【漫画】『ハイスコアガール』だけじゃない! “休載・中断・回収”になった漫画あれこれ

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先月5日、アニメ化も決定している人気漫画『ハイスコアガール』にメーカー側の許諾を得ていないゲームキャラクターが複数登場していることを受け、発行元のスクウェア・エニックスに著作権侵害の疑いで家宅捜索が入った。ニュース番組でもたびたび報じられたので、ご存知の方は多いかもしれない。

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『ハイスコアガール』は1990年代を舞台に、おバカで快活な少年(ゲーム好き)、才色兼備で無口な少女(隠れゲーム好き)たちが繰りひろげる異色の“ゲーセンラブコメ”作品。作者・押切蓮介氏のシリアス&ギャグを織り交ぜた独特な作風、そして何より当時流行していた『ストリートファイター2』や『サムライスピリッツ』など実在のゲームがそのまま登場し、ストーリー中で重要な役割を果たすところがファンの心を惹きつけた。

今回は作中で使われた『サムライスピリッツ』含む2タイトルの権利者・SNKプレイモアに“ゲームキャラの出演許諾”を取っていなかったことが問題となっている。

単行本の巻末にはゲームの権利を持っているカプコン、コナミ、セガなど各社とともにSNKプレイモアの社名も掲載されているが、実際はSNKプレイモアだけ無許諾だったとのことで、ネット上でも「編集部は何やってたんだ?」と多くの批判が飛びかった。

『ハイスコアガール』はこの問題後から連載を休止しており、単行本も通常版・電子コミック版を含めすべて回収。アニメ化の行方を心配する声もある。スクウェア・エニックスも本業はゲーム会社なのに、“他社ゲームの権利”を甘く見たツケはあまりに大きかった。

今回は『ハイスコアガール』が話題の中心になったが、実は過去にさかのぼると、さまざまな理由で“休載・中断・回収”になった漫画作品がある。その代表的な事例を調べてみた。

■“問題描写”が物議をかもした作品

1990年、当時すでに500万部の発行を誇っていた週刊少年ジャンプで『燃える!お兄さん』の一部描写が問題視され、掲載号のジャンプが回収される騒ぎとなった。もともと『燃える!お兄さん』(作:佐藤正)は野生児の主人公・ケンイチを中心に展開される過激なギャグが特徴だったのだが、学校の用務員をとりあげた回はその描写が行き過ぎ(職業の蔑視)だと見られ、関連団体からクレームが届くほどだった。

実際にそのエピソード中では「役に立たない教員が格下げされて用務員になる」との偏見を与えかねない描写や、ケンイチが用務員を蔑んだり、暴力的手段に出たりするシーンもある。よく読めば職業差別の意図はなく、ケンイチの嫌いな早見というキャラクターがたまたま用務員になっていたに過ぎないのだが、全国の少年に広く読まれている少年ジャンプの掲載作であることを考えると、回収と謝罪文掲載の判断は妥当だったのかもしれない。

差別にならぶ漫画描写のタブーといえば、カニバリズム(人肉食)が話題になることも多い。有名なところでは1996年に週刊ヤングサンデー連載中の『マイナス』(作:沖さやか)が人肉食描写によって雑誌ごと回収となっている。主人公のさゆりは過去のトラウマにより“他人に嫌われないためなら何でもやる”という歪んだ設定で、そんな人格と女教師という職業のギャップが異彩を放つ作品だった。

問題となったのはさゆりが山で遭難するエピソードで、「重傷を負った少女を助けない」「それどころか動物を捕らえるワナの“エサ”として少女を使う」「死んでしまった少女を焚き火で焼いて食べる」……など問題描写のオンパレード。さすがにこれは出版元の小学館も擁護できるはずなく、雑誌回収のうえに単行本未収録とされた。後にこのエピソードまで収録した完全版コミックスが他社から出ており、今でも読むことは可能だ。

古くは1970年、週刊少年マガジンの連載作『アシュラ』(作:ジョージ秋山)も同様に人肉食が問題となり、未成年者の購入が禁止される騒ぎとなった。

平安末期の飢饉時代を舞台にしているだけあって、『マイナス』ほど人肉食のインパクトはないが、描写全体が過酷かつ過激で、当時は各方面から激しい非難を浴びていたという。その一方で作品のテーマ性は非常に深く、連載から40年以上が過ぎた2012年にアニメ映画化を果たしている。

漫画やアニメで“人肉食”をどこまで表現して良いのかは非常に難しい問題だと思う。アニメ版『ONE PIECE』(作:尾田栄一郎)ではサンジの恩人が飢えて自分の足を食べる原作シーンが別描写に差し替えられ、ファンからの反応は賛否さまざまだ。

ほかに少年ジャンプ作品に限っても、たとえば『封神演義』(作:藤崎竜)では、あるキャラクターが自分の息子を材料にした肉料理を食べさせられるショッキングなシーンが描かれたことがある。

また、『キン肉マン』(作:ゆでたまご)では強豪超人のラーメンマンが対戦相手を真っ二つに引き裂いて殺害する原作シーンがあったが、アニメ版では“対戦相手をリング上でラーメンにして食べてしまう”描写に変更された。「ラーメンにするなら人間(超人だが)を食べても良いのか?」「むしろ原作描写よりも残虐になっていないか?」など疑問に感じた視聴者も多いようだが、特にこれといって謝罪・回収騒ぎには至っていない。

