『大人エレベーター』(扶桑社)
それは、大人を旅する不思議なエレベーター。次の階には、どんな大人が待っているんだろう───。
サッポロ生ビール黒ラベルの人気CMが書籍化。

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蘇る中村勘三郎。

明日(13日)のWOWOWでは、18代目中村勘三郎の意思を受け継いでニューヨーク公演を果たした二人の息子、中村勘九郎と七之助による平成中村座ニューヨーク公演「怪談乳房榎」と、ドキュメント映画『映画 中村勘三郎』が独占放送される。

また、10日には同じく中村勘九郎と七之助が記者会見し、17代目中村勘三郎の二十七回忌と18代目中村勘三郎の三回忌の追善興行を10月と11月に2ヵ月連続で行うことを発表した。

中村勘三郎が急逝してもうすぐ2年。
後を受け継ぐ息子たちにどんな言葉をかけたいか……といっても確かめる術はない。
ところが、生前にこんな言葉を残していた。

「僕の場合、子どもも芝居やってるんですよ。僕の親も芝居やってたから、自分はその間の中継ぎって感じで生きていますね。うちのオヤジがやったことが、僕の肉体や考えを通して子どもに伝えられていく。先輩の芸を後輩に受け流しているような気がします」

サッポロ生ビール黒ラベルの人気CMを書籍化した『大人エレベーター』に収録された言葉だ。
あれだけ名を成した名優が、自分のことを「中継ぎ」と捉えているところが素直にカッコいい。

中村勘三郎が出演した黒ラベルのCM自体は、2010年1月に放送。
妻夫木聡が乗る“大人を旅する不思議なエレベーター”が止まった54階で、同じ54歳(当時)のCharとともに、フライを肴に美味しそうに黒ラベルを飲みながら「大人論」を交わす姿が印象的だった。

ただ、CMはわずか15秒や30秒。
その裏では、その何十倍もの時間をかけて撮影を行っているのが普通のCM事情だ。
ロングバージョンがWEBで公開されることもあるが、それだって長くて3分ぐらいがせいぜい。
本書にはそんなCM映像に収まり切らなかった、著名人たちの濃密な「大人論」が収められている。

54階 中村勘三郎&Char
46階 リリー・フランキー
77階 仲代達矢
44階 スガ シカオ
25階 白鵬
55階 佐野元春
64階 高田純次&岸部一徳
45階 斉藤和義
56階 竹中直人
46階 古田新太
47階 奥田民生
35階 中村俊輔
HALL リリー・フランキー、奥田民生、斉藤和義

それぞれの大人論、人生論が、ほとんどの場合「仕事論」と結びついてくるのが面白い。
そして共通するのは、過去よりも今、そして未来志向の人間が多いことだ。

「大人とは、『歴史をつくる人』だと思いますね。だから、自分もこれから自分の歴史をつくっていく大人になっていきたいなと思います」(25階・白鵬)

「まあ、生きるとは、恥をかく回数だよね。たとえば64になったから、恥をかくことはもうなくなった、なんてことはないですもんね。残り少ない人生でいくつ恥をかくか、どう乗り越えていくか、それだけのような気もするな」(64階・高田純次)

「若い頃なんかに戻りたくないもん。まず芝居が下手だしね。なのにうまいと思ってるのがあからさまに匂ってきて、この若造がって思うね」(46階・古田新太)

「それは今のがいいよ。今のほうがモテるんじゃない?(笑)」(47階・奥田民生)

「どんどんサッカー選手としての終わりが近づいてくるにつれて、やれることやっときたいっていうのがいちばんですね」(35階・中村俊輔)

中でも最高齢(当時77歳)の仲代達矢は、自分の先しか見ていない。
「生きるとはね、死ぬまで頑張ることかな。死ぬ時にはね、ああ、俺は生きたんだと思えるといいですね」

こんなことがサラッと言える大人になりたいなぁと思う自分は、今日もビールが苦い。
(オグマナオト)