検証ザックジャパン(7)
原博実専務理事インタビュー(後編)

ブラジルW杯で日本代表の指揮を執ったザッケローニ監督。彼を招聘したのは、日本サッカー協会の原博実専務理事(前技術委員長)である。同監督の指導、手腕については、どう評価しているのだろうか――。

■敗因は攻撃と守備のバランスが崩れたこと

―― 前回は本番までのチーム作りについてうかがってきましたが、今回はまず、日本代表のサッカーについて聞かせてください。日本は「攻撃サッカー」ということをうたっていましたが、ブラジルW杯における日本の戦いぶりについてどう評価していますか。

原:「攻撃サッカー」と言っても、攻撃と守備は表裏一体ですからね。攻撃だけして、守備はしない、ということはないんです。ザッケローニ監督も、最初に重視するのは守備で、チーム作りは常に守備から取り掛かってきましたから。ただ、今大会に関して、守備はもちろんですが、攻撃に重きを置いていた、というのは事実でしょう。それまでのように、いい守備ができていれば、もっといい攻撃ができていたと思います。特に問題だったのは、左サイドの守備。相手に押し込まれて、中途半端な対応をしてしまった。結果、本来日本の武器である左サイドの攻撃力も半減していた。それが、W杯というものなのでしょうね。日本の左サイドは、対戦相手からかなり研究されていたように思います。

―― 攻撃と守備のバランスは明らかに悪かったですね。

原:守備に追われてしまって、攻撃のスタートポジションが悪いからなのか、ボールの動きもちょっと遅くなっていましたね。それで、ザッケローニ監督が意図する、サイドで数的優位を作る、ということもできなくなっていました。ミスが多くて、ボールの奪われ方が悪いから、相手に逆襲を食らうシーンが目立った。すべては、攻撃と守備のバランスが崩れたことが原因だと思いますね。

 あとは、海外でやっている選手たちは大きな舞台に慣れていると思っていましたが、W杯になるとまた違う緊張感があったのか、予想していたよりも動きが重いように見えました。もうちょっと力を出せると思ったんですけど......。逆に、我々が心配していた長谷部誠、内田篤人、吉田麻也といった、長い間戦列を離れていた選手のほうが、思った以上にやれていた。彼らはコンディションが万全ではないという思いがあるから、自分がやれることだけをやろうと、あまり多くのことを望まずにシンプルにプレイしていた。それが、よかったのかもしれない。他の選手は、もっといいプレイをしてやろうと、多少気負っていた面があったのだと思います。

■ザッケローニ監督の解任は一度も考えなかった

―― さて、ザッケローニ監督の評価についても聞かせてください。

原:日本人のよさを十分に理解して、それを生かす、ということをよくやってくれました。W杯では結果は出なかったけれども、彼がやってきたことは、決して悪くなかったし、今後につながっていくものだと思います。だから、すべてにおいてマイナス評価になることはないです。

―― そもそも4年前、「次期代表監督がまだ決まらない」とメディアで叩かれて、慌ててザッケローニ監督に決めてしまったということはないですか。

原:今回のアギーレ監督のように、早く決まれば決まったで、またいろいろと文句を言われる。難しいですね。ザッケローニ監督については、慌てて決めた、ということはないですよ。前回のW杯(2010年南アフリカ大会)が終わって、そこから動き出したわけでもないですし。

―― そうなんですか? いつから探していたんですか。

原:2009年に、僕が技術委員長という立場になってからです。正式なオファーは出していませんが、今度の代表監督に決まったアギーレをはじめ、ペジェグリーニ(当時レアル・マドリード監督/スペイン→現マンチェスター・シティ監督/イングランド)や、バルベルデ(当時ビジャレアル監督/スペイン→現在アスレティック・ビルバオ監督/スペイン)らと同じように、ザッケローニとも早くから接触していました。それは、技術委員長としては、当たり前の仕事ですよ。

―― 南アフリカW杯が終わったあと、犬飼基昭会長(当時)が岡田武史監督に続投要請をしていましたよね? ですから、ゼロの状態から新たな監督を探していると思いました。

原:岡田監督への続投要請は出していません。その情報は間違っています。南アフリカ大会における岡田監督については、技術委員会でも高く評価しました。岡田監督らしく、堅実な戦い方をして、ベスト16という素晴らしい結果を出しましたからね。でも、当時技術委員会が考えたことは、これからさらにレベルを高めて、日本が世界のトップレベルで常時戦えるようになること。そのためには、世界最高レベルにあるクラブの指揮をとって、世界トップクラスのリーグ、あるいは欧州チャンピオンズリーグを戦ってきた経験がある人、日本よりもレベルの高い国の代表経験者に、代表監督を任せるべきだ、ということで技術委員会の考えはまとまっていました。