■“性的描写”が有害とみなされたケース

1989年の幼女連続誘拐殺人事件(宮崎勤事件)がお茶の間を賑わせた直後から“オタク=犯罪者予備軍”という風潮が強まり、以前にもましてメディア・教育関係者・市民団体などが“暴力・ポルノ的コンテンツから子供たちを守ろう!”と叫ぶようになった。

真っ先に批判にさらされたのは、当時すでにアニメ化され人気だった『北斗の拳』『ドラゴンボール』などの格闘バトル作品。しかし調べてみると意外なことに、暴力描写そのものが理由になって回収・絶版騒ぎになった漫画作品は見つからない。

代わりに次々と絶版を強いられたのが、性的描写を前面に出した漫画だった。月刊少年マガジン連載の『いけない!ルナ先生』(作:上村純子)が絶版、同作者による『1+2=パラダイス』が実質上の打ち切り、サングサンデー連載の『ANGEL』(作:遊人)が絶版になるなど、“一般誌に掲載されるお色気コメディ漫画”が有害コミックとして狙い撃ちにされる形となった。

これら絶版作品の多くは後に成人向け漫画として復刊されたため、完全に闇へ葬られたわけではない。だが上村氏は当時の異常なバッシングに納得いかなかったらしく、復刊された『いけない!ルナ先生』の巻末にわざわざ短編を描き下ろしてまで、行き過ぎた表現規制への反論を述べている。

“暴力的・性的なコンテンツが実際の犯罪行動につながるかどうか?”はさまざまな研究が行なわれ、否定的な学説が現在は多いようだ。公表されている犯罪統計データでも、漫画やアニメが普及するにつれて性犯罪の件数は減少している。

しかし“オタク=犯罪者予備軍”という強固なレッテルは今なお残り続けており、何か事件が起きると「逮捕された犯人は○○というアニメが好きだった」といった話がさかんにメディアから報じられる。今月1日、アニメ規制の必要性をテーマに放送された討論バラエティ番組「ビートたけしのTVタックル」でも、アニメは犯罪行為を誘発するという研究者の説が提示され、その賛否をめぐってネット上で大きな議論が巻き起こった。

今年6月に成立した「改正児童ポルノ禁止法」ではひとまず漫画・アニメなどの創作物が規制から除外されたが、まだまだ“過激なコンテンツを規制すべきかどうか?”の議論自体は続いていきそうだ。

■とんでもない理由で葬られた漫画も!?

最後に、ちょっと普通では考えられないような経緯で問題になった漫画を紹介したい。

前代未聞のスケールで“盗作”が発覚した作品としては、2007年に講談社のマガジンドラゴン第1号で発表された『メガバカ』(作:豪村中)が有名。週刊少年マガジンの増刊にあたる同誌では新人作家10名が読者投票で“少年マガジン本誌への掲載権を競う”企画が催され、その候補作である『メガバカ』から多量の盗作が見つかったのだ。

実際に検証サイトでのまとめを見てもらえば早いが、ほぼ全ページ、全コマにわたって『DEATH NOTE』など人気漫画からの盗用・トレースが見つかっている。

講談社は盗用の事実を認めて謝罪文を掲載し、『メガバカ』は選考の対象外とされた(雑誌回収までは至っていない)。結局、この騒動でケチがついたためか、マガジンドラゴンは2009年に第2号を出して以降の動きがまったくない。講談社公式サイトからもマガジンドラゴン特設ページが消滅しているのを踏まえると、おそらく“黒歴史”として雑誌ごと葬られてしまったのだろう。1つの盗作漫画を気づかずに掲載してしまったことが、マガジンのブランド名に泥を塗った形だ。

珍しさで『メガバカ』騒動に匹敵するのが、成人向け漫画『恋するウシチチ』をめぐる“モザイク入れ忘れ騒動”だ。作者の真鍋譲治氏は同じペンネームで一般向けと成人向けの商業作品を描いている漫画家の1人。一般向け作品としてはアニメ化もされた『アウトランダーズ』『銀河戦国群雄伝ライ』がよく知られている。

騒動は2009年に起こった。『恋するウシチチ』の単行本が真鍋氏のもとへ届いたが、なんと出版元の辰巳出版が“成人漫画で隠さなければならない部分”を無修正のままにしていたミスが発覚。作者みずから出版社へ怒鳴り込んだというものだ。この違法スレスレどころか完全にアウトな初版コミックは回収されることになったが、一部が書店にならび読者の手に渡ってしまったらしい。自身に何の落ち度もなかった真鍋氏は当然のように激怒し、『恋するウシチチ』連載を終了させないまま辰巳出版との縁切りを宣言。最終的に本作は同人誌で完結させたという。

冒頭の『ハイスコアガール』の件もそうだが、漫画回収・絶版をめぐる騒動には「出版社(編集部)がもっとしっかりしていれば……」と惜しまれるケースが多い。多くの作品を抱える編集者が多忙なのはもちろん分かるが、漫画家が余計なことに気をとられず全力で創作に打ち込めるよう、こまやかなサポートを心がけて欲しいものだと思う。