福田正博 フォーメーション進化論

 アギーレ監督指揮下の新生・日本代表は、初陣でウルグアイと対戦して0−2、続くベネズエラ戦は2−2と、2試合ともミスからの失点が続いて、勝利を手にすることはできなかった。

 代表監督に就任してから準備期間が短いなかでの親善試合だったため、日本人選手についての情報が多くはないアギーレ監督にとって、やりたいことや、狙っていたことが十分できた試合ではなかっただろう。

 ただ、この2試合からアギーレ監督がどういうサッカーを目指していこうとしているのかが垣間見えた。そのひとつが、「縦への展開が速いサッカー」ということだ。

 アギーレ監督が採用している4−3−3というフォーメーションは、前線にいる選手が多く、縦に素早くパスを入れやすい。そのため、ボールを回して相手を崩すサッカーではなく、前線に素早くクサビのパスを入れて基点をつくり、そこから攻撃を仕掛けるサッカーだ。

 その意図は、ウルグアイ戦では1トップに皆川佑介を起用したことからも、明確に伝わってきた。クサビのところでボールを奪われても、前に選手が多いため、そこからプレスをかけてボールを奪い返すことができるというメリットがある。

 そうしたサッカーを目指すうえで、アギーレ監督の色が最も出ていたのが、中盤のアンカーに森重真人を起用したことだろう。W杯ブラジル大会ではセンターバックをつとめたDFが本職の森重を、2試合ともにMFの最後方に置いた。ウルグアイ戦では森重の前は田中順也と細貝萌で、ベネズエラ戦では柴崎岳と細貝という構成に変更したが、アンカーと呼ばれるあの位置に森重を置いて、縦に速いサッカーをするというのは、失点のリスクを減らしたいという意図の表れでもある。

 前任のザッケローニ監督は、理想を追い求めて攻撃で特色を出そうとしたが、あとを受け継いだアギーレ監督は「勝つためにはどうすればいいのか」という現実的な思考をもとに、失点を減らすことに力点を置いているといえる。

 また、本田圭佑を右アウトサイドのFWで起用したことにも、アギーレ監督の特徴が表れていた。一般的な4−3−3であれば本田を左か右のMFに置いて司令塔的に起用する手もある。だが、アギーレ監督はそうしなかった。それは中盤の選手に求める役割が違うからだろう。

 アウトサイドのFWには、中央に入ってきてプレーできる選手を置き、中盤には守備がしっかりできる選手を起用する。そうしたチーム構成にアギーレ色が出ていた。

 また、この2試合で課題も浮き彫りになった。

 ひとつ目が、アギーレ監督自身が各選手の特徴をきちんと把握できているのかということ。中盤の左で起用した田中順也は、前線のアウトサイドで思い切りプレーした方が持ち味を出せる選手。ピッチの中央で戦況を判断しながらゲームを組み立てることや、守備力が長所の選手ではない。その田中を2戦とも中盤で起用したのは期待の表れなのか、それとも彼の特徴を把握できていないからなのか。メンバー構成も含め、今後、各選手の起用法がどうなっていくのか興味深い。

 次に、4−3−3というフォーメーションの弱点をどのように消していくかという課題もある。この布陣の場合、1枚のボランチの両脇のスペースを相手が狙ってくるため、そこで攻撃の起点をつくられてしまう。今回の2試合でも相手のセンターフォワードがそのスペースを上手に使い、味方からの縦パスを受けるシーンが数多くあった。これを許してしまうのは、ボランチだけの責任ではなく、DFラインの位置や距離感、ボランチの前にいる中盤の選手がプレッシャーをかけてコースを限定できなかったなど、理由はいくつかある。

 いずれにしろ、相手にいい形でパスをつながれたことで、DFラインが下がってしまった。この部分をアンカーの森重と、センターバックの吉田麻也、水本裕貴らDF陣が今後どう修正していくのか。守備は個人でできるものではないので、組織としての規律と、それを徹底させるためのトレーニングの時間が必要になる。

