「勝てない相手は、もういないと思う」

 いつになく強気な発言をした錦織圭が、2014年USオープン(全米OP)で、その発言が確信に満ちたものであることを、自らの力で証明し続けている。

 準々決勝では、今年のオーストラリアンオープン(全豪)優勝者で、第3シードのスタン・ワウリンカ(世界ランキング4位/スイス)との4時間15分におよぶ5セットマッチを錦織が制した。日本男子としては、1918年の熊谷一弥以来96年ぶり、1968年のオープン化(プロ解禁)以降では、初となる準決勝進出となった。

 4回戦と準々決勝、2戦連続で4時間を越える試合を強いられた錦織。5セットにもつれた試合の勝敗は、これで通算10勝2敗となった。負けの1回は、男子国別対抗戦デビスカップでの敗戦なので、グランドスラムでは、まだ1度しか負けてないという驚異的な強さだ。

 さらに、フィジカルで大きな問題がないのは、今シーズンのマイアミ大会やマドリード大会で、ケガで途中棄権していたことを踏まえると、ニューヨークでの収穫といえる。

 元プロテニスプレーヤーの杉山愛は、かつて錦織のテニスを次のように語っていた。

「圭のテニスは、爆発力がある。それがあるからこそ、トップ選手から勝利をもぎ取れる。でも、その代償があって、圭は体を痛め、故障につながっていた」

 しかし今、24歳になった錦織は、強敵を打ち破る爆発力のある自らのテニスと、少しずつ強化されてきた身体能力のバランスが、ようやく取れてきている。

 その錦織の強さは、第1シードのノバク・ジョコビッチ(1位/セルビア)との準決勝でも、いかんなく発揮された。湿度が70〜80%、気温が31〜32度というニューヨークでは珍しくタフなコンディションになったが、試合後半になって、いつものプレーができなくなったのは、ジョコビッチだった。

 王者に対して、試合の主導権を握っていたのは、錦織だった。試合中、錦織の足はよく動き、速いテンポでボールを打ち返して、ジョコビッチにストロークのリズムをつかませなかった。また、ジョコビッチのセカンドサーブでのポイント獲得率がわずか37%にとどまったのは、リターンやラリーで、いかに錦織がジョコビッチにプレッシャーをかけていたかを物語っている。世界一のディフェンスを誇るジョコビッチから、フォアもバックも13本のウィナーを奪ったのは、特筆すべきことだ。

 4セットで敗れたジョコビッチは、もはや錦織の武器が、フォアハンドストロークだけではないことを痛感させられた。

「今、圭はフォアハンドだけに頼らない。彼のバックハンドは、とても安定している。本当にアグレッシブだ。動きがとても速く、ボールを打ち返して来る。浅いボールはすべてアタックしてくる。オールラウンドプレーヤーだと思うね」

 ついに錦織は、USオープン準決勝で王者ジョコビッチを破り、自身初となる決勝進出を決めた。グランドスラムで決勝に進出するのは、日本テニス史上男女を通じて初めての快挙だ。新たな歴史をつくった錦織のATPランキングは、この時点で自己最高の8位になることが決まっている。

「もちろん嬉しいですけど、レコード(歴史的記録)は気にしないです。グランドスラムの決勝に出ることは、僕にとって初めてのことなので、もちろん緊張したりもするだろうけど、しっかり気持ちの準備を整えておきたい」

 錦織が17歳の時、初めて一緒に練習した時から彼の才能を評価していたロジャー・フェデラー(3位/スイス)は、別に衝撃的なことではないといった様子で、次の時代を担う選手が出現したことに喜んでいるようだった。

「圭は、すでに僕を2度も破っている。(2014年の)マドリードの決勝では、ラファ(ラファエル・ナダル/2位/スペイン)を圧倒した。圭はできる限りの力を示してきた。だから圭の活躍に関して、本当に驚きはない。圭は、USオープンで素晴らしいテニスをしている」

 決勝の対戦相手は、準決勝で第2シードのフェデラーをストレートで破り、初めてグランドスラムの決勝に進出した第14シードのマリン・チリッチ(16位/クロアチア)。錦織より年齢がひとつ上で25歳だが、「(準決勝で錦織は)ベースラインからのプレーが、ノバクよりものすごく良かった。ツアーで、そんなことができる選手はそう多くないよ。圭は、すごく進化している」と、錦織の成長を認め、警戒している。

 共に初めてのグランドスラムの決勝を戦う錦織とチリッチについて、フェデラーは「どちらが勝ってもおかしくない」と語るが、錦織は、念願のグランドスラムタイトル獲得へ前向きだ。

「自信がついてきて、強い選手もしっかり倒して、いいテニスができてきている。このまま調子を落とさずにやれれば、絶対に行けると思います」

 USオープンの決勝で、錦織は、今一度「勝てない相手は、もういない」ことを示さなければならない。それは、初となるグランドスラムタイトルのかかる究極のチャレンジとなる。

神仁司●取材・文 text by Ko Hitoshi