国のリーダーが独裁化することへの危険性はたびたび指摘されていることであり、誰もが共通の認識としてもっているだろう。同じことは会社組織でも起こりやすく、それを防ぐために改正会社法が成立した。しかし大前研一氏は、この改正法が経営に良い効果をもたらすと考えるのは幻想であると指摘している。

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 社内の人間だけだと内向きになってトップに物申すのが難しくなる、外部の目によるチェックで不正をなくして効率的な経営を促すといった理由から、大企業に事実上「社外取締役」の起用を義務づける改正会社法が、先の国会で成立した。来年4月施行の見通しだ。

 しかし、これは企業経営の現場を知らない“素人”の戯言(たわごと)であり、幻想である。

 私自身、コンサルタントとしてオーナー経営者のアドバイザーを数多く経験してきた。また、フィル・ナイト会長率いるナイキや孫正義社長のソフトバンクなど、多くの会社の社外取締役を務めたが、こと事業戦略において有効な提言ができた社外取締役は見たことがない。なぜなら、社外取締役はその業界の人間ではないからだ(同業者は選任できない)。

 大半は他業界の経営者、弁護士、会計士、あるいは天下りの元役人である。そういう人たちが業界の専門的な知識や経験を必要とする事業戦略で役に立つはずがないだろう。

 企業というものは、トップが真っ当にマイルドに民主的に経営していて事業が順調に伸びている場合、社外取締役の役割はない。そういう時は、最も事業分野に詳しい社員たちがやる気になって本業に取り組めばよいのである。

 社外取締役が必要なケースは二つしかない。一つはトップが独裁化して暴走し始めている場合、もう一つはトップがあまりにもだらしなくて能力がない場合だ。

 前者の場合、社外取締役は「トップが誤った判断をしたら身を挺して止める」ということしかできない。“独裁者”は勝手気ままに弾を撃つから誤射も多いが、そのうちの1発か2発は、社外取締役が身を挺すれば止められる。しかし、独裁者の性格までは絶対に変えることができないのだ。

 また、社外取締役が独裁者に対して耳の痛いことを言えば、次の任期では再選されない可能性が高い。社外取締役を事実上義務化しても、再任されないことを恐れず、独裁者に諫言(かんげん)することができるような人物を起用しなければ、何の意味もないのである。

 一方、後者の場合、社外取締役はダメ経営者に「そろそろ辞めたほうがいい」と進言し、有能な後継者を準備しなければならない。なぜなら、日本企業の場合はダメ経営者でも株主総会で辞任に追い込まれることは滅多になく、周囲の圧力がなければ、できるだけ長く居座ろうとするからだ。

※週刊ポスト2014年9月12日号