 さらに、2試合で4失点を喫したが、そのほとんどはDFライン付近でのビルドアップでのミスが原因だった。とくにウルグアイのような強豪チームは、こちらがミスをしたらそのミスを見逃してはくれない。

 ビルドアップに問題があった理由としては、日本代表のメンバーが代わったということや、陣形を4−2−3−1から不慣れな4−3−3に変えたということもあるだろう。しかし、一番大きな要因は、そもそもビルドアップできる選手を起用していなかったことだと私は考えている。

 森重はセンターバックとしてビルドアップをする経験はあるが、アンカーやボランチとしてのビルドアップに関しては経験があまりない。中盤の底は相手がパスカットを狙って激しいプレッシャーをかけてくる危険なエリアであるため、味方からボールを引き出して、正確なロングフィードを前線に送るのは、非常に難しい仕事だ。

 そのためミスが多くなり、それが失点につながった。ただ、守備面は不安が少ない森重だけに、この位置でのフィード能力が向上すれば、アギーレ監督のやりたいサッカーが、現実的になってくるはずだ。

 また、DFラインからビルドアップする時に、4−2−3−1に比べて、4−3−3ではDFがボールを預ける守備的MFの数が、ふたりからひとりに減る。しかも、今回の親善試合で、ボランチの前の中盤で2試合とも起用された細貝は、DFラインからボールを引き出して、パスを散らすタイプではなく、体を張って相手の攻撃の芽を摘む"潰し屋"タイプ。ベネズエラ戦で先発した柴崎岳は、パスを散らせるタイプといえるが、初戦のウルグアイ戦に中盤で出場した田中順也は本来FWの選手だ。

 その起用法を見ていくと、アギーレ監督は、「ビルドアップはほとんど必要ない」というメッセージを込めてメンバーを決め、選手をピッチに送り出したのかもしれない。アンカーの位置からビルドアップするとボールを失うリスクがあるが、そこを省略してセンターバックからのロングフィードで前線のFWにパスを出せば、そのリスクは減る。アウトサイドの本田圭佑、柿谷曜一朗や、1トップが落としたところを2列目のMFが受けて、ダイレクトでサイドに展開すればゴールのチャンスが増える。

 現在の世界のサッカーのトレンドは、縦に速いサッカー、つまり、ゴールに直結するダイレクトプレーの多いスタイルになっている。後ろでゆっくりボールを回しながら相手を崩すよりも、縦パスを素早く入れた方が相手の脅威になり、相手のミスを誘発しやすくなる。

 たとえば、ブンデスリーガのドルトムントの場合、センターバックが縦方向にフィードを蹴る回数が多いため、ほかの欧州のクラブのセンターバックよりパス成功率が低いが、縦にスピーディーでアグレッシブなサッカーを実現している。そういったサッカーへと日本代表のスタイルを転換させていくために、アギーレ監督は、あえて中盤にビルドアップ能力の高い選手を起用しなかった可能性もある。

 ただ、そのサッカーを実行するには、20m、30mの距離のロングフィードを正確に蹴る能力がDFに求められる。フィードの精度が低ければDFラインから前線に蹴り込んでいるだけになってしまうからだ。

 また、フィードを受けてボールをおさめる1トップとサイドのFWには「強さ」が求められるが、日本にはそういう選手がなかなか存在しない。こういった問題に対して、これからアギーレ監督がどんな手腕を発揮するのか楽しみにしたい。

 まだアギーレ・ジャパンは始まったばかり。新しい選手たちが日本代表に呼ばれ、試合に起用されたことで、日本人選手全員へ「日本代表への門戸は、誰にでも開かれている」とアピールできたのではないか。

 今月のアジア大会に出場する若い選手たち(U-21)のなかからも、今後代表に招集される選手が多く出てくるだろう。10月、11月と4試合あるテストマッチで、どんな選手が呼ばれて、どういったサッカーを見せてくれるのか、注視していきたい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro