バカにしていた西野カナの新曲「Darling」に、妙に心惹かれる理由
 音楽に対してどれだけオープンマインドを心がけていても、やはり年月を重ねるほどに自分の趣味は固まっていってしまうもの。そんなつもりはないのに気が付けば最新のヒット曲を知らない。とならないためにMTVやらスペースシャワーやらエムオンTVやらを流しておくことは、案外大切なことなのかもしれません。

 そうすることで、本当は嫌うどころかバカにしているはずのアーティストなのに、妙に気になってしまう曲に出会うきっかけを与えてくれることもあります。それが8月13日にリリースされた西野カナの最新シングル「Darling」でした。

◆わざとらしい”個性”を放棄した気持ちよさ

 “会いたくて震える”界のパイオニアとして知られる西野カナですが、その詞を読むとそうして揶揄されるものが彼女の購買層に向けた最大公約数的な記号に過ぎないことが分かります。しかし詞を書くことの作家的な側面が放棄されているからといって、言葉の形そのものまで粗末に扱わないところが彼女のしたたかさなのですね。

⇒【YouTube】西野カナ『Darling MV(short ver.)』 http://youtu.be/sawxwunW7G0

<Ah なんで好きになっちゃったのかなぁ 私って少し変わり者なのね
Ah こんなにも放っておけない人は 星の数ほどいる中で
ねぇ Darling あなたしかいない>

「このぐらいの詞なら誰でも書ける」。

 そう思う人もいるかもしれません。確かに内容においてはその通りです。

 しかし日本語としていびつなところが一つもなく、メロディのオチに向かってきちんと意味もシンクロしていく詞を書くとなると話は別です。もっとも、それはソングライティングの基本中の基本だとも言えるわけですが、果たして今のヒットチャートを見渡してその基本をクリアしている曲が一体どれだけあるでしょうか。

 いずれにせよ西野カナは、「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」だとか「猟奇的なキスを私にして」だとか書くソングライターよりも、よほど勇敢で誠実な作家だと言えるでしょう。

◆“どこにでもある小品”に宿るポップスのチカラ

 そんな詞と同様、曲とサウンドの慎ましさも「Darling」の魅力です。西野カナの曲としては珍しくバンジョーやアコースティックギターなどの生楽器が中心のサウンドなのですが、その鈴鳴りのような響きは活かしつつ余韻がカットされているので無駄にオーガニックさが強調されずに心地よい冷たさが生まれているのですね。なので全体にオルゴールのような可憐なチープさになっているとも言えるでしょうか。

 そして西野カナと言えば、金切声に近いハイトーンで決めのフレーズを絶唱するスタイルが代名詞ですが、この曲ではそんなキーの高さを踏まえたうえで彼女に全力を出させない配慮の行き届いたメロディラインが際立っています。

<ねぇ Darling ねぇ Darling>

 このフレーズで一番高い音が出て来るのですが、それをサビではなく冒頭に持ってきたこと。そしてそばで眠っている彼氏に心の中で呼びかけるという曲の持つシチュエーションから、歌い手に強く発声することをあらかじめ禁じているのですね。そこで半分裏声のようなトーンで最高音を歌わせて、「Darling」という曲の柔らかなイメージを最初の一発で決めてしまっている。

 その基点があるからこそ、サビが無理なく流れるように聴こえてくるのではないでしょうか。作曲を担当した山口隆志はセッションギタリストだということ。久々によいポップスを聴いたという充実感があります。

「Darling」は、「この曲に出会うために音楽を聴いてきた」と言いたくなるような大作では決してありません。その詞と同様、なんてことのないどこにでもあるような小品です。ですが「なんで好きになっちゃったのかなぁ」と無関心の聴き手にも思わせるもの、それこそがポップスの力であるように思います。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>