 また、かつてオシム監督が突然倒れてしまったことがありましたけど、監督自身ではなくても、家族が病気をされたりしたら、その看病に専念するために、急に代表監督を辞めなければいけないこともあるかもしれません。それに、外国人監督の場合、東日本大震災のようなことが起こると、さすがに日本にはもう住めないと言って帰ってしまうことも。技術委員会としては、そうした緊急事態は常に想定しておかなければいけない。だから、僕が技術委員長になってからは、今誰がフリーでいるのか、あるいはもうすぐ(クラブや代表チームとの)契約が切れそうな監督は誰か、そうした情報はいつでも把握していて、すぐに接触できる状況を整えていました。それも、技術委員長としての仕事のひとつです。
―― そうした情報は、我々にはまったく伝わってきませんでした。

原:そんな情報は出しませんよ。実際に日本代表監督を務めている方がいるわけですから。技術委員会としては、そのときの監督を全力でサポートしていきます。しかし、その一方で不測の事態への備えは常にしていなければなりません。それは、Jリーグの各クラブのGMも一緒だと思います。

―― そうしてリストアップしていた中で、ザッケローニ監督は何番目の候補だったんですか。

原:何番というものはありません。実際にいろいろな話をしての感覚とか、印象、そのときのお互いの状況や、タイミングというものがありますから。

―― ザッケローニ監督は代表チームを指揮した経験がありませんでした。それについて不安を感じることはなかったですか。

原:代表監督の経験があれば、それに越したことはないと思っていました。でも、ビッククラブを指揮した経験があって、高いレベルでの戦いも知っている。多くのスター選手も指導しているし、最初から代表監督をやっている人はほとんどいませんから、問題はないと思っていました。もちろん、ザッケローニ監督にとっては、今回が初めての代表でしたから、彼自身には戸惑いがあったかもしれません。練習をやりたくても、やれないから、ストレスを感じているようなところはありました。その辺は「これが代表監督ですよ」と、こちらでフォローしていました。

―― 最初の2年の任期を終えたとき、続投がすんなり発表されました。その際、このままザッケローニ監督でいいのか、議論することはあったのですか。

原:それまでの2年間を見て、アジア最終予選、そしてW杯まで任せられる監督だと、評価しました。それは、技術委員会を含めて、協会全体としての判断です。外国人監督の場合、再契約の際に他のオファーと天秤にかけたりして、お金の問題などでもめることがあるのですが、ザッケローニ監督の場合はそういうことも一切ありませんでした。

―― 僕は、文句なしに続投させるほど、決定的な仕事をしていたとは思いませんでした。W杯アジア3次予選では、アウェーの北朝鮮戦(0−1)で負けて、ウズベキスタン(0−1)にはホームで負けましたからね。

原:すでに3次予選の突破を決めたあとで、北朝鮮戦は新しいメンバーに出場機会を与えられたし、ウズベキスタン戦ではいろいろな課題を確認できたと思います。しかし、それを問題視することはありませんでした。あそこでの敗戦によって、最終予選を勝ち上がることが決して楽なことではないと、感じてくれたほうがいいと思っていました。実際、その思惑どおり、最終予選には選手、監督を含めてみんなが気を引き締めて臨んでくれて、オマーン戦(3−0)、ヨルダン戦(6−0)と、最高のスタートを切ってくれました。海外組、国内組のコンディションもよくて、ザッケローニ監督の4年間の中で、最もパーフェクトな仕事だったと思います。

―― でも、4年間の中では、波がありました。監督を代えようと思った瞬間、というのはなかったですか。

原:それはないです。チームには常に波があります。ザッケローニ監督とは多くのことを話し合ってきました。解任しようなんて思ったことは一度もないですね。

―― もっとこうしてほしい、ああしてほしいと、ザッケローニ監督のやり方に注文をつけたことはありませんか。

原:こちらから「ここはもっとこうしてほしい」と言ったことはいろいろとありましたよ。ザッケローニ監督からもさまざまな要望がありましたし。でもそこで、それはできる、それはできないと、お互い正直に答えて、お互いが納得できる回答を出していました。だから、こちらから不信感を抱くことはまったくなかったですね。コミュニケーションはうまくとれていたと思いますし、人間的にも素晴らしく、尊敬できる監督でした。

―― しかし、最後に結果は出ませんでした。

原:それは、彼も選手も私たちもみんな悔しいです。ザッケローニ監督は、いまだに「選手たちの力をもっと引き出すことはできなかったんだろうか」とか「もっといい試合ができたはずなのに」と、日々悔やんでいるという話を聞いている。もちろん結果が出なかったことに対しては、私たちにも責任はあると思っています。

―― 原さんの責任はあると思いますけど、辞められても困ります。原さん以外に代表監督になる人材を探せる人はいませんから。アギーレ監督にたどり着ける人は、他にはいません。原さんが仕事をしないと、日本が抱えているさまざまな問題は片付いていかないと思いますよ。

原:協会の組織も強化していかないといけないし、Jリーグを含めて日本のサッカーのカレンダーというものを、よくしていかないといけない。今は、Jリーグがあって、ACLがあって、ナビスコカップ、天皇杯......それで代表の試合がある。スケジュール的には、もうパンパンなんですよ。この何年か、シーズンスケジュールについてはずっと先送りにしてきましたけど、これを早く解決しないといけない。その課題にしっかりと取り組んでいきます。

杉山茂樹●インタビュー interview by Sugiyama Shigeki