・ジャクソン。タイトなバンドサウンドとポップスとしての耳障りのよさを高いレベルで両立させた見事な仕上がりとなっています。スモーキーの功績を称えるお祝いとして申し分のない仕事です。

⇒【YouTube】Smokey Robinson,John Legend‐Quiet Storm (Studio Video)http://youtu.be/wzWkaEuAHsM

 それにも増して恐ろしいのが御年74歳、スモーキーの歌声が全く衰え知らずなこと。モハメド・アリの名言「蝶のように舞い、蜂のように刺す」を歌で体現しているかのような切れ味の鋭さは健在。

 ビートの輪郭を滑らかに縁取り、それを粒立たせるリズミカルな心地よさを支えているのは、目標の音まで最短で声を届かせる精密な耳と瞬発力。その余裕が他のソウルミュージックとは少し毛色の異なるエレガンスを生んでいるのではないでしょうか。

 サム・クックと肩を並べられる唯一の歌い手と言っても過言ではないように思います。

(この素晴らしいパフォーマンスもご覧ください。
BET HONORS: SMOKEY ROBINSON’S ODE TO MOTOWN)
http://www.bet.com/video/bethonors/2014/performances/smokey-robinson.html

 そんな怪物スモーキーの書く曲は極めてシンプル。彼の数ある傑作のひとつ「Tracks of my tears」はたった3つのメジャーコードしか使われないミディアムバラードです。しかし、誰が歌っても決してスモーキーのようにはなりません。声質だとかキーの違い以上の本質的な相違を突き付けられるのです。

 それはライブで自身のヒット曲「Alison」に続けてこの曲を歌うエルヴィス・コステロが身をもって示してくれています。彼の歌う「Tracks of my tears」が全くの別物に聴こえるのは、ギターを歪ませているからではありません。

◆スモーキーに果敢に挑んだティーナ・マリー

 しかし逃れられない相違を乗り越え、もしかしたらスモーキーと刺し違えたのではないかと思わせるほどの迫力を見せたひとりの歌い手がいました。

 ティーナ・マリー(2010年に54歳で死去)。映画『トップガン』で印象的だった「Lead me on」やフュージーズにサンプリングされた「Ooo la la la」のヒット曲で知られる女性ソウルシンガーで、“非黒人”として初めてモータウンと契約したことでも有名です。余談ですが、アニメ「ドラゴンボール」がお好きな人は、彼女の「Emerald city」という曲を聴いてみていただきたいと思います。

 彼女がギター一本で歌う「Ooh baby baby」は、無数にあるカバーバージョンの中で最も上手く歌われたものではありません。それはリンダ・ロンシュタットがやったことです。しかし、ティーナ・マリーはリンダ・ロンシュタットが自分の歌にするために迂回したところを逃げずに立ち向かっています。再現しようのないスモーキーの細かな揺れや滑らかな遅れに、果敢にも挑んでいるのです。

⇒【YouTube】Teena Marie Unplugged “Ooh Baby Baby” Smokey Robinson http://youtu.be/7o2gAyvh3sU

 結果、スモーキーのエレガンスには程遠い金属的で攻撃的な「Ooh baby baby」になっているのですが、そのトライを失敗の一言で片づけるわけにはいきません。それがコピーすることの大切さを教えてくれているからです。ある手本を正確に写し取ろうとするからこそ、そこで初めて自分の個性が明らかになるのですね。

 至らない部分、できない部分、それがまさに自分のカラーなのだと分かる。ティーナ・マリーの「Ooh baby baby」には、そういった厳しくも健やかな精神があるような気がします。

 09年、アメリカのPBSで放送された『An Evening With Smokey Robinson』にゲスト出演したティーナ・マリーは、本人を目の前にしてもその硬質な写経を披露しました。しかしそんな彼女を見つめるスモーキーの表情のなんとも柔和だったこと。それもまた確かな祝福の形だったのだと感じます。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>