ロックTシャツとかしこいインディ 〜Vol.13 「ファッション」特集に寄せて

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2014年9月10日(水)発売となった雑誌『WIRED』VOL.13。特集は「Fashion Decoded:ファッションはテクノロジーを求めている」。本誌編集長が、最新号に寄せて綴る。

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最近、若い女の子が、いわゆるロックTというヤツを着ているのをよく見かけるのだけれども、かわいいなとは思いつつも、この際正直に、ちょっとイラっとしなくもないということを白状しておこう。

ロックTを着るには資格がいる、と考えるのがオールドスクールなロックファンというもので、基本ロックTはライヴ会場で買ったものを着るというのが原則だ。ライブも見ないでそのバンドのTシャツを着るなんて言語道断、ファンの風上にも置けない。ライヴに行くときは、前回のツアーのものを着て出かけるのが真に正しいありよう、これぞ忠誠心の証、と、ぼくなんかはわりと本気で思っている。

だから、メタリカ、とか、ジューダスプリースト、とか、デカデカと書かれたTシャツを着た女の子を見ると、「ねえ、聴いたことあんの?」と、いらぬおせっかいで聞いてみたくなる。もっとも向こうにしてみれば、それがバンドの名前であろうがなかろうが、ただ、それがいまオシャレだから着ているのだろうし、ぼくも「ファッション」がそういうものだということは理解してみせはするのだが、とは言いつつ、なかばふてくされ気味に、「だからファッションってのはキライだよ」と思ってしまったりもする。

「ファッション」は、そういう意味ではアンビヴァレントな言葉で、日常会話のなかで「それってファッションでしょ?」って言うとき、それはあまりいい意味ではなく、表層的で上っ面なもの、という意味になる。つまり、ロックおじさんから見たロックファッションは、なにをもってそれを本質とするかはさておいても、ロックの本質から遠い何かに見えてしまう。ファッションは、このとき「本質(的なもの)」の対義語である。

とはいえ、自分で選んでそれを着ている以上は、やはりその人なりの本質に、それはどこかで根ざしているはずなので、それを他人からとやかく言われる筋合いもない、というのも真実だろうし、どだいガチでロックTを着てるヤツの暑苦しいメンタリティはダサいという相場観を、ぼくだって認めるにやぶさかではない。


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最もアナログな業界と言われてきたファッションの世界に、デジタルテクノロジーがもたらされたとき、いったい何が起こるのか。未来のイノヴェイターたちや、スタートアップ・デザイナーのブランド論、7つのケーススタディからその未来を探る。


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特集内の「かしこいインディ:スタートアップ・デザイナーたちの次世代ブランド論(本誌P.46〜)」で取材した、アレックス・ミルのシャツ。ファウンダーのアレックス・ドレクスラーは、「ぼくらが大切にすべきは戦略じゃない。自分たちのものづくりにおいて正しい決断をし、矛盾がないか、日々確認すること」と語る。 PHOTOGRAPH BY BRYAN DERBALLA

おそらく、ファッションというものの終わることなき挑戦は、こうしてときに乖離しすぎたり密着しすぎたりする表層と本質の距離をいかに設定するのか、というところにありそうで、それはつくる側にとっても着る側にとっても同じだろう。

価値観の多様化なんていうことがずっと盛んに叫ばれているけれど、それがもし本当であるならば、おそらくかつてメディアが主導したトップダウンなファッショントレンドは、今後ますます相対化されていくことになるのだろうとなんとなく感じるのは、デジタルコミュニケーションのおかげで、つくり手がじかにユーザーに語りかけはじめたりするからだ。そこにおいてはつくり手とユーザーの間の価値観の共有といったこと、つまりは、お互いの本質の見極めがより重要なものとなってくる。

最近の流行りの言い方をするならば、つくる側と着る側双方の「エンゲージメント」がより求められるようになるということで、そうしたつくり手とお客さんの新しい関係性の最良の例として、たとえばバーバリーのチーフ・クリエイティヴ・オフィサー兼現CEOのクリストファー・ベイリーをして、アップルを「現代における最もラグジュアリーなブランド」と言わしめたりするのは、ある意味、こうした時代の変化を端的に象徴しているのかもしれない。

より成熟した消費社会に生きるぼくらは、おそらくこれからもっと、お仕着せではない、より自分に近い何かを丹念に選びとりながら、日常の暮らしを構成していくこととなる。そして、そうした、よりパーソナライズされたライフデザインを実現するためのツールは、デジタルテクノロジーの恩恵もあって、各方面で揃いはじめている。

今回のファッション特集では、そうしたツールのほかに、3つのブランドを取り上げているけれど、それというのも、少なくともぼくには、彼らが、それこそアップル以降の新しいやりかたで、表層と本質をめぐる距離に挑んでいるように見えるからだ。彼らは、もはやトレンドや、業界のしきたりは気にしない。それどころか、そんなものがまるで存在しないかのように、自分が本質的と信じられるものを信じて、ただシンプルにそれに打ち込む。それを、ぼくなんかは、まるでインディロックのバンドかレーベルのようだなと思いながら、うれしさとともに、そのシャツをいそいそ着てみたりする。

そういうブランドのありようを、特集内では「スマート・インディ」と名づけてみたのけれど、彼らの服は、自分が好きなものをまとってるという安心感と着心地のよさを、たしかに与えてくれる。その感覚が何に似ているかといえば、ぼくにとっては、大好きなバンドのロックTを着たときの、ちょっと誇らしげな、あの感覚だったりする。

日本版『WIRED』編集長 若林 恵

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特集「Fashion Decoded:ファッションはテクノロジーを求めている」のほか、ゲリラ豪雨などの異常気象に迫った「おかしな天気」や墨田区の“FABタウン”計画、シェアリング・エコノミーと新しい「信頼」のかたち、tofubeatsの特別寄稿など盛りだくさんの一冊。

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