全米オープンテニス。放映権を持っていたのがWOWOWだったため、錦織の快進撃をお茶の間でライブ観戦した人の数は、思いのほか少なかった。

 NHKは公共放送の使命感に駆られたのか、急遽、決勝戦を何時間か後に録画放送したが、結果が分かった後なので、世の中への貢献度はいまひとつ。遅きに失した感がある。

 WOWOWの加入世帯数は約260万。日本の総世帯数が約4800万なので、ライブ観戦できる環境にあったのは、18.5世帯に1世帯の割合になる。

 根っからのテニス好きは、この18.5分の1の中に含まれているだろうが、テニス好き以外の人が見なければ、テニスは普及発展していかない。新たなテニスファンは生まれにくいのだ。

 テニスは時間の読みにくいスポーツ。2時間足らずで終わる場合もあれば、5時間も掛かる場合もある。番組の編成が難しいため、地上波では扱いにくいスポーツだという話を聞いたことがある。しかし、それは日本に限った話ではない。世界共通の話だ。

 海外旅行の経験が多い人はお分かりかと思うが、現地のホテルに到着して、テレビのリモコンをいじっていると、かなりの確率でテニスの試合に遭遇できる。

 それは、スポーツ専門チャンネルが存在することと大きな関係がある。ライブ中継もあれば、録画中継もあるが、この24時間ぶっ通しでスポーツばかり放送するチャンネルの存在が、その普及発展に寄与していることは紛れもない事実だ。

 テニスに限った話ではない。

 日本でもスカパー、WOWOW、さらにはNHKのBS等は、スポーツに力を入れているが、スポーツをテレビで観戦する環境は、やはり良好ではない。海外から日本に帰国し、テレビのリモコンをいじれば、スポーツ後進国に来たような寂しい気持ちに襲われる。テレビ画面を通してスポーツに接する機会が少ないのだ。

 日本の過去と比べれば、ずいぶんマシになったとはいえ、世界基準には依然として大きく劣っている。

 何と言っても見にくい、分かりにくいのだ。例えばサッカー。スカパー、WOWOW、NHKBSともに、ウチはこのリーグを放送していますと言って存在をアピールするのだが、見る側は、局で見る見ないを判断しているわけではない。見たい試合は、局に関係なく見たいという願望がある。

 だが、スカパーとWOWOWは別会社で、契約もそれぞれ結ぶ必要がある。NHKだって有料と言えば有料だ。手続きが面倒くさいだけでなく、とても割高なのだ。ひとつの局でやってくれたらどんなに楽なことかと思ってしまうのは僕だけではないと思う。

 スポーツ専門チャンネルの誕生を願わずにはいられない。チャンネル1はサッカー、2は野球、3はテニスとゴルフ、4は格闘技、5はモータースポーツ、6は五輪競技……。これが延々24時間流れているような局があれば、日本のスポーツ熱はいまの何倍も高まると思う。

 子供たちがスポーツを始めるきっかけは様々だが、テレビ観戦はその大きな要因のひとつになる。ふと見た試合に感激し、のめり込んでいくケースは少なくない。なにを隠そう、僕もその一人だ。テレビで見たメキシコ五輪が、ボールを蹴るきっかけだった。

 五輪はそのまたとない機会になる。サッカーはいまではW杯の方が、遙かに大きなウエイトを占めるが、スポーツを盛んにしようと思えば、きっかけとなる絶対数をいま以上に増やす必要がある。

 ソチ五輪の期間中にも書いたが、日本のテレビは、この五輪のすべての競技をカバーしていたワケではない。日本人選手がメダルに絡みそうな試合しか放送しなかった。アイスホッケー、スキーのアルペン、クロスカントリーといった五輪のメジャー種目は、キチンと放送されていない。いわゆる日本人の人気選手の後ばかりを追いかける、応援報道になっていた。

 これでは、それを機に、この3競技を始めようとする子供たちは生まれないだろう。日本人が得意とする競技の幅は広がっていかないのだ。

 出来るだけ多くの種類の競技を見せる。見る機会を与える。五輪で多くのメダルを取りたいのなら、スポーツ大国になりたいのなら、テレビはそうした役目を果たす必要がある。

 2020年東京五輪にも、スポーツの普及発展という大義名分があるはずだ。

「競技スポーツを始めるきっかけ子供たちに与えたい」

 その招致活動に参加していた五輪元選手はそう語っていた。しかし、東京で開催される五輪といえども、実際にスタンド観戦できる子供は数少ない。全体の1%未満に過ぎない。99%以上の子供はテレビ画面を通してのお茶の間観戦になる。そこで、テレビがいつものような応援報道を行えば、東京で開催した意味はなくなる。選択の幅は広がらない。スポーツファンの絶対数も増えていかない。立派なスタンドを作るのも良いが、すべての競技をテレビでフルに見せるシステムを作り上げることはそれ以上に重要だ。

 日本のスポーツ界の浮沈のカギを握るのはテレビ。全米オープンテニスを見ながら、改めて僕はそう思うのだった。